アートディレクターの川谷康久に聞く マンガのタイトルデザインの考え方 |
川谷康久
[かわたに・やすひさ]グラフィックデザイナー。2001年に独立後、川谷デザインを設立。少女マンガをはじめとするマンガの単行本のブックカバーや、「別冊マーガレット」などの少女漫画誌の表紙デザインを行う。「マーガレットコミックス」、「花とゆめコミックス」などのフォーマットデザインも手掛ける。 url.kawatanidesign.jp/ |
「ラブ★コン 2/中原アヤ」 2002/集英社 川谷さんが初めてブックカバーを手掛けた作品。このころのマーガレットコミックスは、上部に金色の帯があり、その下にタイトルを配置。フォーマットがかっちりと決まっていた。 |
◎少女マンガのデザインを手掛けるようになった経緯を教えてください。 「最初は、広告系のデザイン事務所に勤めていたんです。6年くらいいたと思うのですが、辞める1年くらい前に『別冊マーガレット』(以下、別マ)の次号予告のデザイン仕事が舞い込んできたんです。正直、広告メインの事務所だったので全員、専門外で……。でも、僕は少女マンガが好きなこともあって、“やりたいです!”と手を上げて(笑)」 ◎何年くらい前の話でしょうか? 「十何年前でしょうか? 当時で思い出すのは多田かおる先生のこと。別マの予告のデザインをするのに、多田先生のカットだけ来ないんですよ。どうしたのかと思ったら、夜中に予告担当の編集者から“多田先生が亡くなった”と。もう衝撃で、丸一日ぼーっとしてて。だから僕が予告をやっていたのはその頃だというのは覚えているんです」 ◎その後、独立してカバーデザインを手掛けるようになると。 「いえ、まだ全然! 別マの中で徐々に連載マンガの扉ページのデザインをやらせてもらえたり。独立した頃は予告とこの扉ページ以外は何も仕事がありませんでした(笑)」 |
◎初期に担当した扉ページは? 「中原アヤ先生の『ラブ★コン』。これが大ヒットするんですね。映画やアニメになったりとか。少女マンガのデザインでご飯が食べられたらいいな、という夢が現実に近づいた気がしたんですね。ただ、扉をやっているデザイナーが単行本のカバーをやるというようなことはあまり聞いたことはありませんでした」 ◎それはなぜですか。 「正しくは把握していないのですが、当時は編集プロダクションが一括して少女マンガの単行本のカバーを手掛けてたんだと思います。その頃は少女マンガの多くは、カバーのフォーマットはカッチリとしたものでした。マーガレットコミックス(以下、MC)だと金帯があって、絵とロゴと作家名を入れる場所というのがおおよそ決まってたんです。さすがに、タイトルはゴナで打ちっぱなしということはありませんでしたが」 |
◎それがどうしてカバーをやることに? 『担当の編集さんが、MCの『ラブ★コン』2巻('02年)で“川谷さん、やらないか?”って。これが生まれてはじめての装丁でした」 ◎1巻と2巻でフォーマットは違うんですか? 「フォーマットは同じで、作っている人間が違うという(笑)。デザイン的な変化はなかったのですが、でも、ロゴの色を決めるのは当時は結構重要だったりした。巻ごとにどういう色をメインに出して展開していくのかとか。季節のことを考えるのもそうですよね。夏っぽいときは寒色のタイトルの方がいいか、みたいな(笑)」 ◎最初は、そういったところから始め、徐々に切り開いていった? 「いや、切り開こうなんて思ったことはないんですよ! 僕としては、少女マンガの仕事をやれてうれしかった。なので、フォーマット早く崩したいなーとか、そういう気持ちもまったくない。むしろ、このままでいいって思っていました。ただその何年か後に、MCのフォーマットを変更しよう、自由度を高くしようという話が持ち上がって、その時に自分がフォーマットのデザインをしました。いまはカバーの表1側に、『MC』というマークが入っていればいいという感じです。ただ背側はきちんとルールがある。あと袖とかほかにも細かい仕様は決まってます」 |
「君に届け 1/椎名軽穂」 2006/集英社 この作品から、川谷さんは定形のフォーマット上でデザインをすることから変われたという。それは自身と業界の意識の変化、両方があってのようだ。これもマーガレットコミックス。 |
◎それは本当にすごい仕事ですよね。 「本当に! 実は、MCの背表紙の王冠マークとか、フォーマットをバージョンアップするにつれて、ちょっとずつ調整したりしてるんですね。こういう部分を触るのって、本当に神の領域だなと思いながら、調整するわけです(笑)」 ◎フォーマットの自由度が上がったことで、カバーのデザインが一気に変わったという感じですか? 「いえ、自分自身がフォーマットから完全に抜けられたな、と感じたのは『君に届け』の1巻('06年)。それより前でも、レイアウトは自由で、バックにどんな色を引くか、柄入れたりするかとか、いろいろ試せたはずなんですけど、何か自分自身がそれまでのフォーマットに縛られていたような気がします」 ◎でも、いまの川谷さんのカバーデザインは、特にタイトルのタイポグラフィの自由度が高くてすばらしいです。 「そうですか? ありがとうございます。ただ、特別な意識はないんです。僕は、連載ページの扉から入ってきているので、扉=ロゴみたいなところがあって。そこの延長線上でやっているような気がします。その絵に合う、押し出しの強いものといいますか。マッチしながらも、目立つもの。目立たないといけないと思うので」 ◎なにか、絵とタイポグラフィが一体化しているような感じがするんです。 「それは僕がいちばん気にしているところかもしれません。というのは、やっぱりカバーは絵がメイン。タイトルを自分が入れて、絵が死んでしまったらいやだな、と思います。できる限り、絵もおいしいところが見えながら、文字も生きてくる。お互いが生きてくる関係を探っているといいますか」 |
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本記事は『MdN』2013年10月号(vol.234)からの転載です。
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