マンガタイトルデザインの考え方2 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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アートディレクターの川谷康久に聞く
マンガのタイトルデザインの考え方
川谷康久
[かわたに・やすひさ]グラフィックデザイナー。2001年に独立後、川谷デザインを設立。少女マンガをはじめとするマンガの単行本のブックカバーや、「別冊マーガレット」などの少女漫画誌の表紙デザインを行う。「マーガレットコミックス」、「花とゆめコミックス」などのフォーマットデザインも手掛ける。
url.kawatanidesign.jp/


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「リュウマのガゴウ 1/宮下裕樹」
2012/少年画報社
インタビュー中で語られている通り、大きなサイズで組まれたタイトルを、絵の上にそのまま被せているようなカバーデザイン。なのに、絵に自然と目がいく不思議。
◎具体的にはタイトルと絵の関係性をどのように考えてますか?
「説明が難しいのですが……。自分の中では、絵に対して同一平面に文字を配置するというよりは、手前や奥、といったレイヤーみたいなものを感じながらレイアウトしています。例えば『残光ノイズ』などは、絵のレイヤーの中に文字が埋もれているイメージです。“埋もれ系”といった感じでしょうか」

◎なるほど、よく分かります。
「それに対して、『リュウマのガゴウ』は“被せ系”と言ったらいいのでしょうか。レイヤー的に手前からタイトルを被せる。被せるときってタイトルや作家名、巻数などの文字要素すべてをひとつの塊のように組むのですが、そうなると手前の文字が大きいのに、なぜか奥のイラストに目がいくんです。手前の大きい物のピントがぼやけて、奥のイラストに焦点が合うみたいな?」

◎面白い話です! 書体についてはどうお考えですか?
「大枠としてゴシックにするか、明朝にするか、みたいな話ですよね。判断材料としては、当たり前ですが内容や読後感によります。打ち合わせでも“しっとりした内容なので明朝でいきますか?”といった話はよくしますね」
◎逆にゴシックは……。
「フラットなイメージのときに……ってそのままなんですが(笑)。登場人物の感情をあえてストレートに描いていない作品とかあると思うんです。そういう場合はゴシックがいいのかな。あと、短篇集といったいろいろな話が入っている場合など、ひとつのイメージでくくるのは無理だな、というときにゴシックを選ぶことなどもあると思います。といっても、話はそんなに単純ではなく、内容とギャップをもたせた方がいい場合もあったり」

◎感情が揺さぶられる内容だけど、タイトルはフラットなゴシック体で組んで、
 そのミスマッチ感を狙うみたいな……。

「そのとおりなんですよ。そういったものが発動する条件ってなんなんでしょうね。僕はデザインするとき、タイトルは明朝とゴシック、ほとんど両方を作るんですよね。どっちもハマりそうだなとか、ギャップがありえそうなときもあるんで。自信がないので、そういう感じなんですけれども」
◎川谷さんは、書体はいろいろと揃えられていたりするのですか?
「MORISAWA PASSPORT(モリサワ)はもちろん使っています。あと、LETS(フォントワークス)ですとか。MORISAWA PASSPORTは、今年は何書体追加される、という話を聞くとすごくワクワクするんです(笑)。ただ、本屋で装丁などを見たときに、逆に文字のバリエーションが減ってしまったのかな、と思うときもあります」

◎バリエーションが減ったというのは?
「フォントが今みたいに自由に使えないときのほうが、作り起こしの文字が多かった気がするんです。今は数があるぶん、その中からそれなりにお似合いなものを選べてしまう。自分も含めて、そうなりがちなのかな、という話なんですが。とはいえ、あまりタイトルロゴに気を取られてしまうと、全体のレイアウトが考えられなくなってしまうんです。同じ文字でも、置く場所によって印象も変わるじゃないですか。それなのに、“読みやすくて目立つロゴを!”みたいなことになっていくと、ひとつのパッケージとしての魅力がおろそかになってしまう感覚が自分にはあって」
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「透明人間の恋/安藤ゆき」
2013/集英社
川谷さんの近作。P037で紹介したものと同じマーガレットコミックスだが、定形フォーマット感はない。「筑紫Aオールド明朝-R」による優雅なタイポグラフィが印象的。
◎文字だけに意識が行っているのではなく、全体の絵を作っている感じ?
「そうです、そうです。カバーって、イラスト、そしてタイトルの文字を含めてトータルとしてのひとつの絵なんですよね。だから、タイトルの文字も既存の書体でイメージに合うものがなかったら作り起こすべきだし、イメージに合うんだったら素直にフォントを使えばいい。タイトルロゴに気を取られすぎると、そんな当たり前なことが見えなくなってしまうのかな、と」

◎少女マンガのブックカバーは、デザインの自由度がこの数年で上がっているのではと思うのですが。
「すごくあがったと思います。昔は“このトリミングで、絶対動かさないように”という作家さんもいらっしゃいましたが。今は逆に、こちらで自由に提案させて頂けるようになってきました。もう、コラージュも当たり前の時代。イラストの切り抜きをデータで渡してもらって、それがどう劇的に変わってくるんだろうと、楽しみにされる作家さんや編集さんもいらっしゃる。『あえて、これは塗らない方がいいですかね?』みたいなことを作家さん自らに言って頂けることもありますね」

◎でも、そういうようなワークフローに変わったからこそ、先ほど話に出たタイトルの“埋もれ系”、
 “被せ系”みたいな自由度の高いレイアウトが生まれるのかもしれません。

「そうだと思います。理由をつけていくとそうなんでしょうね。時代の変化、ワークフローの変化などが全部同時に来ている感じはあります。と、いろいろとお話しましたが、実は普段はこういったことはあまり考えてなくて。“自分が関わった作品がきちんと重版がかかりますように”と思いながらデザインをしているだけなんです(笑)」



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本記事は『MdN』2013年10月号(vol.234)からの転載です。

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