第3話 シリーズものの広告デザイン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、高井薫氏のアートディレクション術に迫る。第3話となる今週は、「united arrows green label relaxing」の広告に注目。アイデアの生まれるプロセスとシリーズものならではのポイントとは?



第3話 シリーズものの広告デザイン


レーベルのイメージを
大きく外さず変化させる術



──前回、前々回とは異なり、今回はまさに「広告」の分野の作品ですね。

高井●この「united arrows green label relaxing」(以下green label)の仕事は、依頼のときに課題がしっかりと決まっていたんです。それまでは弊社の葛西薫が制作した、ロゴのグラフィックデザインと文章でブランドをつくりあげていたのですが、この回からは「とにかく服を見せたい。できるだけ全身が見えるようにして、服がブレたりせずにキッチリ写ったものにしたい」といった要望がありました。個人的には、ブランドイメージを変えることに少し戸惑いがあったのも事実です。ただ、服を見せたいという要望はファッションブランドとしては切実なものですから、そこは絶対に裏切ってはいけないと考えましたね。

──とはいえ、ただ服を見せるだけでは退屈なものに陥りがちですよね。どのような工夫を盛り込んだのでしょうか?

高井●プラスアルファの要素を考えたときに、まずロゴを使ってユニークな設定を作ろうと思いついたんです。そこで出たアイデアが、ロゴマークを紙ふぶきや涙、足跡などに見せるというもの。これならgreen labelの緑のイメージも出せるし、リラックスの雰囲気も出る。もちろん洋服もしっかりと撮影できるので、クライアントの意向も反映できると考えました。


──ロゴを紙ふぶきに置き換えたカットでは、実際に紙ふぶきを降らせて撮影しているのですか?

高井●そうなんですよ。だから、大量に紙ふぶきを作って、撮影して片付けての繰り返し(笑)。1回の撮影に時間がかかるので、1つのシチュエーションに対して、あまり多くのシャッターを切れなかったんです。ただ、そういった場合のほうが現場も盛り上がるし、いい効果を生み出すこともあるんですよね。

──なるほど。そうして高井さんの作る新しい「green label」の広告が展開され始めたわけですが、次のシーズンでは、また少し違ったアイデアが盛り込まれましたね。


高井●どのようなビジュアルにするかを、参考写真に落書きしながら考えたんです。ロゴの形のスポットライトを描いたりしていたのですが、それをそのまま撮影するのも面白いなと思いつきました。ただ、ライトって、当然ですが写真に撮影しても写らないんです。だから、壁と床にそれぞれ絵でライトを描いて作っているんです。騙し絵なわけですので、壁と床の絵が1つのライトのように見える角度は一点しかない。だから、まずアングルやモデルの立ち位置を決めてから絵を描き始める。そして最後に撮影したわけです。これも時間がかかりましたね。

──それ以降にも、さまざまな面白い広告が作られてきましたよね。

高井●次のシーズンで展開した、洋服だけの写真に紙のロゴマークやボタンで顔を描いた広告も、参考写真に落書きをしながら考えたアイデアです。さらに次のシーズンでは、振り付け師の方に依頼して、撮影現場でポーズを決めてモデルを撮影しています。男女2人が全く同じポーズをしているという構図も、あまり見かけなくて面白いと思いませんか?










──確かに楽しげな雰囲気が伝わってくる広告に仕上がっています。

高井●毎回同じ制作メンバーで、もう4回目にもなるところだったので、モデルのモチベーションを下げないためにも、楽しいことをやろうと思ったんです。そういったことも、アートディレクターの大切な仕事だと思っているんです。ただ、ユーモラスなんだけれども、ファッションだからカッコ良くという、ギリギリのところを狙うように注意はしています。

──マンネリを防ぐことも必要で、それと同時に同じファッションブランドによる広告なので、全く違うものに見えてはいけないですよね。特に気をつかったことなどありますか?

高井●それほど大きくは気にしていないですね。というのも、スタッフが同じメンバーで、ADが私ですので、どうしても大体のテイストは似てしまうんです。さまざまな工夫を盛り込んだとはいえ、私の振り幅の中でデザインできているはずなので、絶対に大きくは外さない自信はありました。それに「green label」のイメージを崩さないように心がけていましたから。たとえば同じ「united allows」の中で、「another edition」も担当していたのですが、そちらは少し尖った女の子のためのブランドなので、もう少し思い切ったデザインをすることもあったんですよ。それに対して「green label」のほうは、商品の値段も押さえめでしたので、ファミリーでも楽しめる絵を作っているんです。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第4話は「広告とグラフィックの混合」について伺います。こうご期待。


[プロフィール]

た かい・かおる●1967年東京生まれ。多摩美術大学卒業。サントリー宣伝制作部を経て2002年よりサン・アド。最近の仕事には、サントリー、ユナイテッ ドアローズ グリーンレーベル リラクシング、アナザーエディション、CLASSICS the Small Luxury 、Franc francなどがある。ADC賞、朝日広告賞グランプリなどの受賞経験がある。

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