最終回となる第4話。JAGDA新人賞を受賞したことによって、グラフィックデザインの作品も増えたという高井氏。今回紹介するのは、その象徴ともいえるスリッパと折り紙を題材とした2つの作品だ。
第4話 広告とグラフィックの混合
得意なアートディレクションに
グラフィックデザインを混ぜられるのが強み
──まずはスリッパについてですが、これはどのような経緯で制作されたものでしょうか?
高井●2006年のJAGDA新人賞を受賞した3人、つまり菊地敦己さんと関本明子さんと一緒に展覧会をしたのですが、来場者に記念となるようなグッズを作ろうということになって、スリッパをデザインすることにしたんです。制作に際しては、4×7cmの範囲内で1色でしか印刷できないという制約がありました。それぞれ工夫を凝らしたのですが、やはりここでも私は「履く」というポイントに注目したんです。
──スリッパのシズルに重点を置いたわけですね。
高井●そうです。そしてスリッパにしかできないことをしようと考えて、1つは靴のように見せました。あと、靴と違って左右の区別がないのも、スリッパならではの特徴ですよね? そこで、それを逆手にとって「右」「左」という文字を印刷したものを作ったんです。これは面白いですよ。自分から向かって左右に履く人と、反対に相手から左右に見えるように履く人とがいるんです。なかなか深いですよね(笑)。
──印刷する際に使用する色は自由に選べたのでしょうか?
高井●いくつかの候補の中から選べました。最初は、全部白で刷ろうと考えていたのですが、印刷工場へ刷り立ち会いに行ったときに、他の方がピンクを使っているのを見て「いいな」と思って……。それで「ちょっと借りていい?」とお願いして使わせてもらいました(笑)
──ちなみに、色が特徴的な作品として、高井さんの制作なさった折り紙も魅力的ですよね。
高井●これは鳥の模様を描いてある折り紙なんです。展開図のような構造にしているんですよね。鳥をイメージしているので、本物のカワセミやウグイスの色味を参考にしています。パターンとして描いたのは3種類くらいで、それを色変換して使っているんです。
──そのほかのデザインも含め、高井さんの作品には独特な色の雰囲気を感じます。作品を作るときに、色味はどのように決めているのでしょうか?
高井●無意識なのですが、やはり自分の中で好きな色というものはあるのでしょうね。原色に近い赤や緑といったような濃い派手な色を使うのは元々あまり得意ではなくて、白っぽい柔らかい色のほうが微妙な違いがわかりやすいんです。たとえば先ほどの折り紙も、私ではないデザイナーが同じものを作ったとしたら、確かに違う色になるとは思いますね。
──話が前後しますが、2006年のJAGDA新人賞を受賞されていかがですか?
高井●JAGDA新人賞はグラフィックデザインの賞なのですが、私は広告キャンペーンの仕事が多かったので、実はJAGDAの賞を獲れることはないだろうなと思っていたんです。ただ昨年は、割とグラフィックデザインを見せられる機会も多かったと思うんですよ。自分が普段やっている得意なアートディレクションに、ちょっとグラフィックデザインを入れたことで、世界が広がったなとは感じています。
──受賞してから考え方やスタイルが変わったということもあるのでしょうか?
高井●あまり考え方は変わりませんが、グラフィックデザイン寄りの仕事は増えましたね。そういった仕事をするのが、今はあらためて新鮮で楽しいです。とはいえ、クライアントが抱えている問題の解決を手助けするアートディレクションの仕事のほうが、やはり得意であると感じています。グラフィックに関しては、私よりうまい人はいっぱいいると思いますし。ただ、その2つを混ぜることができるのが私の強みなのかもしれませんけれどね。
──グラフィック作品にアートディレクションのエッセンスを活かすということでしょうか?
高井●それもありますし、もちろんその逆もあります。おそらく、両方に携わる機会がある人って、それほど多くはないと思うんですよ。だから、それが「自分らしさ」だと信じて、突き進まないといけないなと感じています。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第5回高井薫さんのインタビューは今回で終了です。次回からは尾原史和さんのお話を掲載します。
高井●それもありますし、もちろんその逆もあります。おそらく、両方に携わる機会がある人って、それほど多くはないと思うんですよ。だから、それが「自分らしさ」だと信じて、突き進まないといけないなと感じています。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第5回高井薫さんのインタビューは今回で終了です。次回からは尾原史和さんのお話を掲載します。
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[プロフィール] た かい・かおる●1967年東京生まれ。多摩美術大学卒業。サントリー宣伝制作部を経て2002年よりサン・アド。最近の仕事には、サントリー、ユナイテッ ドアローズ グリーンレーベル リラクシング、アナザーエディション、CLASSICS the Small Luxury 、Franc francなどがある。ADC賞、朝日広告賞グランプリなどの受賞経験がある。 |




