第2話 兄弟誌のアートディレクション | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて


第1話に引き続き、SOUP DESIGNの尾原史和氏のアートディレクション術に迫る。今回は、リクルートが発行するフリーマガジン「R25」の女性版として創刊された「L25」をピックアップ。


第2話 兄弟誌のアートディレクション



比較対象となる前例があったので
デザイン上の制限は多かった



──「L25」は、尾原さんが手がけられている「R25」の女性版とのことですが、これも駅などで配られるのでしょうか?

尾原●そうですね。「R25」と近いところに置かれていきます。ただし、単純に横並びにするのではなく、もっと新しい配布場所も開拓していく予定です。ターゲットが女性の場合、男性向けのものと同じような見せ方をしてもダメで、少し特別な印象で価値の高いものにしたほうがいいんです。だから配布用のラックも「R25」よりポイントを絞っている。とはいえ、それでも部数は約40万部と相当な数になるんですけれど。

──「R25」の女性版であることは、デザインする際にも大きく影響したのでしょうか?

尾原●「R25」のときは、比較対象となる前例がなかったため、あまり悩まずに作れたんです。でも「L25」は「R25」の横展開なので、同じようなデザインにするか、それとも全く違うデザインにするかと、最初から選択肢があった。「R25」は、それほど男らしすぎないように、比較的ユニセックスな方向性でデザインしているので、それとの落差をどう出すかも難しかったです。女性版だからといって、あまりにも女性向けを強調し過ぎると、「R25」との関係性からは正しくないだろうと。前例があることによって、すごく制限がありました。

──男性版、女性版という対極の関係ではなく、むしろ近い雰囲気も持っていますよね。

尾原●今まで「R25」を読んでくれていた女性の読者が、新たに「L25」を取ってくれることも重要なので。そこは意識しながら作っていきました。

──ただ、全く同じでは女性版ということが分かりませんよね。違いを出したのは、どのような部分でしょうか?

尾原●女性らしく見える色を多めに使うようにはしています。特にピンクは「R25」では絶対に使わないようにしているので。実は「R25」が始まるときから「女性版を作ることになったら、ピンクが基本色になるだろう」ということは話していたんですよ。

──なるほど、そんなに前から企画として想定されていたんですね。続いて、文字についてはどうでしょうか?

尾原●タイポグラフィーに関しては、それほど「R25」と違いを持たせていないんです。最初の頃は、文字を全て明朝体にするようなアイデアも出ていて、それによってロハス本のような方向性にすることも考えられたのですが、それではターゲットが絞り込まれてしまって部数を稼げなくなるんですよね。

──そのような多くの要因が絡み合って、「R25」の兄弟誌であることと女性向けであることが両立されたデザインになっているわけですね。

尾原●あとは、フォーマットの段階から、連載ページなど外部のデザイナーの方にお願いしている部分があることも影響していると思うんです。「R25」よりも色々な人の手が入って違いが出ている。それが女性向けの媒体にはいい影響を与えると考えています。一般的な女性誌は、記事ごとに全く違ったデザインがされていることも多いですし、読者もそういったものに見慣れていると思うんです。









──逆に、すっきりと統一し過ぎてしまうと、女性向けらしさが出ないということでしょうか?

尾原●記事ごとのデザインが同じに見えて、内容までが同じもののように見えてしまうと、読者にとっては読みづらいかもしれません。たしかに統一させた方が、デザインがより際立ってくるし、キレイにも見える。そちらのほうがデザインとしては、むしろ簡単な面もあるんです。文章の中身がキツい内容だったとしても、キレイなデザインに落とし込めば、単純な見た目の統一感は出していけるでしょう? どちらかというと「L25」は、言葉や内容によってデザインが影響を大きく受けています。

──表紙についてのデザインのポイントもお聞かせください。

尾原●表紙でも、使用書体はほとんど「R25」と同じなんです。コンテンツをカテゴライズして配置するのも「R25」と同じ手法だし。だからまず、そこで近い雰囲気を出しています。

──確かに少し似た印象もありますが、やはりちょっと違う部分もありますね。

尾原●「R25」よりも、より情報を詰め過ぎず、ゆとりを持たせることに気を配っているんです。女性誌はとにかく情報が詰まりすぎる傾向があるので。それと、色味や地に敷いた模様でも違いを出しています。

──文字の色は、毎回変えずにピンクのままで統一させていくのですか?

尾原●できるだけピンクで変えずにいきたいとは思っているんですが、記事との関係で違う色を使うべき場面もあるだろうし、試しながらやってみようと考えているところです。書籍だと極端な「固定」か「変動」かという選択肢しかないですけれど、少しずつ変えていくような実験的な曖昧さも許容されているのが、雑誌の特徴ですからね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第3話は「トータルでのディレクション」について伺います。こうご期待。



[プロフィール]

おはら・ふみかず●アートディレクター。1975年高知生まれ。印刷会社のデザイン部門、アジール・デザインを経て、1999年デザイナー、シェフ、建築家らの編成でSOUP DESIGNをスタート。2003年(有)スープ・デザイン設立。近年のおもだった仕事には『R25』、『relax』、『NEUTRAL』などの定期刊行物、『北欧デザイン』をはじめとした書籍、『SHIPS』、『TAKEO KIKUCHI』などの広告制作物などがある。

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在