第3話 トータルでのディレクション | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、SOUP DESIGNの尾原史和氏のアートディレクション術に迫る。第3話で紹介するのはコミック誌「週刊モーニング」(講談社)の25周年キャンペーンのディレクション。印刷物のみならず、イベントスペースを利用したキャンペーン企画の舞台裏に迫る。


第3話 トータルでのディレクション



エディトリアルでも空間でも
何より重要なのはコンセプト




──今回ご紹介いただける「週刊モーニング」25周年キャンペーンの仕事は、どのように発注されたのですか?

尾原●キャンペーンのディレクションを全て担当してほしいという依頼でした。この仕事では、企画段階から打ち合わせに参加して、書店で置かれるポスターやPOPをはじめに、とにかくたくさんのものを制作しました。

──どういった企画を出したのでしょうか。

尾原●「とにかく今までによくあるキャンペーンとは違うかたちのものをしよう」と。書店での見え方から始まり具体的な印刷物まで、色んなアイデアを出しました。あわせて「展覧会をしよう」と提案して、最終的に青山のスパイラルで「manga展─マンガとコーヒーとモーニングの白い公園で─」と名付けられた展示会が実現したんです。

──なぜ今回のキャンペーンに展示会が必要だと考えたのですか?

尾原●紙媒体だけでは伝えきれないものもあるからです。今まで読まなかった人に対しても、どういう漫画雑誌なのかが一瞬にして理解できることだったり、駅や書店で見るだけではなくて、体感することによってこそ記憶に残ると思ったので。絶対にイベントはやったほうがいい、と主張したんです。


「週刊モーニング」25周年キャンペーンのディレクション。企画段階から関わり、たくさんのものを制作した

──そのスパイラルでの展示会には、どのようなアイデアが盛り込まれているのでしょうか?

尾原●スケールを変えて漫画を見せることをテーマに会場を構成しました。通常、漫画は手にとって見るものですが、巨大なスケールで展示されると見え方も変わってくると考えたんです。それと、漫画のなかで非常に特徴的なのは吹き出しだと感じていたので、それを活かした展示も行いました。吹き出しの描き方は、漫画家によって特徴がありますよね。形や線の太さなど漫画家の個性が出やすいものだし、そのディテールが見えてくると、漫画の見え方も変わってくると思ったんです。

──その展示には、実際に漫画で掲載された吹き出しが使われたのでしょうか?

尾原●ええ、誌面のものを使用して、拡大コピーしてわざと荒れた感じに仕上げました。キレイに整え過ぎてはいつも見ているものに対して距離感が生まれてしまうし、荒れているほうがリアルな感覚が伝わるものが多いと思ったので。

──なるほど。かなりユニークな展示会になりましたね。

尾原●単に過去の作品の紹介に止めてしまっては面白くないので、やや実験的なものにすることで、若干アートな雰囲気を生み出すことを意識したんです。普通だと、25周年記念だから過去を振り返ることに終始してしまいそうですが、過去にばかり向かうよりは、これからの漫画をテーマにしていきたかったのです。


等身大の漫画や、漫画家によって特徴的な吹き出しを巨大なスケールで見せた展覧会

──展示会のディレクションは空間デザインの分野に入ると思いますが、そのような仕事は今までにも手がけられていますよね。

尾原●はい。建築家と組んで今までにも何度かやったことがありました。

──その際には、やはりエディトリアルのときとは思考プロセスは異なるのでしょうか。

尾原●基本的な考え方は一緒だと思います。ディレクションする上で必要なのはコンセプト。それがあれば、デザインしていく上でブレを最小限に止められますし、必要があれば原点に戻れたりするわけです。そのコンセプトを考える作業が重要なのは印刷物でも同じですよね。

──このプロジェクトに関して最も面白かった点はどこでしょうか?

尾原●企画の段階から主体的に参加できたことです。その流れだとこちらが考えているものが、比較的スムーズにアウトプットできますし、その過程では変な負荷もかかりません。もちろん実際に発想を形にする作業は大変ですけれどね。

──企画段階から関わるような仕事は、最近になって増えているのですか?

尾原●もともと雑誌の創刊準備にもたくさん携わってきましたし、コンテンツについて意見させてもらいながらデザインさせてもらえることは多かったんです。今回は、その延長上でキャンペーン全般に携われたわけですが、自分の経験としても重要な仕事でしたね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第4話は「デザインに必要な遊び心」について伺います。こうご期待。


[プロフィール]

おはら・ふみかず●アートディレクター。1975年高知生まれ。印刷会社のデザイン部門、アジール・デザインを経て、1999年デザイナー、シェフ、建築家らの編成でSOUP DESIGNをスタート。2003年(有)スープ・デザイン設立。近年のおもだった仕事には『R25』、『relax』、『NEUTRAL』などの定期刊行物、『北欧デザイン』をはじめとした書籍、『SHIPS』、『TAKEO KIKUCHI』などの広告制作物などがある。

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