第2話 いよいよ事務所立ち上げ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第6回は「共同経営のデザインオフィス」編。1994年の立ち上げから10年以上、ともに活動を続けている大内顕さんと副島満さんによるサイレントグラフィックスを取材し、出会いから事務所立ち上げの経緯、これまでの業務のあり方について話をうかがいます。

第2話 いよいよ事務所立ち上げ


副島満さん(左)と大内顕さん(右)

大内顕さん(右)と副島満さん(左)

後押しになった「逃げればいいじゃん」の一言


――1994年、お互い独立して事務所を立ち上げたわけですが、それ以前、副島さんは大内さんのイラストは見ていたのですか?

大内●いや、見てない(笑)。

副島●見てないし、話だけで本当に描けるのかもわからなかった。だけど、自分はスントー事務所に7年いて、ある程度のことは対応できる、何がきても平気……という無根拠な自信があったんですね。

大内●転勤先の神戸から電話すると「なんで無理して、そんな仕事続けてるの? 辛い思いすることないじゃん」と言われてました。

副島●自分は希望に満ちていた頃だから、そんなに嫌だったら会社辞めて「一緒に事務所でもやるか!」という感じで(笑)。

――その勢いに負けて?

大内●そうそう。

副島●でも、結果的によかったでしょ?

大内●もちろん。一歩踏み出せるかどうかが大事だった。やはり銀行のような企業にいると、自分で会社を作って独立する人は少ないんです。すごくエリートな人は会社を見限るようなこともありますが、一般的には安定指向。だから、辞めるときは「うまくいくわけがない」とか「逃げるのか」とか、いろいろ言われて大変でした。でも、副島の「逃げればいいじゃん」の一言が後押しになって……。

副島●そう。逃げるのは恥ずかしいことではない。地震がくればみんな逃げるし、犬が追いかけてきたら逃げるじゃないですか(笑)。

大内●で、会社を辞めたのですが、その直前に同じ銀行の人と結婚したんです。それが契機にもなったんだけど、辞めるのと結婚と事務所作るのがほとんど同時で。


副島満さん

「君も一緒にやらないか?」と大内さんの背中を押した副島さん

――人生の転機がそこに集約していたのですね。

大内●ええ。30歳のときに。

副島●奥さんにしてみれば、ほとんど詐欺ですよね(笑)。一生安泰のはずだったのに。

大内●ハハハ。

副島●でも、銀行員だったから会社立ち上げは得意ですよ。こっちは登記やら収支のバランスシートやら全然わからない。そういうのは心配ないのが心強くて。

――どこから手をつけました?

副島●まず場所をどこにしようか、と。当時、スントー事務所が恵比寿だったから近辺で物件を探して、いそいそと机や本棚、Macなどの仕事道具を揃えてオフィスを構えたんです。インテリアにも凝って、二人で「いいねぇ」なんて言い合いながら準備していたら、そのまま1ヶ月経過。仕事なんかひとつもない(笑)。

大内●毎日、事務所に来て「いいねぇ」って見渡すだけで(笑)。

まず「自由」な気分を満喫する


――不安はなかったのですか?

大内●もちろん、ありましたが……

副島●結構、楽しかったよね。

大内●そうそう。代官山あたりで昼間から酒を飲んだり(笑)。

副島●まず大内は、自由な気分を味わわないとならないと思ったんですね。

大内●働いてる人を眺めて「大変だね」とか言いながら。

副島●毎朝、満員電車に乗ってタイムカードを押して、夕方になると残業……とか、そういう常識から脱却しないとダメだって。

大内●副島が「最初の1年間は遊べ」と言うんです。お金の心配はしないで、とにかくいままでと生活が違うから慣れろ。価値観を変えるために遊んでていい。で、イラストをどんどん描け……と。

副島●貧乏だったけど、面白かったでしょ?

大内●うん。

副島●さすがに、いまはできませんけど。

大内●若いからできましたね。どうにかなるかって。


大内顕さん

不安よりも独立の「自由」を得た喜びが強い大内さん

――仕事はどうやって?

副島●営業しなくてはならないんだけど、まだ自分たちの作品がない。スントー事務所時代に作ったものを何軒か持っていったのですが、見てもらっても「これは駿東さんのものだよね」と言われますよね。そこで、DMを作ったんです。考えてみれば、独立の挨拶もしていない。お知らせを作って、出さなきゃダメだって気がついて。

――1ヶ月後に?

副島●ええ、のんきでしたね(笑)。最初はレコード会社の人たちに送って、たぶん机の上にでも置いていたのでしょう。それを見たらしく、全然知らないところから仕事の依頼が入るようになりました。スントー事務所時代の知り合いも仕事をくれましたけど、それ以外のところが多かった。

――最初の仕事、憶えてます?

大内●たしか、サザンオールスターズの店頭用サンプラーのジャケットだったよね?

副島●うん。でも、その前に来たいくつかの話、断っていたんです。生意気なんだけど、仕事ないくせに「内容が気に入らない」って(笑)。

――やはり音楽関係を最初に攻めて?

副島●ええ。最初はそればっかり。

大内●それしか考えてなかったですね。もともと、僕は音楽関係のデザインをやりたかったわけですから。で、やりたかったことが、こんなに簡単にできちゃっていいのか……と思ったのを憶えています。

フリーペーパー『GAGA』

独立直後の仕事となったイベント企画会社のフリーペーパー『GAGA』
次週、第3話は「共同経営のよもやまごと」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


サイレントグラフィックス

[プロフィール]

さいれんと・ぐらふぃっくす●大内顕(1963年生まれ。早稲田大学法学部卒)と副島満(1965年生まれ。東京デザイナー学院卒)の二人により、1994年結成。以降、CDジャケットやコンサートパンフレットなどの音楽プロダクツ、フリーペーパー、服飾ブランドのキャンペーン、書籍装幀などを手がけている。

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