第3話 共同経営のよもやまごと | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第6回は「共同経営のデザインオフィス」編。1994年の立ち上げから10年以上、ともに活動を続けている大内顕さんと副島満さんによるサイレントグラフィックスを取材し、出会いから事務所立ち上げの経緯、これまでの業務のあり方について話をうかがいます。

第3話 共同経営のよもやまごと


違うタイプだからこそ一緒にできる


――仕事は、どういう割り振りなんですか?

副島●実は……適当なんですね。

大内●やったもん勝ちみたいなところがあります。

副島●一度打ち合わせをして、どちらかノッているほうが担当するパターンが多いんですね。一方が「俺はちょっとなぁ……」という場合でも、一方が「やりたい」と言えば、どうぞどうぞ……と。最初は同時にアイデアを出したりしますが、基本的に二人で同時にデザインはできないですから。

――では、一方が作り、一方がジャッジメントしたり?

大内●事務所を立ち上げてしばらくは、僕も経験がなくてわからないから、副島がジャッジすることもありましたが……

副島●そのうち段々、お互い個々にまかせてしまうようになりましたね。もちろん、一方が「これ、どう思う?」と聞いてきたら、相談し合いますが。

大内●それが二人でやることのいいところですよね。一発で「いいじゃん」というときもあるし、逆に「ちょっとこうしたら?」というときもある。そこから先は自由で、直すときは直すし、直さなくてもいいと判断すればそのままでいくし。


大内顕さん

「お互いを尊重し合うからこそ、言いたいことが言える」と大内氏

――サイレントグラフィックスという名前がある以上、カラーやイメージを出さなくてはならないと思うことは?

副島●ああ……それ出したいのですが、いまだできずってところがあって(笑)。

大内●でも、それは目指すことではなくて、結果なのではないかと思う。

副島●そうだね。僕ら、いろんなスタイルや考え方で作っているから、ひとつひとつ仕事をするたびに「また別の作り方をしてしまった……」と思うことが多いんです。いろいろできるというのも器用貧乏だなって(笑)。でも、ある日ブックを作ろうと思って、作品を全部並べてみたんです。そうしたら、すごく一方向を向いてるのがわかって、逆にクドいと感じたこともありました。

大内●やっぱり家族よりも一緒にいて、ずっと喋って、たまに些細なことで喧嘩して、あれはこう思うどう思う……とやり続けていると、いつの間にかテイストが近寄ってきますよね。そもそもの好みもあるのだろうけど。

――好みが近いと思うのはどういうところですか?

副島●いや、近いというのはないと思う。最初はテイストが合っているから一緒にやっていけてるのかと思っていましたが、最近は違うと思ってて。そもそも「なんだこいつ?」と思って出会ったときは、自分が持ってないものを持っているから驚いたわけで。

大内●だから、何かを見て「これいいよね」「うんうん」と言ってるけど、たぶん全然違うところを見て、全然違う感じ方をしてるのではないか、と。

副島●よく「えっ、そこがよかったの?」って、あとから知ることがありますね。でもその差異がなかったら、一緒にやらないんじゃないかな?

大内●うん。おそらく同じタイプだとしたら、すごく微妙なところでの見解の相違が面倒臭くなると思う。

まるで結婚生活みたい?


――些細な喧嘩というのは、どのようなことで?

副島●作品上での喧嘩は、まったくないです。仮に意見が分かれても、なぜこうなるのか……ということを説明するプレゼンの練習にもなるぐらい。丁寧に話し合えば、落ち着くところに落ち着くんです。だから喧嘩といっても、くだらないことだよね?

大内●そう。たとえばニュースを見ながら「あいつをどう思う?」という話になって、一方が「俺はいいと思う」と言えば、一方が「そんなの信じられない」と言い合いになるような(笑)。

副島●夫婦喧嘩じゃないけど、犬も食わないとはこういうことか……と。

??そういうとき、どうなるんですか?

副島●仕事部屋が個々に分かれているし、たいてい大内がシャットアウトして何を聞いても暖簾に腕押しみたいにのらりくらりと(笑)。

大内●ハハハ。


副島満さん

「くだらない喧嘩の翌日は、お互いケロッとしてる(笑)」と副島氏
――そうでもないと10年以上、続かないですよね?

副島●継続の秘訣は……いい意味での惰性ですかね(笑)。

大内●あと、僕は副島が作るデザインがわからなくても、わからなくてもいいやと思うようになってきた部分もある。で、あとから理解するのが面白いんだけど。

――まるで結婚生活みたいですね。

副島●ああ……結婚生活といわれるとそうかもしれない。僕も結婚してますが、よく妥協の産物と言いますよね。でも、妥協って悪い言葉ではないと思うようになった。他人の性格や考えを受け入れること=自分を曲げることって、ヘンな意地を張るから妥協という言葉になるだけで。

大内●そうそう。

副島●もっと心が広くなる行為なんだなって思う。

大内●相手を許容できない人っているじゃないですか。ああいうの、事務所でも結婚でも辛いと思うんです。一緒じゃないといけないって思い込んでる人がいるけど、人それぞれ別々じゃないですか。人格もなにもかも、全然違うんだもん。

――外側からみると、二人でやってると一体感を想像してしまうけれど、基本は別々なんですね。

大内●そうですね。

副島●細かいことを言えば……ですが。長いこと一緒にやっているから、そんなに大差を感じなくなってきている。あれこれやっても、さっき言ったように仕上がってくるものは違いがないんです。

V6『A JACK IN THE BOX』デザイン見取り図

サイレントグラフィックスの“デザイン指向”が顕著な、V6『A JACK IN THE BOX』デザイン見取り図
次週、第4話は「今後に必要なもの」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


サイレントグラフィックス

[プロフィール]

さいれんと・ぐらふぃっくす●大内顕(1963年生まれ。早稲田大学法学部卒)と副島満(1965年生まれ。東京デザイナー学院卒)の二人により、1994年結成。以降、CDジャケットやコンサートパンフレットなどの音楽プロダクツ、フリーペーパー、服飾ブランドのキャンペーン、書籍装幀などを手がけている。

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