第3話 デザインする対象への信頼 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、ドラフトの関本明子氏のアートディレクション術に迫る。第3話で紹介するのは、ベーカリーカフェ「CASLON」の販促ツールをはじめとするトータルデザインの仕事だ。

第3話 デザインする対象への信頼


デザインの対象となるものの
良いところを見つけるのは必須



──今回ご紹介いただける「CASLON」に関するデザインは、どのような仕事だったのでしょうか?

関本●「CASLON」は宮城県仙台市にあるパン屋に併設されたベーカリーカフェです。その販促ツールとしてのチラシやポスター、展示企画などを手がけていました。元は弊社の渡邉良重と植原亮輔が関わっており、そのチームに加わる形で参加したのです。年に4回、メニューを紹介するチラシを作ることもあり、そこではデザインとイラストを担当しています。

──幅広くトータルでのデザインを手がけていたわけですね。

関本●そうです。ホームページ(http://www.caslon.co.jp)のデザインも弊社が手がけているんですよ。ページを開くと、最初は白い四角しか表示されないのですが、徐々にその四角がお店の形に変化していく作りになっています。実際の店舗と全く同じ形で連動した表現になっていて、たとえばポスターを貼る場所は、ホームページ上でそこをクリックすると、実際のポスターが見られるような工夫もされています。


──このポスターに用いられているパンのビジュアルは非常にリアルですが、写真を加工しているのですか?

関本●これはイラストです。写真表現よりも手間暇かけて作られている商品ということもあり、手描きのイラストの方が合っていると思ったのです。

──この仕事のビジュアルを考える際には、どのようなコンセプトが土台となったのでしょうか?


関本●「人生においしいパンを」とのコンセプトがありました。このお店のパンは、天然酵母を使っていて本当においしいんです!

──具体的にデザインの方針を決めるときには、どのようなことに気を配りましたか?

関本●この店舗は、仙台の泉パークタウンという住宅街のなかの大きな駐車場の一部に建てられていて、そこは緑の多い山の上なんです。だから、訪れる人は通りすがりではなく、このパン屋を目的として来ていることが前提となります。そこで、店頭に貼るポスターも、新規の人に宣伝するよりは、お店の雰囲気を楽しくしたり、季節感を出したりする方針のほうがよいのではないかと考えました。これが、もし人の多い街中であれば、お店に客を呼び込むような、もっと宣伝色の強いものになるでしょうね。





──やはりデザインする際には、その媒体を見る環境やシチュエーションなど、受け手について綿密に考えることが必要でしょうか。


関本●そうですね。伝えなければならないことに加えて、置かれる状況や誰が見るかによっても、デザインは変わりますから。その場所でなければ伝えられないことがありますので、それを見つけることができればと思います。


──そのように受け手側の状況を想定する感覚は、どのように養われるのでしょう?

関本●マーケティングを実施する方法もありますが、それだけではなく、自分に置き換えて考えてみることも有効だと思います。「自分がこのお店の客だとしたら、どのようなポスターが貼られていると嬉しいだろう」とイメージする。受け手になりきって想像するんです。

──受け手の要求を大切にするあまり、自分の表現したいものから遠ざかってしまうことはありませんか?

関本●「このようなものが作りたい」という欲求が、受け手の要求と結びつかないと、良いものは作れません。もし自分の欲求だけを特化させていくならアーティストでいい。私はどちらかというと、もっとコミュニケーションをとっていきたいとか、一緒に良くしていきたいとの気持ちのほうが強いのかもしれません。

──それは、対クライアントとの関係でも同様なのかもしれませんね。先ほどの関本さんの「パンが本当においしいんです!」との実感のこもった言葉は印象的でした。

関本●やはり、デザインの対象となるものの良いところを見つけるのは必須です。たとえばタバコやお酒を一切口にしないデザイナーが、そのようなものを対象としたデザインに携わるケースもあるわけですよね。そのときに、どうやって好きになるのかは重要で、そこを乗り越えない限り、良いものは作れないと思います。対象を掘り下げて、何かしらの答えを見つけることが大切。それは仕事を楽しめるポイントにもなるはずなので、まずは「相手」を信じてあげることがデザインの第一歩です。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第4話は「手間を惜しまないディレクション手法」について伺います。こうご期待。


[プロフィール]

せ きもと・あきこ●1976年東京生まれ。2002年東京藝術大学大学院デザイン科修士課程修了、株式会社ドラフト入社。2002年文部科学大臣賞受賞(D -BROS・カレンダー「HANG2002」)、2005年ADC賞受賞(ワコール ウイング ブールマルシェ・ CI パッケージデザイン)、2006年JAGDA新人賞受賞、日本パッケージデザイン大賞2007大賞受賞(ワコール ウイング ブールマルシェ パッケージデザイン)。主なクライアントに、BOURGMARSHE(インナーウェアーショップ) 、Aco (アクセサリーブランド) 、rinden (玩具ブランド)など。



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