第4話 手間を惜しまないディレクション手法 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

ドラフトの関本明子氏のアートディレクション術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、アンダーウェアブランドのワコールが展開する店舗「BOURGMARCHE」の総合ディレクションついて詳しくお話を伺う。



第4話 手間を惜しまないディレクション手法




できるだけ完成品に近いダミーで
プレゼンテーションしたい




──まずはじめに、今回ご紹介いただける店舗の概要を教えてください。


関本●渋谷の公園通りにある店で、一昨年の3月にオープンしました。クライアントであるワコールには、量販店向けのブランド「WING」があるのですが、今まで商品は郊外の量販店にしかなかったんです。それを都心にもってきたらどうなるか、という試みからスタートした企画です。どのような方針の店にするのか、どこに建てるのかなど根本的な部分から携われた仕事で、私が初めてアートディレクションを務めたプロジェクトでもあります。


──立地まで提案することができたのですか?


関本●そうです。「WING」の中にも、男性向けや年配向けなど、さまざまな年齢層に合わせたブランドがあるのですが、それらを全て集めた店舗を都心に作りたいとの要望でしたので「100坪くらいの広さがある場所が必要なのでは?」と提案したら、本当に渋谷に100坪の場所を確保してくださったのでビックリしました(笑)。

──店舗の名前は「BOURGMARCHE」ですね?


関本●フランス語の単語を2つ組み合わせた造語で、意味は「町中央の市場」です。この言葉どおり「市場」のような鮮度を保つため、店舗の壁には黒板を何カ所か設置してあって、おすすめの商品情報などを、どんどん店員に書き換えてもらうようにしています。


──全体的には、どのようなコンセプトでディレクションなさったのでしょうか?


関本●「気軽に買い物を楽しんでもらいたい」との考えに基づいて、店舗に置く商品のラインナップや陳列まで、総合的にディレクションさせていただいてます。商品をパッケージに入れたり、スーパーにあるようなショッピングカートを置いたりと工夫しました。商品を吊るすハンガーもオリジナルのものを作成して使っています。


──商品ポスターもユニークなデザインですが、動物をモチーフにしたのは、どのような意図があるのでしょうか?


関本●ポスターは季節ごとにテーマを変えているのですが、たとえば下着を着せているイラストをメインビジュアルにしているものがあります。このとき、人間の女性が着ていると、どうしても生っぽくなってしまうと考えたのです。それで動物にしたのですが、このアイデアはクライアントにも好評でした。











──ショップ用のオリジナル書体もあるようですが、これも関本さんが作ったのですか?


関本●ええ、最初に作った店舗のロゴをベースにフォント化しています。特に先方からの要望があったわけではないのですが、店内では私以外の方が簡単なPOPやDMを作るケースもありますし、あらかじめフォントを作って渡しておくことで、自分の手を離れても店のトーンを保つことができると考えたのです。











──ほかには、どのような工夫がありますか?


関本●下着に対する距離感を縮めるために、ノートやアルバムなど、普段手にするような身近なアイテムに、下着で用いられるレースを活用した商品を用意しました。そのほかにも、香り付きの石けんやボディウォッシュのケース、旅行用のポーチなど、さまざまな商品を作りました。

──これらの新しい商品は、かなりのアイテム数があるのですね。

関本●せっかく新しいコンセプトで店舗を作るのに、既存の店舗と同じことをするのでは意味がないと考えたので。実際にはもっとたくさんの商品を提案しています。ただ、いろんな都合などもあって、実現できなかった商品もありましたが、できる限りこちらの提案に応えてもらいました。

──クライアントに新商品の提案を行う際に、プレゼンテーションで気を配っていることはありますか?

関本●やはり、先方に乗り気になってもらい「一緒に楽しく作れそう」と感じてもらえる工夫をすることです。また、平面図やラフではなく、できるだけ完成品に近いダミーを作ることも多いです。実際に形になっているものを見ると、明解で判断しやすいし、それを土台に「これなら、もう少しココを工夫すれば実現できるかもしれない」といったような「次」の話ができますから。

──なるほど。ただ、これだけの量を作るとなると、相当な手間がかかりますよね。しかも、実現せずに無駄になってしまう可能性もあるわけですが……。

関本●そうですね。この仕事に関わらず、ダミーまで作っても実現できないことは本当に多いのです。だからこそ、なるべく裏を取ったりする必要があります。たとえば、予算のような現実的な問題もつきまとうので、作品と合わせて制作コストの見積もりを提出したり、安い業者を探し出したりするなど、判断してもらいやすいように、こちらで事前に準備しておくことも大事なんです。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

「このアートディレクターに聞く」第7回関本明子さんのインタビューは今回で終了です。次回からは中村至男さんのお話を掲載します。


[プロフィール]

せ きもと・あきこ●1976年東京生まれ。2002年東京藝術大学大学院デザイン科修士課程修了、株式会社ドラフト入社。2002年文部科学大臣賞受賞(D -BROS・カレンダー「HANG2002」)、2005年ADC賞受賞(ワコール ウイング ブールマルシェ・ CI パッケージデザイン)、2006年JAGDA新人賞受賞、日本パッケージデザイン大賞2007大賞受賞(ワコール ウイング ブールマルシェ パッケージデザイン)。主なクライアントに、BOURGMARSHE(インナーウェアーショップ) 、Aco (アクセサリーブランド) 、rinden (玩具ブランド)など。



twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在