第3話 仕事と自分たちの興味の共存 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第7回は「デザインとメディア供給の融合」編。エディトリアルからWeb、パッケージなど幅広いデザインを手がけながら、自主制作マガジンの発行や海外誌のディストリビューションも兼ねた“アソシエイツ”を主宰する高橋伸幸さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をうかがいます。

第3話 仕事と自分たちの興味の共存


3min.オフィス

清潔感ある白い内装に観葉植物の緑が映える3min.のオフィス

自主媒体、第2弾を発行


――独立直後、エディトリアル以外にWebデザインを手がけていますが、当時にしては早かったですね。

高橋●そうですね。グラフィックのデザイナーがWebをやるケースは、あまりなかった。どちらかといえば、まだプログラマーがやるほうが多かったように思います。

――HTMLの記述なども得意だったのですか?

高橋●それも当時ヒマだったから……(笑)。もちろん興味があったからできたことですが。

――自主的に媒体を作るという面もありつつ、仕事も広がって?

高橋●はい。少しずつですが……。でも長くやっていると当然のことで、いいときもあれば悪いときもあります。こういった業種では、ある程度仕方がないことだと思っています。

――数をこなさないと?

高橋●ええ、そうですね。それ以外のことももちろんありますが、基本的には数をこなさないとならない。多いときは、月に400ページとかデザインしてましたから。1ページ作るのに何分使うか……という世界ですね。(笑)。

――そういう苦労もありつつ、2001年に自主媒体第2弾『the city child, tokyo 12 stories』を刊行してますね。

高橋●前回の『3minutes at tokyo』では都市=東京をテーマにしたので、今度はそこに暮らす「人」を取り上げたい……と考えました。そこで10代の女の子の日常会話、12人分を延々載せるような内容になったんです。

the city child, tokyo 12 stories

2001年1月、スリーミン・グラフィック・アソシエイツ制作/発行の『the city child, tokyo 12 stories』。東京に暮らす12人の少女の日常会話と情景を458ページのコンパクト冊子に収め、前作『3minutes at tokyo』に引き続きCALM(Moonage Electric Quartet名義)によるライブ音源CDを添付。大判段ボール紙を下敷きにしたパッケージはディストリビュート先の海外書店でも店頭に飾られるなど、トーキョーの“現在”を強烈にアピールした

――こういう作品を作ると、モチベーションが上がりますか?

高橋●ええ。同時に仕事でやるべきことがわかるというか……。仕事は求められていること、または求められている以上のことをやらなければいけないわけですが、そのとき、あまり自分の好みの中で考える必要がなくなる。自分の好みに仕事相手を引っ張り込む必要がなくなるので、自分の気持ちをいつもニュートラルな状態に保っていられる気がします。

――仕事面で主張して戦うのも辛いし?

高橋●うーん……いや、もちろん戦うべきところは戦ったほうがよいと思いますよ。常々。だけど、無意味な戦いはすることないかなって。

――そのぶん、自主制作で自分がやりたいと思うことを?

高橋●そうですね。日々の仕事の中では、どうしてもやりきれない「もやもや」したものが自分たちの中にあるんです。そこをクリアにしたい、リセットしたい、だから自主制作というカタチになるのだと思います。

先に“結果”を見せるツール


――そういう意味では、2003年に発行・制作を手がけたフリーペーパー『!MAG』は、仕事と自分たちの興味が両立したものだったのでは?

高橋●そうですね。『3minutes at tokyo』と『the city child, tokyo 12 stories』の雰囲気や内容を気に入ってくれた企業が「何か変わったことを考えそうだ」ということで、僕たちに声をかけてくれたコラボレーションでした。

――スポンサーがついていながらも、自分たちで発信していこうという表現意欲が感じられたことを憶えています。

高橋●形態としてはすごく面白くて、僕たちもやりがいがありました。スポンサーの採算が取れなかったので、結局2号だけで長くは続かなったのですが……。でも、その後もWeb上では活動を続けていました。

――現在、フリーペーパー大流行ですが、その嚆矢だったように思います。ボリュームもあって、これで無料とはびっくりしました。

高橋●やっぱり、ここでも普通のことはしたくなかったんですね。いわゆるフリーペーパーの薄くてペラペラしたものとは差異をつけたくて、サイズもページ数も規格外を試しました。


!MAG no.1

2003年3月、アドバタイジングTシャツ会社「TeeAD」とのコラボレーションにより、Web連動で制作・発行したフリーペーパー『!MAG(エクスクラメーション・マグ)』。ペーパーバックを縦に2段重ねしたような細長い判形、156ページの分量で、気鋭のライター陣からの寄稿とWebによる読者アンケートで構成。第1号のテーマは「オリジナリティ」で、2004年6月に第2号「ラブ&ピース」を刊行

――自主媒体を制作することで、デザイン以外の編集面においても「こういうことができます」というプレゼンが功をなしたのでは?

高橋●そうだと思います。僕がみんなをガンガン引っ張っていけるタイプであれば、もっと別のやり方があるのでしょうが、僕はそういうタイプではないし……。やはりプロダクツの担当者、編集者と波長が合わないと、ひとつのパッケージとしてみたときに絶対にいいものができない。仕事の発注側、あるいは自分に近いスタッフたちとは、同じ意識でモノを作らないとならないと実感しました。

??自前のリスクはあっても、先に“結果”を見せるツールとして有効だった?

高橋●ええ。プロジェクトのリーダーが一人で張り切るだけでは、みんな面白くないですから。それは常に大事にしていることです。みんなであれこれ言いながら、同じモチベーションの中で作っていけるような雰囲気作りも大事なことだと思います。

次週、第4話は「デザインというコミュニケーション」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


高橋伸幸さん

[プロフィール]

たかはし・のぶゆき●1968年静岡県生まれ。建築・アート雑誌の編集プロダクション退社後、97年7月に「スリーミン・グラフィック・アソシエイツ」を設立。雑誌や書籍、アパレルメーカーのカタログなどのエディトリアル、Web、商品パッケージなどのデザイン/ディレクションを手がけている。同時に『3minutes at tokyo』などの自主制作・発行、海外誌のディストリビューションも行っている。http://www.3min.jp/


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