第2話 過去の作品を振り返る作業 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、中村至男氏の作品を紹介し、その制作過程における思考に迫る。今回は、中村氏が13年間にわたりライフワークとして携わってきた、明和電機に関する作品を集めた書籍「明和電機の広告デザイン」(NTT出版)に注目。



過去の作品に向き合うことで
気づかされることも多かった




──今回ご紹介いただく「明和電機の広告デザイン」の概要について教えてください。

中村●前回紹介した「勝手に広告」と、ほぼ同じ時期に発行された書籍なのですが、現代美術のアーティストである明和電機と出会ってからつくってきた13年分のグラフィックデザインをまとめた一冊です。その時々の仕事を、どのように考えながら作っていたのか、あれこれ思い出しながら制作しました。テキストも自分で書いています。

──中村さん自身によって制作過程やコンセプトが解説されているわけですね。


中村●そうです。ひとつひとつのデザインに言及するのではなく、これまでの明和電機の活動を通し、グラフィックデザインとの関わりを1冊にまとめた本になっています。あらためて振り返ってみると多くのことに気づかされるものですね。自分がどのような経緯で作品を定着していったのかを知るきっかけにもなったし、当時のアイテムが明和電機の心情や状況などとリンクしていることも感じられて、非常に面白い仕事でした。

──明和電機に関するデザインは13年間も続けてきた仕事ですし、デザイナーとして1つの勉強と実践の場としての側面もあったのではないでしょうか。

中村●そうですね。しかも土佐信道社長とは同い年ですし、ともに悩みながら、勉強しながらやってきたという思いは特に強いです。最初のころのものは24歳の時につくってますからデザインも青くて恥ずかしい(笑)。


──この本は、明和電機についてのグラフィックワークを集めているわけですが、同時に中村さんの作品集としての側面も感じられますね。


中村●一見特殊な仕事の様に見えますが、明和電機というクライアントから依頼されて、僕が実践してきた行為は、世の中の広告やデザインの仕事とやり方は同じです。その意味では、いわゆる純然たるグラフィックデザインの本ですね。デザインを通して見た明和電機の軌跡であると同時に、グラフィックデザイナー中村至男に言及した本でもあるし、両方の側面から読むことができます。

──一覧してみると、13年の間に作品にも変化が出ているように感じられます。

中村●自分の考えばかりではなく、対象との関係性で大きく変わりますから。たとえば土佐社長がライブばかりやっている時期であれば、もちろんライブ寄りのグラフィックが増えるわけです。

──商品や企業ではなく、人物が対象であることで、通常のデザインと何か違いはありますか?


中村●あります。社長にとっても僕にとっても「30歳になっちゃったな」とセンチメンタルな時期があったり、「いやいや、男はこれからだ」と気合いを入れ直す時期があったり、人間なので精神面での変化があるわけです。そのような変化は、その時々のデザインにも影響しちゃってます。ただ、それも後から気がついたことなんですよ。当時は自分もその真ん中で考えているので、まったく気がつかなかった。

──そういった意味では、やはり自分の仕事を振り返ってみる行為は大切なのでしょうか?


中村●そうかもしれません。実は、今まではずっと「過去のものを見ずに、とにかく次の新しいことを考えなければ」と過去のものを振り返ることに何か罪悪感があるような、湿っぽいイメージがあり敬遠してきたのですが。ただ、今回の書籍を出版するにあたって、自分の仕事をしっかりと振り返らないと、単なるアーカイブの域を超えない浅い本に仕上がってしまう怖さがあったんです。そこで、過去の仕事に本気で向かい合って、咀嚼したうえでまとめあげました。もう見たくないものもあったり、すごい試練でしたね。でも、そこで気づかされたことは本当に多かったです。

──それは具体的に、どのようなことでしょうか?


中村●文字やジオラマをたくさんつくったり、言葉によるアプローチの構造を試したり「ある時期に自分の中のあるジャンルを思い切り咀嚼できたから、今は次の段階に立てている」「良くも悪くも20代のうちに実践しておいて良かった」といったことなどです。おかげで今は、そのジャンルに引きずられていない。結局、適齢期に当時出来ることををアウトプットしておかないと、いつまでもアイデアノートの中に残ってしまい、フツフツと根に持ってしまいますからね。

──なるほど。そのほかにも何かありますか?

中村●文章を書いたことによって、反対に言語化できないことも浮き彫りになりました。なぜ自分がそれを選んだのかわからないアプローチをはじめとした、不可解なものもあったのですが、そのようなことを自分の中でしっかりと見つけたことも収穫でした。

──それにしても、あらためて感じるのですが、13年もの長いスパンで、明和電機とのリレーションが続いているのはすごいことです。

中村●確かに、普通は疲弊したり、ちょっと緊張感に欠ける関係になったりしますよね。でも何か僕は人間関係にベタベタしない性格みたいで(笑)、それが長続きしている1つの理由かもしれません。過去の蓄積でなれなれしく物事を決めると、安定し過ぎてしまい、艶や色気が出ないんです。だから、陳腐な言い方ですが、毎回、新鮮で危ない気持ちで取り組みたいと考えています。実際、今でも新しい案件で明和のアトリエに行くとものすごい緊張してます。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第3話は「説明し過ぎないビジュアル」について伺います。こうご期待。

[プロフィール]
なかむら・のりお●1967年、川崎市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、Sony Music Entertainment入社。97年独立。主な仕事に、PlayStationソフト『I.Q』、『ポケ単』のプランニング・アートディレクション、 99年『広告批評』表紙、おもちゃ『ポンチキ』、明和電機のグラフィックデザイン、NHKみんなのうた「テトペッテンソン」の映像、企業ロゴや商品を用い てアートの視点から発表してきた「勝手に広告」などがある。









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