第3話 説明し過ぎないビジュアル | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、中村至男氏のアートディレクション術を紹介。第3話では、日本科学未来館の発行する雑誌「MeSci Magazine(ミーサイマガジン)」の表紙グラフィックに迫る。

読者の興味を前のめりにさせるような
バランスを静かに保つ



──今回ご紹介いただける「MeSci Magazine」の仕事は、どのようなものでしょうか?


中村●この媒体は、不定期で刊行されているのですが、表紙のデザインワークをずっと担当しています。毎回、何らかの最新科学のテーマが決められているので、仕事の仕方としてはすごく真っ当なやり方で、もらったテーマからグラフィック考えているわけです。

──誌面ではなく、表紙のビジュアルのみを担当されているのですか?


中村●基本的にはそうです。ただ、たまに僕が自由に制作できるページを設けてもらうこともあります。たとえば以前4ページもらったときには「変換」というタイトルで、自分が面白いと思う考え方のグラフィックを制作しました。ほかにも、ナノテクノロジーに関してのトピックを集めた号では、ダイヤモンドの製造方法をグラフィックに起こしたりしています。


──表紙のビジュアルの方向性は、どのような意図に基づいているのでしょうか?


中村●科学雑誌なのですが、アカデミックな雰囲気でもなく、子どもでも興味が持てるような、手に取ってもらいやすい方向性を目指しています。「難しそう」「科学オタクっぽい」「大人が読むものだ」「子どもが読むものだ」とかのイメージを読者に抱かせないような、プレーンで新しい科学のトーンを作れないかと考えているんです。つまり科学未来館独自の新しい科学のにおいです。


──どのグラフィックも、あまり説明調のものではないですよね。あるテーマを受け取って、抽象的なイメージに変換する作業は、どのように進めているのでしょうか?


中村●最終的には見た目だけで考えます。テーマをもらったときに、最初はどうしても頭で論理的に考えてしまうのですが。たとえば「地球にとりくむ」というテーマの第6号では、地球の内部を技術的に調べて、色々なデータを紹介する特集なのですが、最初の表紙案では、地球の皮を剥いたり、輪切りにしたり、表面だけ剥がしたりと、頭で考えた説明調のグラフィックだったんです。でも考えているうちに、ふと地層を抽象化したビジュアルが浮かんできて、最終的にはそちらの案にしました。表紙1の中だけでオチをつけてしまわずに、中身の興味へと誘導するちから具合です。


──確かにそうですね。ちなみに、これらのイラストも、すべて中村さんが自分で描いているのですか?


中村●そうです。最終的な定着の段階になると、線の角度や長さなどのわずかなニュアンスが気になることも多いですが、そのような詳細な部分は言葉で説明しづらく、人に伝えられないこともありますよね。作業をしながらでないとわからないこともありますし。その点、自分で描いていれば、言葉にしないで直接定着できる。それに、完成型として思い浮かべているイメージが、すでに自分のタッチを前提としたものになっていることも大きな理由ではないでしょうか。デザインなのですが絵を描く感じに近い作業です。

──中村さんの作品のすべてに当てはまることですが、どのビジュアルも、要素をすごく絞り込んでいますね。


中村●「勝手に広告」の時にも試した手法ですが、イラストを描くときに、最初は細かいところも書き込んでいくと、どんどん説明的になってしまうんです。ただ、あまりにも説明し過ぎてしまうと、見ている側は受け身になってしまう。そこで絵の引っかかりは壊さずに要素を絞り込んでいくわけです。たとえば電車の絵を描いた場合に、最後の線を1本だけ省いたり足りない具合にすることで、「これは電車ですよ」と提示するのではなく、「これは電車だよな、、」と前のめりになって理解してもらえる絵に仕上がります。最後の1本の線は、見ている人に頭の中で引いてもらうくらいのバランスが良いんですよね。見てもらう際に、受け身なのか、能動的に前のめりになってもらっているかで、理解や関与の質はまったく異なると思うのです。


──押し付けるように「わからせる」のではなくて、自主的に「わかる」という状態を導いているわけですね。


中村●それができたらいいと思っています。まさにその時間「見ている」状態をもって、頭に「わかっている」状態が立ち上がっている。数ある手法のうちの1つだと思うのですが、このようなイラストやデザインの力加減に自主的に気づくことができたのは、自分にとってのこれからの大きなヒントになっています。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第4話は「携帯コンテンツならではの表現」について伺います。こうご期待



[プロフィール]
なかむら・のりお●1967年、川崎市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、Sony Music Entertainment入社。97年独立。主な仕事に、PlayStationソフト『I.Q』、『ポケ単』のプランニング・アートディレクション、 99年『広告批評』表紙、おもちゃ『ポンチキ』、明和電機のグラフィックデザイン、NHKみんなのうた「テトペッテンソン」の映像、企業ロゴや商品を用い てアートの視点から発表してきた「勝手に広告」などがある。

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