第3話 ガツガツしない姿勢 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第8回は「デザインと自主制作」編。グラフィックデザイナーとしてデザイン事務所「Coa Graphics」を主宰する一方、音楽レーベル「Coa Records」を運営し、自身も「Spangle call Lilli line」のメンバーとして活動する藤枝憲さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。

第3話 ガツガツしない姿勢


藤枝憲さん

藤枝憲さん(&お仕事中のスタッフの方。すみません、忙しいところ!)

無理なく謙虚なバンド活動


??デザイナーとレーベル運営の他に、バンド活動(Spangle call Lilli line)も継続中ですね。

藤枝●現在のメンバー(大坪加奈、笹原清明)は東京造形大学出身なのですが、彼らが在籍していた音楽サークルが面白くて、妹が造形大に通っていた関係から僕もよく遊びに行ってたんです。

??2000年に結成したそうですが、その頃はもうデザイナーとしてバリバリ仕事をしてましたよね?

藤枝●ええ。最初は仕事の合間にヒマつぶしで、ユルく結成したんです。ちょうど笹原くんが前のバンドを脱退したから、じゃあ一緒にやろうか、と。

??ポストロックな音響系バンドとして、昨年ベスト盤『SINCE』を発表するなどコアな人気があるように思います。

藤枝●本業のデザインは本当に多岐に渡りすぎてワケがわからなくなっているので(笑)、バンドは無理がない程度に自分の趣味の範囲で謙虚にやっています。最初の作品をリリースしたときも、なんとなく続いていけばいいなくらいの意識でしたから。

??2004年にリリースしたCD+アートブック『68 SCLL』が、美大出身者バンドの作品らしいですね。

藤枝●つねに「それ面白そうじゃん」と、興味がおもむくままの活動なんですね。決められたリリース・スケジュールやプロモーション・プランに則って活動しないというのがコンセプト(笑)。出したいときにやりたいように出すというのが条件なんです。当初からそれをわかってもらえるレーベルとしか契約をしていないですから。

??うらやましいぐらい、自由気ままですね。

藤枝●昨年は1年間、バンドの活動はしないというのが自分の中での方針だったんです。でも、なにかリリースはしようよ……という話はあって、それならレーベルが勝手にベスト盤を出したってコンセプトにしようと。だから、いままではすべてジャケットデザインなども自分たちでやっていたのですが、今回は外部のデザイナーに依頼して、僕はマスタリングすら立ち会ってない。曲順もまかせてしまって、商品が上がって初めて「こういう内容で、こういうジャケットになったのか」と知ったぐらいでしたから(笑)。


Spangle call Lilli line『SINCE』
Spangle call Lilli line『68SCLL』

(左)Spangle call Lilli line『SINCE』(2006年/felicity)
オリジナル・アルバム4作からの代表曲、新曲、レア音源などを収録のベスト盤

(右)Spangle call Lilli line『68SCLL』(2004年/felicity)
ライブCD+アートブック(82ページ)

気分は「日曜日っぽい」雰囲気


??デザイナー、レーベル、ミュージシャン……と、頭の切り替えが大変では?

藤枝●いや、逆に面白いですよ。デザインはCDジャケット、映画、書籍、コンサートや舞台のパンフレットなど内容も違うし、レーベルも自分のバンドとはジャンルが違うものが多い。だから、使う脳ミソや関わる人間、受け取るユーザーやキャパシティもそれぞれ違うんです。音楽業界の人とばかりいると染まるし、雑誌ばかりだと追われるじゃないですか。そういうことがないから、純粋に楽しめています。

??最近、カフェ(kate coffee)も始めたそうですが。

藤枝●2?3年前から計画していて、昨年末にオープンしました。妹と弟と一緒にカフェをやりたくて、二人が数年間あちこちで修行してたんです。で、その間に物件をじっくり探して、かなりベストな条件の新築ビルを見つけて建つ前から契約してました。内装もゼロから自由に考えて、昨年はそれが面白くてスパングルの活動がなかったぐらいですから(笑)。

??そうした多彩な活動の中で、Coa Graphicsのテーマとは?

藤枝●ガツガツしないということですね。自分たちはこういうイメージでこういうものしかやりません……というのではなくて。発注側もカラーを限定してこないので、かなり自由に気持ちよくやれています。だから、仕事というよりは毎日が日曜日っぽい雰囲気かな(笑)。
??楽しそうですね。

藤枝●はい、楽しめています。いま、みんな真面目じゃないですか。デザイナーもそういう傾向があって、自分のグラフィックデザイン道を追求するのは、もちろん正しいことだと思います。でも、たとえば音楽を聴くとき、昨日はこういうものが好きだったけど、今日は違うものを聴きたい……というふうに気分が変わりますよね。デザインも同じことで、作り手として日々変わる部分がある。いろいろなことをやるのも、そうした中から自分の興味を引き出そうとしているんだと思います。

??それが結果的に大きな振れ幅を導いている、と。

藤枝●ええ。だから、大企業の広告もハードコアバンドのジャケットも同じように楽しめるというのが一番理想的ですよね。


kate coffee












新たに始めた「kate coffee」
〒155-0031 東京都世田谷区北沢 2-7-11 2F
tel&fax 03-5454-5436 http://www.katecoffee.jp
営業時間 10:00?24:00 月曜定休

次週、第4話は「“匠”にはなりたくない」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


藤枝憲さん

[プロフィール]

ふじえだ・けん●1974年千葉県生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科中退、独立してデザイン事務所「Coa Graphics」を主宰。エディトリアル、CDジャケット、コンサートグッズ、映画・演劇の宣伝美術など、幅広いグラフィックを手がけている。同時に音楽レーベル「Coa Records」プロデューサー、バンド「Spangle call Lilli line」のメンバーとしても活動中。

http://www.coagraphics.com/


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