第1話 楽しい工夫に手間をかけた装丁 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第9回目は名久井直子氏。第1話では、フジモトマサル氏のイラストと装丁の雰囲気をマッチさせた2冊の書籍を紹介する。



第1話 楽しい工夫に手間をかけた装丁




手間や時間をかけた本は
何かを感じ取ってもらえるはず




──まずは『いきもののすべて』(文藝春秋)からお話をお聞きします。これは、どのような本なのでしょうか?


名久井●フジモトマサルさんの初となる漫画集です。ご本人もおっしゃっているのですが、フジモトさんの絵は、よく見ると1枚の絵の中で何度も楽しめる工夫があるんです。そこで装丁でも、さまざまな発見のある楽しいものにしようと決めました。




──具体的には、どのような工夫が盛り込まれているのでしょうか?


名久井●たとえば、わざと天のみ断裁せずに不揃いなままにする「天アンカット」にしたり、ノンブルをすべて手描きにして、10ページごとに、コップなど別のイラストに置き換えたりしています。文字については、奥付けなどもすべて手描きです。漫画の中にもフジモトさんの文字が入っているのですが、とても味わい深くて良い文字なので、できる限り多く見せたいと考えました。クレジットなどをフォントで入れてしまうのはもったいないと思ったんです。


──そこまで徹底されているのは面白いですね。ただ、すべて手描きにする作業はかなり大変そうですが……。


名久井●後から文字修正が入ると大変なので、事前に確認をお願いするなどの準備は必要です。ただ、このような作業は手間がかかりますが、それを気にしてはいません。手間や時間をかけた本は「その分だけ何かを感じ取ってもらえるはず」との思いが強いんです。フジモトさんと私は、この本を手がける以前にも何度か一緒に仕事をしているのですが、2人とも「労力はタダだよね」と考えるタイプ。苦労を厭わないんです。


──なるほど。そのほかに、トビラやカバーにも楽しい工夫があるようですね。


名久井●2枚ある別丁トビラでは、1枚目でパーツごとのバラバラなタイトル文字を海に流したビジュアルにし、2枚目で読めるように揃えています。よく見ると、登場する虎のイラストの表情も変わっているんです。カバーと表紙の関係も同様で、同じシーンですが、時間を少し動かしているんですよ。鳥が飛び立っていたり、窓に見えるキャラクターの数が変わっていたりします。


──これは「本」が手に取って体感できるメディアだからこその工夫と言えるのではないでしょうか?


名久井●そうですね。最近では、インターネットなどで小説が読めることもありますので、「本」として制作する場合には、物質としての価値を少し高めないとダメなのではないかと考えています。


──確かに、名久井さんの装丁なさった本は、紙の質感などにも、こだわりが感じられるものが多いです。


名久井●「物質っぽい」と言われることが多いです。普段から、ちょっと変わった手触りの紙などを集めたりしていますし、質感があるのものが好きなんだと思います。ただ、質感も大切ですが、『いきもののすべて』では絵をキレイに見せたかったので、そちらを重視しながら、折り合いのつく範囲で紙を決めました。手触りと機能性の両方が大事だと思います。


──なるほど。続いて、同じくフジモトさんがイラストを手がけ、穂村弘さんが執筆なさった『にょっ記』(文藝春秋)についてお聞きします。こちらも楽しい工夫が満載ですね。


名久井●日記をテーマとした本なので、こっそり隠れて誰かの日記を覗き見るような構造にしたくて、函に入れてあるんです。その雰囲気を高めるために、こちらの本でも手描き文字を使用しています。


──本のテーマに沿って、その内容を表現する装丁になっているわけですね。


名久井●そうです。小説などは基本的にすべて内容を読んでから装丁していますが、感想文を書くのと同じように、「この本の紙は、おそらくガサガサしたものだろう」、「これは函に入れて読みたい」といったビジュアルでの感想が生まれるんです。私は、それを元に装丁しています。


──タイトル文字などにも工夫が盛り込まれているそうですが?


名久井●たとえば、著者名にある「弘」という文字の弓偏を「3」にするなど、文字のエレメントを数字と入れ替えている部分があります。


──文字に工夫した場合、遊びを加えすぎると読みづらくなる心配もあり、加減が難しいのではないでしょうか?


名久井●自分1人だけで作業していると、読みやすさ、読みづらさの加減がわからなくなってしまうこともあります。だから、そのようなときには、著者や編集者などに見てもらうんです。

──遊びを加えるとはいえ、客観的な節度は保たれているわけですね?


名久井●ある程度の自制はしています。「好きなように装丁してください」と言ってもらえることが多いのですが、そのように依頼してくださる方も、おそらく私の性格を把握していて、信頼してもらえているのでしょう。だから、その信頼を裏切らない範囲で、何か驚かせたり楽しませたりできればと考えているんです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第2話は「書籍のカバーと表紙の関係」について伺います。こうご期待。

[プロフィール]
名久井直子(なくい・なおこ)●1976年盛岡市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 広告代理店勤務を経て2005年に独立。装丁デザイン、エディトリアルデザインを中心に、印刷媒体のグラフィックデザインを主に手がけている。2005年11月に長嶋有、柴崎友香、福永信、法貴信也と同人誌「メルボルン 1」を創刊。






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