第2話 書籍のカバーと表紙の関係 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、名久井直子氏の手がけた書籍を紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。今回は、深い奥行きを感じさせる『イナカノコ』(牧野出版)の装丁に注目。若い世代に絶大な人気を誇るイラストレーターおおたうに氏が執筆した小説だ。



第2話 書籍のカバーと表紙の関係



多重構造で奥行きを出して
主人公の心情を表現



──まずは、今回ご紹介いただける書籍の概要を教えてください。


名久井●『うにっ記』(ベルシステム24)でも有名な、おおたうにさんが書いた初めての小説です。ご本人の希望もあり、装丁の際にはイラストを使用していません。実は、私に依頼してくださる前に、編集の方が、おおたさんと一緒に本屋に行ったそうなんです。そこで「どのようなデザインにしたいですか?」と聞いたところ、おおたさんが私の装丁した本を選んで「このような雰囲気にしたい」と言ってくださったそうなのです。


──それはすごい! デザイナー冥利につきますね。


名久井●本当に嬉しかったです。だから、そのときに選んでいただいた本のテイストも考慮して、テキスタイルのような模様を中心として見せる基本路線を決めました。


──具体的に、このビジュアルは、どのようなイメージで制作したのでしょうか?


名久井●『イナカノコ』は、そのタイトル通り田舎に住んでいる女の子を主人公にした小説なんです。好きな同級生の男の子が東京に行ってしまって、でも自分は田舎から離れられない。その田舎の風景で、風や川や草が動いている、そよそよとした雰囲気を表現しています。


──使用されている色も印象的ですが、どのように決めましたか?


名久井●小説の内容が、全体的にティーンエイジの雰囲気なので、そのイメージに寄せています。これが紺やグレーなどの渋い色だったら、10代の方たちにとっては、書店で手に取りづらい見栄えになってしまうでしょうね。


──ゆらめくような動きや色とマッチして、非常に奥行きを感じさせるビジュアルに仕上がっていますね。


名久井●この小説の主人公は、すごく悩んでいるんです。もっと素直になることができればいいのに、バイアスがかかってしまっていて、どんなに分け入っても確かなものが見えない。その雰囲気を表現しているんです。だから、奥深いところにも何かがあるようなイメージにして、一番奥の色は見えないくらいでもいいと考えていました。


──この奥行きの表現は、どのような構造になっているのでしょうか?


名久井●反対側が少し透けて見えるような紙を使用しています。手前に見える緑の線はジャケット、その奥の赤の線は表紙に描かれていて、一番奥に見える青の線は、表紙の芯となる板紙の部分に刷っているんです。


──なるほど。実際に重ね合わせる多重構造によって色の濃さが変わって、奥行きが表現されているのですね。

名久井●ただ、通常、板紙にはボール紙が使われるのですが、そこに印刷をして色を出すのが難しかった。だから、コート紙を合紙したものを用いることで対応しています。強度と透けている雰囲気を両立する必要があったので、紙厚を変えながら、何度もテストを重ねて検討しました。

──それは手が込んでいますね。そこまでしなくても、ただ色を薄くするだけで誤摩化す処理も考えられるのではないでしょうか?


名久井●物質の距離感を考えながら、着物のように重なった状態を思い浮かべたアイデアなので、単純に「薄い色で処理すればいいや」とは考えませんでした。反対に、薄い色で処理するのであれば、最初から、それが似合うような模様にしたほうがいいでしょう。自分の中では、まったく違う案なのです。


──この本に限らず、名久井さんの装丁では、カバーと表紙の関係性を生かした作品も多いです。制作時には、カバーを取ったときに、表紙だけでもビジュアルを完結させることを意識しますか?


名久井●ええ。私が装丁を手がけた本では、カバーを取ったときに、また違った顔を見せる表紙が多いかもしれません。今では役割が変わってきていますが、本来カバーは汚れ防止のためのものだったわけですから、取り外さない人もいれば、取り外す人もいるわけです。外した人も楽しめるようにしているつもりです。


──確かに本を購入した後の扱い方は、人によってさまざまですからね。


名久井●電車などで本を読むときには、カバーを取ってしまうこともありますよね。そのときに、何を読んでいるかぱっと知られたくないな、とわたしは思うんです。許される場合には日本語のタイトルをまったく入れないこともあったりします。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「手帳のジャケットデザイン」について伺います。こうご期待。

[プロフィール]
名久井直子(なくい・なおこ)●1976年盛岡市生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 広告代理店勤務を経て2005年に独立。装丁デザイン、エディトリアルデザインを中心に、印刷媒体のグラフィックデザインを主に手がけている。2005年 11月に長嶋有、柴崎友香、福永信、法貴信也と同人誌「メルボルン 1」を創刊。



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