第4話 変化するメディア連動のあり方
●メディア同士の連携──WebとCMが逆転する?
──Web広告の最大の特徴として、“インタラクティブ性”ということが挙げられると思うのですが、この部分をクライアントにプレゼンするにあたり、プレゼン段階で出来上がりをイメージすることは従来の広告より難しいのではないかと思います。秋谷さんがプレゼンでイメージをクライアントに的確に伝えられるように心懸けているテクニック、プレゼンを通すコツのようなものはありますか。
秋谷●クライアントによってケースが異なってきますが、紙での説明で理解していただける場合もありますし、場合によってはフラッシュで作ったバナーをノートパソコンで見せる場合など、実際に作ってしまったほうが話が早いこともあります。そのあたりは臨機応変に対応しています。
──TVや雑誌の掲載広告であれば、広告自体の掲載枠は同じフォーマットのままですが、Webについては、技術の進歩と同時にその枠自体がどんどん変化を遂げてきている点が大きな違いだと思います。その点の難しさなどはありますか。
秋谷●そうですね、技術的にはどんどん変わっていくものだと思いますが、やはり広告表現としての本質の部分はあまり変わらないのではないかと思っています。つまり、道具の部分が変わっていくだけであって、発想の源自体は変わらない。
──なるほど。では、近年、メディア同士が連動することの重要性がよく言われますが、Web広告とその他メディアとの連携の必要性については、どのようにお考えでしょうか。
秋谷●連動という言葉は確かにいろいろなところで言われていますが、実際にきちんと連動できているケースはそんなに多くないのではないかと思います。当社で手がけた事例を見ても、やはり現在はまだお金の投入先としてはテレビコマーシャルがWebよりも優先されていますし、まずCMを中心にしてそこからプロモーション全体を構築していく事例が多い。CM用に制作されたイメージをWebにも流用するかたちでのイメージ連動はごく普通に行われていますが、それぞれの媒体の特性を活かしたかたちで、本当の意味での連動に成功している例となるとまだまだ少ないのではないでしょうか。
たとえばCMでWebのURLを流して、そのURLを視聴者がPCで見てみるとCM撮影の背景や、CMのストーリーの続編が展開されている、というのもひとつの連動ですが、その場合であってもWebはCMを中心としたプロモーションであり、CMを取り巻くさまざまな広告媒体のひとつにすぎないという認識がまだまだ根強いような気がします。
そうではなく、CMやグラフィックなどその他のさまざまな広告媒体がWebを中心として企画され、Webへの呼び込み役としてさらに発展するようなかたちは今後もっと出てくるのではないか、と思いますね。ユーザーのインターネットへの接触の機会が広がっている以上その必要性が高まるのは必然だと思います。
たとえばCMでWebのURLを流して、そのURLを視聴者がPCで見てみるとCM撮影の背景や、CMのストーリーの続編が展開されている、というのもひとつの連動ですが、その場合であってもWebはCMを中心としたプロモーションであり、CMを取り巻くさまざまな広告媒体のひとつにすぎないという認識がまだまだ根強いような気がします。
そうではなく、CMやグラフィックなどその他のさまざまな広告媒体がWebを中心として企画され、Webへの呼び込み役としてさらに発展するようなかたちは今後もっと出てくるのではないか、と思いますね。ユーザーのインターネットへの接触の機会が広がっている以上その必要性が高まるのは必然だと思います。
──CMとWebの位置づけが、現在と逆転することもあり得る、ということですね。
秋谷●そうですね。現在はまだまだCMの制作費の方がWebよりも遙かに大きいわけですが、将来的にはWebをメインとして広告プロモーション全体を展開していくこともあり得ると思いますし、そのような傾向が現状からも見て取れる、ということは言えると思います。
──では、秋谷さんご自身がこれまでご覧になったWeb広告作品で、先見的な例としておもしろかったもの、興味深かったものについて教えて下さい。
秋谷●数年前、カンヌ国際広告祭でそれまでなかった「チタニウムライオン」という賞を新設させたほど、すごく有名で話題になった作品ですが、BMWのWebサイト。CMやグラフィックとの連動の仕方がとても印象的でした。グラフィック広告やシティボード、CMすらもWebのURLが書いてあるだけで、すべてがWebに人を呼び込むためのものとして機能していました。そしてWebではBMWのブランドを印象づけるような、有名映画監督によるエッジの効いたムービーが展開されている。しかもそれがインターネット上でしか見ることができなかったということで広告業界でたいへんな話題になりました。
今では映画監督がWeb専用のショートムービーを製作してそれをインターネット上で公開していく、というプロモーションの在り方がいくつも見受けられますが、そのはしりとなった作品だと思いますし、さっきお話ししたような「今後はWebがプロモーションの中心になっていくだろう」という論調が出てくるきっかけになった作品だと思います。
今では映画監督がWeb専用のショートムービーを製作してそれをインターネット上で公開していく、というプロモーションの在り方がいくつも見受けられますが、そのはしりとなった作品だと思いますし、さっきお話ししたような「今後はWebがプロモーションの中心になっていくだろう」という論調が出てくるきっかけになった作品だと思います。
●インタラクティブ広告の未来は、まさに未知数
──では、そうした現在の流れを見据えて、今後Web広告の世界はどのような方向に向かっていくと思いますか。
秋谷●そうですね……なかなか計り知れないところがありますが、WebでCM的な動画を流すということだけではなく、インターネットという仕組み自体を使って動画やグラフィックを展開するような仕掛けがどんどん出てきています。それが今後具体的にどのようなものに発展するかはまだまだ想像の域を超えませんが、それこそWebが広告プロモーションの中心として機能することで、現在のCM中心の広告展開の選択肢をさらに広げていくようなプロモーション方法が出てくるのではないでしょうか。
ただ、たとえそうなったとしても広告表現の基本的な部分に必要なアイデアの出し方、つまり企業とユーザーとをどのようにつないでいくのかというコミュニケーションの考え方については、今とあまり変わらないのではないかというのが僕の考えです。
ただ、たとえそうなったとしても広告表現の基本的な部分に必要なアイデアの出し方、つまり企業とユーザーとをどのようにつないでいくのかというコミュニケーションの考え方については、今とあまり変わらないのではないかというのが僕の考えです。
──なるほど。ここまで技術の進歩が早いとなると、なかなか先の見通しは立ちにくい、ということでしょうか。
秋谷●そうですね、インターネット上の広告のデータ容量が飛躍的に大容量になったということを考えても、2000年頃には考えられなかったような状況に現 在はなりつつあるわけです。一方で現在ひとつの危機として広告業界でよく言われているのは、ハードディスクレコーダーの登場で放送を常時録画しておいて、 それを自分の好きな時間に好きな部分だけ再生して見る、というスタイルが一般化していくと、CMがどんどんスキップされてしまうという問題です。
その問題もあって、CMからインターネットへ広告キャンペーンの中心を移行していこうという考え方に注目が集まってきている、ということは言えますね。た だ、こうした動向を受け、将来のインタラクティブ広告がどのようなものになっていくのかについては、なかなか未知数のところがあり、僕としてもどうなって いくのかとても興味を持っています。
「Webプロデューサー列伝」第1回秋谷寿彦さんのインタビューは今回で終了です。
次回からは「ZOZO TOWN」Webプロデューサーにお話を掲載します。
(取材・文:深沢慶太 写真:谷本 夏)
その問題もあって、CMからインターネットへ広告キャンペーンの中心を移行していこうという考え方に注目が集まってきている、ということは言えますね。た だ、こうした動向を受け、将来のインタラクティブ広告がどのようなものになっていくのかについては、なかなか未知数のところがあり、僕としてもどうなって いくのかとても興味を持っています。
「Webプロデューサー列伝」第1回秋谷寿彦さんのインタビューは今回で終了です。
次回からは「ZOZO TOWN」Webプロデューサーにお話を掲載します。
(取材・文:深沢慶太 写真:谷本 夏)
[プロフィール] 秋谷寿彦(あきや・としひこ) ●株式会社博報堂アイ・スタジオ グラウンドワークデザイン部部長 青森県青森市出身 |