第2話 デザインの面白みを知る | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第2話 デザインの面白みを知る

見せ場がココというメリハリの差

――最初の就職先での経験は、いまに至る原点になってますか?

青木●原点と言えるかどうかわかりませんが、実務にしても技術にしても、仕事の基礎につながる大事な財産にはなっています。社会人としての責任感だったり、予算の管理という現実的な面においても。写植の費用はこれぐらいに抑えてとか、ときには値切ったりとか(笑)デザインから予算の流れまで、全体が見渡せました。そのへんがよかった気がします。




――当時の作業は、まだアナログ時代ですよね?

青木●すべて手による作業です。だから、いまのDTPの字詰めとか「許されへん」と思うことが一杯ありますよ(笑)。あと、その頃担当していたMTVの広報誌は、自分で素材を持ってきて作らなくてはならなかったんですね。なのでコピー機遊びとかコラージュとか、そういうアイデアを試せるところは面白かったです。


――自分のデザインには満足がいってましたか?

青木●いえ、そうでもなくて……先輩からのアドバイスで、ひとつ大きな転換がありました。その先輩のデザインは、見たときの印象に一本筋が通ってる。でも、私のはフニャフニャ。なんでそうなのだろうかと訊ねたら「見せ場がココというメリハリの差」だと教えてくれました。すべての要素をワーッと見せるのではなく、ひとつポイントを決めてから素材を置いていくという作業をしないとダメだ、と。それを教わってから、目からウロコが落ちてデザインが変わっていったんです。

「ロバート・フランク ムーヴィング・アウト」ポスター/ad+d:青木康子/1995/横浜美術館



「ロバート・フランク ムーヴィング・アウト」ポスター/ad+d:青木康子/1995/横浜美術館





――その会社には、どれくらい在籍したのですか?

青木●2年間です。最初の1年は上司がいたのですが、あとの1年は社長と直に話をつけるような一匹狼。好きなことをやらせてもらっていながら、そうなると「まだまだもっと得るものが欲しい、勉強したい」と感じ始めて……。その頃から「東京に行こうかな」と思うようになりました。そもそも東京で働いてみたいという願望は、短大を卒業したときからずっと抱いていたことだったんです。だから、最初の就職先も東京支社があるのが必須条件。でも、いざ入ってみたら東京支社とは名ばかりで、コピーライターが数名いるぐらいだったんですけどね。


――で、転職活動を始めたのですか?

青木●たまに東京へ遊びに行きながら、めぼしい会社を探してみたのですが、合うところがなくて……。とりあえず上京すれば「どうにかなるか」と思っていた矢先、東京支社の人が業界誌を見てて「サイトウ・マコトデザイン室が求人してる」と教えてくれたんです。でも、その当時、私は前回も話したとおり業界のことに全くといっていいほど無知で、すぐにはピンとこなくて(笑)。


前がこうだから、次もそうだという考えは必要ない


――それは衝撃のエピソードですね(笑)。

青木●学生の頃からデザインの本とか、あまり見なかったんです。デザイン以外の本の方に興味を持つことが多くて。でも、一度だけ「広告のコンセプトから発想する」という課題が出て、図書館でADC年鑑を開いたんですね。それがなんたるかもわからず、広告ポスターが一杯出てる本というだけの認識で。インドが好きだったから横尾忠則さんは知ってて「いいな」と見てたのですが、もう一人すごく印象に残った作品があったんですよ。

――もしや、それがサイトウさんの作品だった、と?

青木●そうです。でも、当時は誰が作ったかということはあまり気にしなかったので、作品の印象だけがあったんです。で、その求人を知った後、念のため会社にあったADC年鑑を見たら、学生のときに「面白いな」と思った人だと気づきました。どれだけ偉いアート・ディレクターかも知らずに「ここだったら、おもしろそうかも」って(笑)。

「反記憶 現代の写真II」ポスター/ad+d:青木康子/2000/横浜美術館



「反記憶 現代の写真II」ポスター/ad+d:青木康子/2000/横浜美術館





――80年代末のサイトウさんといえば「パルコ」や「アルファキュービック」の広告で時代を席巻してる頃ですよね。

青木●ほんっとに無知な奴だったんですよ(笑)。応募も市販の履歴書に書く感じが嫌いで、オリジナルの履歴書を作って送りました。で、面接に呼ばれたのですが、サイトウさんが作品を見ながら「これは何?」と訊ねても「これはチョウチョです」「見えないよ」「だから、これが羽で」……みたいにちょっと噛みついたりして(笑)。


――怖いもの知らずですね。

青木●しかも、サイトウさんが「毎日デザイン賞」を受賞した直後。ADCが何か知らないような無知な奴が「毎日デザイン賞」を知るわけもなくて、いまいち話が噛み合ってなかったと思います。でも、次第にほぐれていって、その場で「来なさい」と言われました。だから、そこでも微妙に周囲に流されてるんですね。



――選考理由は聞きました?

青木●そのときは気がつかなかったのですが「目がいい」と言われたのを憶えています。ものを見る視点ですね。あと、前の会社で作ったものより、学生の頃に作ったもののほうが面白いとも言われました。前の会社では「そこまでやらなくていい。やり過ぎ」とか言われていたのが、逆に「どんどんやったほうがいい」って。


――それは、サイトウさんのデザイン観と通じるものがあるのでは?

青木●そうですね。形にハマらないというか……前がこうだから、次もそうだという考えは必要ない。まるっきりゼロからやれ、と。それは大きかったです。だから入社後、さらにものの見方に磨きがかかったと思っています。発想を自ら押さえつけなくてもいいのだという開放された感じ。そういう環境がめちゃくちゃ楽しくなりました。


次週、第3話は「先が見えると、先を見えなくするクセ」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀 作品写真:関川真佐夫)



[プロフィール]
あおき・やすこ●1965年大阪府生まれ。86年、嵯峨美術短期大学ビジュアルデザイン科卒業。在阪デザイン会社勤務を経て、88年からサイトウ・マコト デザイン室に在籍。94年に独立、PANGAEAを設立する。広告、美術館や企業ポスター、食品パッケージ、パスネットなどのロゴマーク、フリーマガジン 『metro min.』など、幅広い分野のデザインを手がけている。サンヨーポスターデザイン大賞、NY ADC 銀賞、東京タイポディレクターズクラブ TDC賞入賞、ほか多数受賞。
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