第4話 いまも学びの意識は続く
人が嫌いだとストレスだらけ
――独立されて12年。振り返ってみて、持続に必要なものは何だと思いますか?
青木●まず、楽しいと思えることでしょうね。デザイナーとして働き始めてから、基本的にずっと楽しんできています。でも……数年前、一度だけ泣いたことがありました。心で泣いたとかではなくて、本当にティッシュで涙をふきながらマウスいじって。
――な、何があったのですか?
青木●ある商品の仕事を1年がかりで、立ち上がりからあらゆることを考えてやってきたのに、人事異動で上司が変ったからという理由で大幅な変更が入ったんです。そのときの感覚としては、前任の方やスタッフたちと一生懸命育ててきた子どもを、ナイフを渡されてズタズタにしろと言われている感じ。
――それは悲しいですね。
青木●変更内容が納得いくことならば、デザインが崩れるのもありだと思っています。コミュニケーションがとれなければ意味がないので、自分のデザインを守るのに頑になっても仕方がない。でも、そのときは逆にコミュニケーション悪くするようなことを要求されて。愛情がめちゃくちゃ入ってるから「もうエエわ!」というほど潔さもなく……。
――どうされたのですか?
青木●結果的には、自分の中でオーケーな範囲内に収まったんです。でも、そこで自分が変ったような気がします。
――以前と比べて、アートディレクターの仕事や内容が複雑化してるような気はしませんか? 単純にデザインしていればいいという感じではない、と。
青木●それは確かに、独立してから強く感じます。サイトウさんのところではデザインの勉強はできるけれど、広告の全体像は勉強できないじゃないですか。だから独立してから広告の考え方を勉強させていただける方々や、お仕事に出会えたことはラッキーでした。
――いまも学びの意識は続く……と?
青木●はい。デザインと違う部分で、クライアントやスタッフとのコミュニケーションの取り方、仕事の組み立て方……と、きりがない。
――そう考えると、人が好きじゃないとできない仕事ですね。
青木●そうですね。人が嫌いだとストレスだらけですよ。
明日やれることは明日やろう
――現在、仕事に必要なインプットは何ですか?
青木●いまは……以前のように音楽もピンとくるものがないなぁ。ただ、美術展はよく見に行ってます。吸収できるときと、できないときがありますが。あと、街にあるものを見るのが面白いですね。それはアートディレクターの基本だと思いますが、いまの匂いみたいなものは知ってないと。
「JEANASIS」ロゴ、ショップバッグ、タグなど/ad+d:青木康子/2005/ポイント
――今後、いろいろなことをやりたいと言ってましたが、具体的には?
青木●やっぱり、トータルなデザインですよね。たとえば商品ならば、開発からパッケージから広告まで全部手がけてみたい。で、どうしたら、面白いコミュニケーションがとれるのか……と、考えることが面白い。WEBでも映像でもなんでもいいんです。どこか人を楽しませられたらいいなとか、クスっと笑わせられたらいいな、と。ギャグって意味じゃなくて。そういう願望は常にあります。一番うれしいのは「見てて楽しくなります」という反応ですから。
――青木さんが手がけた作品で、ジャイアンツのポスター大好きなんですよ。
青木●実物はGYマーク部分をUV印刷でバキバキに盛り上げてあって、オレンジの薄いアクリルが載ってるぐらいの仕上がりにしたんです。
――ちょうどプロ野球人気も落ちてない頃で……。
青木●この直後から、やんわりと下降しちゃったけど(笑)。
――お忙しいようですが、自分の時間はとれていますか?
青木●自分なりに規則正しくしているつもりですが、普通のお務めとは時間帯も休みも異なりますよね。独立した直後は、いつ休んだらいいかわからなくて……。でも、こんなことしてたらアカンと思って、最近は「明日やれることは明日やろう」ということが少しだけ増えました。全部はできてないけれど、身体を休める日も仕事のスケジュールと一緒だと考えて。
――それでは、最後にメッセージを。
青木●流れていきます、このまま(笑)。
「これがデザイナーへの道」第1回青木康子さんのインタビューは今回で終了です。
次回からは錦瓊 打越俊明さんのお話を掲載します。
次回からは錦瓊 打越俊明さんのお話を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀 作品写真:関川真佐夫)