第3話 先が見えると、先を見えなくするクセ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第3話 先が見えると、先を見えなくするクセ


何事も基準が「死なないだろう」


――「サイトウ・マコトデザイン室」での実務は、どのようなものだったのですか?

青木●当時はスタッフが4人いたのですが、ひとつの仕事について、まずラフを各々が作ってみるんです。一番最初に憶えているのが、流通系の15段新聞広告。撮影は終わってて、その展開をいくつか考えてみなさい、と。


――初めからトップダウンで、厳密な指示があるわけではないのですね。


青木●その後、全員のラフをバーッと広げて、サイトウさんが「あれとこれ」みたいに選んでいくんです。で、最初から私のラフを選んでもらえて……。すごく嬉しかった(笑)。

――社内プレゼンが通ると、サイトウさんの指示のもとで作っていく、と。

青木●もちろん、直すところは直されて。そういう点では、事務所内での緊張感がありましたね。でも、私にはとても楽しい環境で、学んだことはここでは言い尽くせないほどあります。

――そのころからDTPを?

青木●いいえ、まだ使ってなかったです。いまはバキバキ使ってると思いますが、私が辞めるまでは導入してませんでした。








「2000 東京国際マラソン」ポスター/ad+d:青木康子 p:大山 高/2000/日本テレビ



――94年までの計6年在籍されましたが、独立のきっかけは?

青木●自分の全責任で仕事をしてみたい、という気持ちが芽生えたのもあります。もうひとつ、前の会社でもそうでしたが……先が見えると、先を見えなくする クセがあるみたいなんです。環境が安泰してくると、一度その環境をつぶしたくなるらしくて……。サイトウさんのところでも、チーフという立場になってしまうと、もう次のところへ行きたくなってしまう(笑)。

――独立には不安を感じる人も多いと思いますが。

青木●私はむしろ、そのときワクワク感のほうが大きかったような気がします。もちろん、不安もゼロではなかったですよ。でも、見えないところに行くほうが面白くて。

――ポジティブなんですね。

青木●どちらかというと、そうかも知れないですね。お金の心配とかも、なくはなかったけれど……「まぁ、死にはしないだろう」って。私、追いつめられると何事も基準が「死なないだろう」なんですよ(笑)。


ウジウジやるより、きっぱり割り切る潔さ


――独立直後から、横浜美術館の仕事を多く手がけてますね?

青木●「サイトウ・マコトデザイン室」時代から、担当の学芸員の方が気に入ってくれてたんです。私の勝手な印象ですが、その人も美術館の中では異端的なタイプの人のようで……そのせいか自由にやらせてもらってきたけれど、実は内部で戦ってくれていたのだと思います。フリーになって特に、そういう方に恵まれていると感じることが多いですね。

――DTPの導入も独立されてからですか?

青木●そうです。まず、イラストレーター。でも、そんなに苦しまなかったです。



――アシスタントは?

青木●入れないつもりでした。作ること以外で人に気遣う変なストレスも嫌だし、いらないエネルギーは使いたくないと思ってましたので。事務所をガンガン大きくするというような野望もないし、猫の手も……というときは外注でなんとかしのいで。まぁ、お使いとかの雑用は困ることがありましたが。

――でも、いまはお一人ではないですよね?

青木●ええ。応募出品も面倒でやってなかったり、いつも時間がなくてセカセカしてるから、さすがにそろそろアシスタントがいた方がいいのかな……と思っていたら、たまたま知り合った子がデザイナーで、面白くてストレスも感じない。そこで、去年の秋から来てもらっているんです。

――現在の仕事は、自分の望むものができてるという自覚はありますか?

青木●不満はないです。だからといって、今の自分に満足しているわけではありませんが……「現実とは違う!」というような気分はないですね。逆に、もっともっと可能性がある仕事があるのではないか、と。



「ノンセクト・ラディカル 現代の写真III」ポスター、カタログ、チケットなど/ad+d:青木康子/2004/横浜美術館














――作品を見ると、非常にバランスよく多彩な仕事をされていると感じます。


青木●自分ではわからないですけれど……よく「パンチがある」とは言われます。でも今度から、そう言ってみようかな。「バランスのいい距離の取り方でデザインしてるんですよ」って(笑)。

――逆に「やっちゃった~」というような失敗は?

青木●……ないですね、たぶん。

――筋を大事にするタイプですか?

青木●ひとつの方向を目指して一緒に仕事をする人の心掛けや志は、あたりまえのことですが、やっぱり大事ですね。あまりにも失礼な人っているじゃないですか。黙ってデザインしろよ、みたいな姿勢。そういう人とめぐり合ったときは辛いです。

――性格的に、割り切りが早いほうではありませんか?

青木●そうかも知れないです。サイトウさんも、私がいないところで「あいつは潔いところがいい」と言ってらしたそうです。自分のタイプとして、案が出るときってガーッと集中していった頂点で「コレや!」というものをつかむ。でも、あるとき他のことで集中力を切らしてて「頂点逃したな……」と思った仕事があって。そうなると、納得いかないものしか出来ないことが自分でもわかっているので、すっかり頭を切り替えて、他のスタッフが作ったものにサイトウさんと一緒になって、ああだこうだと口出ししてたりして……。「お前はサイトウマコトか!」と、突っ込みが来そうなところなのですが(笑)。

――でも「潔い」と?

青木●はい。ウジウジやっててダメになるより、あの潔さがいいんだよ、と。

――初対面で失礼ですが……それは大いに感じます(笑)。

青木●最近まで、まったく自分のことを潔いとは思ってなかったんですけどね。


次週、第4話は「いまも学びの意識は続く」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀 作品写真:関川真佐夫)


[プロフィール]
あおき・やすこ●1965年大阪府生まれ。86年、嵯峨美術短期大学ビジュアルデザイン科卒業。在阪デザイン会社勤務を経て、88年からサイトウ・マコト デザイン室に在籍。94年に独立、PANGAEAを設立する。広告、美術館や企業ポスター、食品パッケージ、パスネットなどのロゴマーク、フリーマガジン 『metro min.』など、幅広い分野のデザインを手がけている。サンヨーポスターデザイン大賞、NY ADC 銀賞、東京タイポディレクターズクラブ TDC賞入賞、ほか多数受賞。
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