第2話 個人的な探究心と仕事との合致 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、Bluemarkの菊地敦己氏が手がけたデザインを紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。今回は、リクルートが主催し、280人ものクリエイターが参加した2006年末のチャリティー企画展「GOOD DESIGN GOOD SENSU」のビジュアルに注目。



第2話 個人的な探究心と仕事との合致



ちょうどポスターを作っていた頃に
興味を持っていたのが「枠」と「網」だった



──今回ご紹介いただくのは「GOOD DESIGN GOOD SENSU」の展覧会ビジュアルです。このイベントは、ある「お題」を元に多数のクリエイターが制作した作品を展示する、毎年恒例のチャリティー企画ですね。

菊地●そうです。2006年末に開催された展覧会では「扇子」がテーマになっていて、僕も作品を提供しました。展覧会自体のビジュアルとしては、ポスターとフライヤー、作品カタログの表紙周りのデザインを担当しています。


──全体的なコンセプトについて教えてください。


菊地●グラフィックでは「枠」に注目しました。一般的な慣習として、絵画などの作品は、額縁でフレーミングして飾られることが多いですが、その行為がどのような効果を生み出すかについて考えてみました。中身を良く見せたり、そこだけ違う空間性を作り出したりする効果があると思うのですが、そこを追究してみたのです。


──なるほど。確かに興味深いテーマですが、そもそも「なぜ、この展覧会のビジュアルのモチーフが枠なのだろう?」との疑問も生まれます。当然ながら、デザイナーとしての探究心だけで決めたわけではないですよね?

菊地●もちろんです。グラフィックに対する個人的で純粋な興味もありますが、自分勝手に「次に受けた仕事では、これを実験しよう」と画策しているわけではありませんから。仕事のコンセプトと合致した場合に、日頃から持っている自分の興味をモチーフとして扱っているのです。

──たとえば今回のポスターでは、どのような点が「枠」と合致していたのでしょうか?


菊地●展覧会場となるクリエイションギャラリーG8で、しっかりと外からポスターを認識させるためには、周りの環境と分離させる必要がありました。制作する際には、道路に面したガラスなどにポスターを貼る状況もイメージしたのですが、そこで周りとなじみ過ぎることは避けたかった。だからこその「枠」なのです。


──なるほど。そのような理由ありきで「枠」が採用されているわけですね。

菊地●そうです。次に「枠」で囲まれた部分について考えてみたところ、その空間は、前へ迫ってくるのではなく、奥へと入っていけるような雰囲気が適していると感じました。それを演出するために印刷の網点を利用しようと考えたのです。このポスターを作っている頃、この「網」についても「枠」と同様に興味があって、ちょうど僕の中では一種の研究対象だったので。

──「網」については、どのように活用されているのでしょうか?


菊地●乗っているインキと、その隙間から見えてくる紙地のバランスや空間について追究してみたんです。通常、僕が作るものは、特色をベタで扱うことが多いのですが、このポスターの枠内では、透過性が高いイメージの表現を行うために荒い網を使いました。また、小さな扇子のグラフィックは特色2色を重ねて刷っているのですが、各版のスクリーン角度を同角にしてあります。同角で刷ることで、必然的にモアレが発生する。意図的にモアレさせることで、メッシュのイメージを強調したわけです。


──まさに、デザインに対する探究心と、仕事で必要な表現が合致したわけですね。それにしても手が込んでいます。


菊地●このように話すと、色々と盛り込まれているように感じられるかもしれませんが、実は印刷表現へのこだわりは、今はそれほど大きくないのです。一時期は、本気で「実験的なこと」に挑戦していましたが、それが自分の中では、今や「普通のこと」になってしまいました。このくらいの感覚で普段からデザインしているので、あらためて「実験しよう」と意気込んでいるわけではないのです。


──なるほど。菊地さんのデザインでは、印刷に工夫されていることも多いですが、それは探究心と経験を蓄積してきた結果なのかもしれませんね。


菊地●ちなみに今回のポスターでは、コピーを自分で書いて追加しています。テーマである「扇子」とは何かを考えて、本来の役割である「扇ぐ」から「風を作るもの」とのキャッチを考え出しました。とはいえ「大きなサイズで中央に配置すると、展覧会のタイトルと混同されてしまう」との指摘をクライアントから受けたので、端に置いてあります。あと、小さく「センス」と入れたり。

──極体に級数の小さな文字ですね。少し近づいてみないと、遠目には見えないくらいです。


菊地●通常では、ちょっとありえないくらいのサイズでしょう。ただ、展覧会の性質上、グラフィックに興味のある来場者が多いですよね。だからこそ、このようなビジュアルも実現できるのです。同じポスターが、通常の商品広告の駅貼り用のものだとしたら、設計がデリケート過ぎるので印象が弱すぎて、正しい機能を果たせないと思います。「枠」や「網」への追究も含めて、この展覧会の仕事だからこそ、興味を持ってもらえる表現なのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第3話は「作品集のデザイン」について伺います。こうご期待。



[プロフィール]
菊 地敦己(きくち・あつき)●1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科在学中の1995年に「ネオ・スタンダード・グラフィックス」を設立。1997年 「スタジオ食堂」のプロデュースを経て、2000年に「ブルーマーク」を設立。ロゴマークやポスター、書籍、音楽CDなどのデザインのほか、長期に渡るブ ランディングも得意とする。展覧会企画や出版など非営利な活動、カフェのプロデュースなども手がける。2006年日本グラフィックデザイナー協会新人賞の ほか東京ADC賞、NY ADC賞などを受賞。


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