第4話 制作のスタンスと結果の関係性 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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Bluemarkの菊地敦己氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、目黒区美術館での展覧会「チェコ絵本とアニメーションの世界」のポスターを中心に話を伺い、制作スタンスについて注目する。



仕上がりの方向性を考えて
それに合わせたプロセスを採用する


──今回ご紹介いただける展覧会ビジュアルについて、まずは概要から教えてください。

菊地●「チェコ絵本とアニメーションの世界」は巡回展なのですが、目黒区美術館で開催されるものに関して、ポスター、フライヤー、チケットのデザインを手がけました。展示の内容自体がグラフィカルなものなので、それほど強いグラフィックを加える必要はなく、出展されるもののイメージを、どのように見せてあげるかがポイントとなりました。


──ポスターのメインビジュアルに使用されている絵は展示されている作品ですか?


菊地●ヨゼフ・チャペックの原画です。この仕事を依頼される前に、昨年開催された「チェコアニメーションフェスティバル」を偶然訪れていて、この作品も見たことがあったんです。だから内容もわかっていたし、今回の展覧会のイメージも理解していて「割とストレートに見せてあげるのがいいかな」と考えていたのです。ただ、ストレートに見せながらも展覧会としてのアイデンティティは、ある程度作らないと面白くないので、その点には配慮しました。


──展覧会としてのアイデンティティとは?


菊地●個別の出品作のイメージではなく、展覧会総体としてのイメージのことです。キュレーターとも相談したところ、目黒区美術館での開催では、学生など若い人にも訴求したいとのことでした。そこで、単に古いものとして見せるのではなく、今の時代性も加味しながら、チェコの歴史を感じられるように工夫しました。仕上がりを見ると、レトロでノスタルジックに感じられると思いますが、このようなイメージは、当時のチェコには実在しないはずです。蛍光色を使っているのもそのためです。


──部分的に見ていくと、たとえば文字を切り貼りしたような表現などでは、レトロな雰囲気を感じますね。


菊地●紙を手で切ってレイアウトしたり、植字を行ったりしたような、手作業の雰囲気を出しています。だから、レイアウトの際には、グリッドやガイド線を使っていません。モニタや出力紙を見て「大体このくらいかな?」と目視による大まかな見当を基準に作業しました。もちろん、厳密な作業が適している媒体の場合には、ガイド線をビッチリと引いて、0.01ミリ単位で調整しながら制作しますが、少し緩やかな印象に仕上げたい場合には、そのような方法は適当ではない。まず初めに最終的な仕上がりイメージの方向性を考えて、それに合わせたプロセスを採用するのです。


──タイトル文字などはフォントをそのまま使用するのではなく、作字していますよね。


菊地●タイトルが長かったので、長体をかけたりしながら調整していたのですが、ボディが縦長でも、しっかりと太い文字にできる最適な書体がなかった。そこで、最終的には文字を作りました。作字によってイメージを作るタイポグラフィの処理は、市場全体を見ても増えてきているので、少し飽き飽きしている部分もあるのですが……。


──制作する際に時代の流れを意識することも多いのでしょうか。


菊地●流行との関係性は意識します。広告をするからには、結果を出さなければいけないわけですから。運用期間なども考えながら、市場性に近くしたり、反対に市場性から離すことでインパクトを出したり、プロジェクトごとに考えますね。


──一方で、菊地さんの手がけた制作物の人気が高まってきて、「流行」になりつつある現状もあると思います。その点についてはいかがでしょうか。

菊地●もともと個人的なスタンスで出てきたものが、メジャーなものになりつつある時代だと感じています。そのようなブームの中で「何で、そんなにみんなが同じ方向を向いてしまうんだろう」と疑問に思うことは多いですね。そのような風潮が、しっかりとクライアントに価値を還元できるかというと、最終的には難しいと思いますから。


──何も考えずに時代の流れに合わせるわけではなく、最終的にクライアントへ還元される結果までも意識しながら、制作段階で自分が採用するスタンスを決める必要があるわけですね。


菊地●もちろんデザインには、ビジネス的な価値しかないわけではなく、広い意味では芸術の1つでもあると思いますが、お金をもらって携わる以上、そのプロジェクトの成功を意識することは最低条件であり、当然のことです。だからこそ「仕事は愛情」ですよ。どんなに正論を語っても、デザインする対象に対して愛情がないとうまくいかない。たとえば今回の展覧会の仕事では、もともと僕がチェコのアニメを好きだったこともあり、割と簡単に入り込みやすかったのですが、そうでない場合にも、クライアントやそのプロジェクトの良い部分を見つけて好きになり、そこを人に伝えることが大切なのだと思います。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


「このアートディレクターに聞く」第10回菊地敦己さんのインタビューは今回で終了です。



[プロフィール]
菊地敦己(きくち・あつき)●1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科在学中の1995年に「ネオ・スタンダード・グラフィックス」を設立。1997 年「スタジオ食堂」のプロデュースを経て、2000年に「ブルーマーク」を設立。ロゴマークやポスター、書籍、音楽CDなどのデザインのほか、長期に渡る ブランディングも得意とする。展覧会企画や出版など非営利な活動、カフェのプロデュースなども手がける。2006年日本グラフィックデザイナー協会新人賞 のほか東京ADC賞、NY ADC賞などを受賞。

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