第4話 「「Webの未来、そしてビジネスについて」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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2003年に設立された(株)ベースメントファクトリープロダクションは、メインであるWeb制作業務においてデザイン、サウンド、映像、プログラム、サーバー構築まで、クリエイティブに関するすべてを自社で手掛ける「トップクリエイター集団」として注目されている会社である。
「トヨタ自動車」「アサヒビール」といった大手クライアントをはじめ、様々な業種から高く評価されているのは、彼等が表層的なデザインだけではなく、ユーザー側のことをきちんと考えた広告をつくることができる、真面目に広告に取り組むクリエイティブチームだからでもある。今回はそんな(株)ベースメントファクトリープロダクションの代表である北村 健氏に話を伺った。

第4話 「Webの未来、そしてビジネスについて」



――Webにおけるビジネスとかは考えていますか?

●北村:私はソーシャルネットワーク系のサイトのアカウントを持っていません。個人的にあまり興味がないんですよ。ソーシャルネットワークがどうこうではなくて、単純に私のコミュニケーションスタイルと合っていないからだけなんです。私自身、Webという人類にとって新しい文化の中に身を置いているものですから、決して新しくて便利な、技術や文化を否定しているわけではありません。個人的に興味が無いだけで、イベントなどを告知できたり、同じ趣味の人を見つけたり、多くの友人の近況を知ることができたり、懐かしい人と偶然再会したりなどといろいろなメリットがある便利なツールであると認識はしています。

ただ、少しおこがましい言い方になってしまうのですが、若い人達の教育にとってどうかというと多少の疑問を感じています。直接人と会い、そこから生まれるコミュニケーションから学ぶことは多くあります。しかし最近の若い人達の多くは、コミュニケーションといえば全てをメールやソーシャルネットワークに依って、終始それらに頼っている。この傾向に私は危惧の念を抱いてしまうのです。私の場合、昔から一緒に食事をしたり、飲みに行ったり、遊びに行ったり、直接人と会ってコミュニケーションを取ってきました。時に言い合いや、取っ組み合いのけんかとかもしてきましたが、そう言った事も含めていろんな絆が深まっていくんですよ。

でも最近では前述したような直接会うことなく取るコミュニケーションが主流だったりするので、昔に比べて信頼関係においても凄く薄くなってきていますよね。そもそも信頼関係自体がきちんと成立しなかったりする。その結果、ちょっとしたことで仲が悪くなってしまい、そうなると執拗に相手を攻撃したり、誹謗中傷が半端じゃなかったりする。その仲が悪くなった原因も上手く相手に伝わらなかった故に起きた勘違いだったり。直接会ってコミュニケーションを取っていたら起こりえなかった事が必要以上に起こってしまうように思えるのです。もちろん、これらはデメリットとしての一部の側面ですが。でも確実に昔よりはそういった事をよく見受けられるようになっている。時代の流れだから仕方ないといってしまえばそれまでですが、本当にこのままでいいのかなぁと切に思いますね。

前置きが長くなりましたが、このようなデメリットの部分で私自身は色々とリスクを感じていて、また、個人的には興味の無い分野ですので、ソーシャルネットワークやブログといったようなコミュニケーションスタイルでビジネスを考える事はありません。

私たちのもっている戦略商品としては、前回少しお話ししましたがPIP(Person in Presentation)という表現技法があります。これはWebサイト上に人が登場し、実際に話すことによって分かり易くユーザーをナビゲートし、非常に高い確率でゴールまで導く新しい技法です。このPIPを世界に先駆け、企業サイトレベルで広告として手掛けたのは私たちでした。このような多くの人に優しく、汎用性の高い技術や表現方法にはビジネスとしてのチャンスは存分にありますので、これに止まらずこれからも追求していくつもりです。

――ベースメントファクトリープロダクションは、どんなスキルを持った人と働きたいですか?

●北村:私たちはスキルベースだけで人を判断したりはしません。全く同じではなくても、ある程度近い価値観を持った人がいいですね。どんなにスキルがあったとしても私たちと根っこの部分で大きく価値観が違ったり、常識観念の違う人とは一緒に仕事はできません。価値観を共有できて、多くの共通言語を持つという事はとても大切だと思っています。なのでスキルが十分でなかったとしても、この会社で働きたいというモチベーションが高く、私たちのポリシーやイズムといった部分に賛同してもらえる人であるのならウェルカムです。

――その共通の価値観とはなにですか?

簡単に言うならば「人」を大事にする。大切に思うといったことでしょうか。人を思いやる気持ちというのは仕事に大きく作用してきます。仮にスキルはあるけれど、思いやりに欠けている人の存在のせいでチーム全体が不協和音を出しはじめた場合、その人には抜けてもらうという判断をします。会社にとって、スキル的には大きなデメリットかもしれないですが、他の人たちのバイタリティや、メンタル面を左右することになるのであれば、会社としてはそっちの負のほうが確実に大きい。強い「チーム力」はスキル面においては何らかのフォローができますが、バイタリティやモチベーションが下がり、チーム力が低下してしまった場合の立て直しは非常に困難です。松下幸之助さんの「うちは人をつくる会社」という言葉から学んだことは多くあります。

他の業界に比べて、Web業界で働く若い人達は「ヒューマンスキル」といった部分では未熟な人が多いかも知れません。実際、そのように感じられる場面と多々遭遇してきました。Web業界自体が非常に新しい業界であり、しかも急成長を遂げてきた分、様々なことに関して淘汰する時間が無く、業界全体のルールやモラルといった部分が成熟する間もなくビジネスとして成立してしまい、今も尚成長し続けている。それは、人を育てるといった風潮や環境が乏しくなってしまっているというのに繋がっていると思うのです。



Webクリエイターといわれる人たちは専門学校を出て、すぐに重宝されたり、一線で仕事が出来たりする環境、状況が他の業界に比べて明らかに多い。これらは色々な面で未熟な人間を「自分はプロフェッショナルなんだ」と勘違いさせてしまう事を助長してしまっているとも言えます。一概には言えませんが、基本的に音楽でも、映像でも、デザインでも、カメラマンでも、アパレルでも、美容師でも、大工でも下積み時代は長くて辛い。しかしこの間にしっかりと先輩達のプロフェッショナルな仕事振りを間近で見、色々な事を学び、吸収することによって、スキルアップはもちろん、人としての形成もされていくと思うのです。この過程を踏まないと本当のプロフェッショナルにはなれないと私自身は思っています。そもそも近道なんてないと思います。

技術の成長、スキルアップだけに捕らわれることなく、人間としての成長にも努める。それが大切なんだときちんと理解、実践できる事が私たちの価値観でもありますね。


――最後にWebをつくる際に注意しなければいけないことがあるとしたらなんでしょうか?

●北村:私たちで言えば最終的に何処に落とし込むべきなのか。そのために今、自分は何をつくるべきなのか。間違ってない限り、最初に決めた事、ビジョンを最後までブレずに限りなく理想に近い形でゴールさせるよう意識しています。Webサイトを作り上げていく過程では色々な横やりが入ったりして、ゴール地点がブレそうになることが多いんです。でも、私たちはそれが絶対ブレないようにしています。

途中で間違いに気づいたら可能な限りゼロに立ち返り、もう一度練り直してリスタートする。もしくは、全体を俯瞰しながらそれぞれを精査し、方向転換が可能であれば一斉に変えるべき瞬間をつくる。途中でごまかしたり、付け焼き刃的な処置で逃げてしまうと、やっている事に矛盾が生じ、一貫性を欠いてしまったりもします。そして最終のアウトプットは間違いなく良いものには仕上がりません。



(取材:蜂賀 亨 写真:谷本 夏)


<(プロフィール)
'70年大阪府生まれ。2003年にWeb制作業務をメインとした「株式会社ベースメントファクトリープロダクション」を設立。CEO兼Exective Creaitive Director。
TIAAの審査員や宣伝会議Webディレクション講座の講師等も務める
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