第2話 京都高台寺のライトアップ - このアートディレクターに聞く 第38話 東泉一郎 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第2話 京都高台寺のライトアップ - このアートディレクターに聞く 第38話 東泉一郎

2024.5.11 SAT

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このアートディレクターに聞く
常に新しい表現を追い求める
第38回 東泉一郎



旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと創作のスタンスに迫るコーナー。第38回目は、数々のプロジェクトで常に新しい表現を追い求めてきたアートディレクター、東泉一郎さん。第2話では、京都の高台寺を鮮やかに彩った庭園ライトアップのプロジェクトに注目。



第2話 京都高台寺のライトアップ

いのちをテーマとした屋外での映像表現

 

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作品の中心的なテーマはいのち。映像作家の藤本康生氏、松本力氏らとともに水彩、影絵、コラージュ、珍しいキノコ舞踊団のダンス映像などを織り交ぜ、オルガノラウンジの音を背景に10分の尺を構成

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高台寺で投影された風景。荘厳な雰囲気にざっくりとしたタッチの映像がよく映える




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京都東山にある高台寺のライトアップは、歴史が古くて昔から人気なのですが、2007年秋の演出では、それまでの照明器具によるライトアップではなく、プロジェクターを使って境内に映像を映し出す演出がされました。また、三洋電機アドバンストデザインセンターとのコラボレーションにより、ソーラー技術の導入や、方丈の石庭に蓄光石を敷くなどの試みもなされました。

 

それに際して考えたことは、ワンサイクル10分のザックリとしたアニメーションを作ること。映し出される場所が石を敷き詰めた地面や周囲の樹々、建物などでしたので、細かく作り込んだものよりも、あえて大ざっぱで荒っぽい映像のほうが雰囲気にマッチしていたのです。それはテスト映写でも確認できました。もうひとつ決めたことは、CGを一切使用しないこと。すべて手作業でいこうと。お寺から仏教の心の話なども聞き取りつつ、一滴の水から生命が生み出される過程のイメージ、いのちから世界そして宇宙へ繋がるイメージを描くといった大まかなストーリーも用意しましたが、それは基本的には抽象的なものです。説明的に表現にしてもそういうのは単なる説得になってしまい、心に響かないですから。

 

具体的な表現手法としては、水彩、影絵、切り絵、コラージュ、身体の動きなど、さまざまな映像表現を織り交ぜて構成しましたが、厳密な絵コンテ沿ったものではありません。藤本康生さん、松本力さん、知公弓子さんらにも協力していただきながら、素材を入れ替えては確認し、という感じで編集していきました。音はオルガノラウンジの曲がもともとイメージに合っていたので、彼らにお願いして今回の尺に合わせたリミックスバージョンを制作していただきました。多くの素材は手描きだったりと、プリミティブな手法ながら、約3週間の製作期間で4000コマもの映像を完成させるのはとんでもなく大変でした。でも、理屈っぽく意味を追求するよりも、作者が命をすり減らしてつくれば、出来上がったものにも命は宿るだろう、見た人にもそれは伝わるだろう、と思ったんです(笑)。

 

2-2ソーラー電源車が門前に停まり、昼間は電力がチャージされていました。晴れた日には、それでその夜のプロジェクター3台×6時間分の電源がほぼ賄えるという話でした。会期中に訪れた参観客は約16万人。数百年の歴史という時間の流れのなかで、自分もその一要素となってのものづくりは、不思議な得難い体験でした。

(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)

 


profile
●東泉一郎
東京生まれ。理工学を学んだ後、現場労働者などを経てグラフィックデザイナーに。「センソリウム」のディレクターとして世界各地で実験的インスタレーションを行ってきたほか、日本科学未来館のための展示コンセプトデザイン、2002 FIFA World Cupのための演出コンセプトワークなどで、グラフィックのみならず、映像、プロダクト、Web、空間などを舞台に常に新しいものをデザインし続けている。
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