第3話 意味がないものの価値 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第3回目は写真家、瀧本幹也氏とともに生み出した写真集『BAUHAUS DESSAU:MIKIYA TAKIMOTO』の舞台裏に迫る。広告制作でのエゴを抑えた仕事に対して、非常にパーソナルな色合いの強い作品がこれ。その狙いと出版物に対する古平氏の思いを聞いた。

本はつくり手が発信するプロダクト。
「意味がないもの=ダメ」ではない。


――瀧本幹也さんの写真集『BAUHAUS DESSAU:MIKIYA TAKIMOTO』は、どういったきっかけで制作されたのでしょうか。

古平●『X-KnowledgeHOME特別編集 No.2 バウハウス』(エクスナレッジ)というムックを制作する際、出版社から“建築の世界では散々紹介されてきたものだから、今までの写真とは違う方法で見せられないか”と依頼されたのがきっかけです。そこで、建築をバウハウスのグラフィックっぽく写真で見せようと考えて、瀧本君に撮影をお願いしました。そうしたら、瀧本君から“いい写真が撮れたから写真集にしたい”って現地から電話があったのです。





ページ構成に関しては、「2冊に分冊することが決まってからは、迷うことなくデザインできた」という。展覧会は東京・表参道のスパイラルホールにて開催された。










――建築が主題なのにグラフィカル、というアプローチは多くのグラフィックデザイナー、フォトグラファーにとっても新鮮だったと思います。

古平●“こういうモノがあったら面白いよね”を発信するいい機会だったと思っています。われわれの業界でも、“意味のないもの=ダメ”みたいな風潮ってあるでしょう? そういった凝り固まったものの見方を打ち破る試みでもあります。こういった仕事のときは思い切りやらないとね。最近、ある講演会でも“やるときは、とことんやれ!”って話したばかりです。

この本に関しては、版型から厚みまで、一切妥協してつくるつもりはなかったんです。出版社に企画を持ち込んで、出版してもらえないなら私費で作ろうと思っていたくらいですから。
どっちが縦か横かもわからない特徴的な写真を見て、それを見開きで大きく見せていこうと、早い段階でイメージが浮かんでいました。

――ページの流れはどのように構成していったのですか?

古平●撮影した写真を全部見て、深いことはあまり考えず、感覚を頼りに並べていきました。この写真の魅力は、建築物だとわからないことだから、構成をまじめに考えすぎてその魅力が損なわれることを防ぐためにも、色のある写真とない写真で二冊に分けました。実際、『X-KnowledgeHOME特別編集 No.2 バウハウス』では、建築的な写真も採用していますが、写真集のほうでは入れていません。
出版に伴い開催した展覧会の会場構成、開催告知のフライヤー、ポスターなどの制作も並行して手がけました。

――やりたいことをすべてやった、という感じでしょうか。

古平●とにかくクオリティの高いもの、カッコイイものにしたいという気持ちで作りました。印刷や製本なども妥協しなかったし、その難しさも存分に実感しました。これは完全に“作品”だったので作っていて楽しかった。けれども、作品ばっかり作っていたら疲れるかも……(笑)。


――自分が作りたいものを作る意義についてはどう考えていますか。

古平●何かを発信するのは、世の中に対してという意味もありますが、自分たちの仕事のためにという側面もあります。表現の可能性を自ら積極的に広げていかないと、どんどん狭まってしまう危険性があると思うんです。中でも本は、もっと文化的であるべきなのに、最近は“わかりやすさ”や“売れるかどうか”ばかりが追求されがちですよね? それに汚れるから表紙にPP貼らなきゃダメと言われたり。本来、それは書店がていねいに扱えばすむはずのことなのに(笑)。どんどん窮屈になってきてる。だからこそこの写真集に関しては、大きさも表紙の厚さも、全部自分たちが思う通りに作りたかったのです。“たまにはこういうものがあってもいいでしょう?”ということで、未来に繋げたかったわけです。


(取材・文:山下薫 人物写真:栗栖誠紀)

次週、第4回は、「制約を逆手にとった発想」についてうかがいます。こうご期待。


[プロフィール]

こ だいら・まさよし●1970年大阪生まれ。'93-96年アキタ・デザイン・カン勤務。'97年独立しフリーランス。'01年FLAME設立。JAGDA新人賞、東京ADC賞、ニューヨークADC特別賞、The One Showシルバーの他、『BAUHAUS DESSAU:MIKIYA TAKIMOTO』では、2005年度東京ADC賞、HKDA(香港)銅賞、NY TDC賞などを受賞。

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