第2話 文化としての広告 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第一回目に引き続き、古平正義氏の近作を例に氏のアートディレクション術に迫る。今週、取り上げる作品は展覧会「アートフェア東京」と「TOTO」のポスター。さらには、古平氏が考える「文化としての広告」にもフォーカスする。


広告も文化のひとつ
美しいものを生み出すのはデザイナーとして当然


――アーキグラムの展覧会ポスターもそうですが、古平さんはアート業界の仕事を多く手がけていらっしゃいますよね。中でも、『アートフェア東京』のロゴは格好いいような悪いような絶妙なデザイン。このときは、どういったオーダーをされたのでしょうか



『アートフェア東京』ポスター
一番伝えたいメッセージは上段と下段部分に、ちょっと遊び心のあるメッセージは中程に配置。オレンジの文字部分はすべて箔押し。このポスターのデザインのほか、会場で販売されるカタログなども制作



古平●アートフェア東京というイベントを日本だけじゃなく、海外にも発信していきたいという主催者側の意図があったんです。だったら、“東京”はやっぱり漢字 だよね、と。でも、海外の人の多くは漢字を読めない。だったら、日本人も海外の人も等しく読めるように、漢字と英語を混ぜちゃえ!と思って。

――なるほど。

古平●僕の美的感覚からすると、このロゴはちょっとどんくさいんですけどね。でも、そのくらいのヘナリ具合でちょうどいいと思ったんです。海外で見かける日本 語って、見た感じちょっと変なものが多いでしょう? そういった感覚です。二枚目路線の格好いいロゴだとイヤミになっちゃうし、クセが強すぎると近寄りが たい。だから、その合間をとってデザインしました。

――メッセージを、コピーで読ませるアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

古平●コンテンポラリーアートってまだまだ一般的ではないと思うんです。なんとなく興味はあっても、身近じゃない遠い世界といったような感じですよね? この イベントを主導しているギャラリーの人たちには、そのことに危機感を感じている人が多いんです。僕はアート業界の仕事に割と多く携わっているから、他の人 に比べればアートに近い場所にいるけれど、それでもグレーに感じる部分はまだまだある。そこで、“わかりにくいから、言葉でストレートに説明しよう”とい うアイデアが生まれて、コピーは“カンパイ、ラガー”などの仕事で知られる東秀紀さんにお願いしました。

――説明的でわかりやすいアートフェア東京とは対照的なのが、『TOTO』の広告。これは美しい写真のみで表現されています。この狙いは?



『TOTO』広告
新製品を紹介するとともに、TOTOが“デザインを大切にしている”ということをアピールすることをコンセプトにデザインされた広告。これはインテリア雑誌などに掲載されたもの。同じデザインでポスターも制作された


古平●これは俯瞰から一発で撮影した写真なんです。カメラマンは瀧本幹也君。右下の便器が新商品で、それを紹介する広告でありつつ、ブランド広告にもなるよう に制作しました。有名デザイナーが作った家具やセンスのいい雑貨と並列することで、この商品がそれらと同様に、デザイン性に秀でてたものであることを訴求 しています。

――この白くてホワっとした不思議な雰囲気は、俯瞰で一発撮りすれば得られるというほど単純なものではありませんよね。

古平●これはライティングが特殊なんです。エッジがぼんやりとしていながら、トイレを一際輝かせるという手法。このトイレの目立ち具合や白さ加減などは、撮影現場で瀧本君と相談しながら作っていきました。

――古平さんの手がける広告には、広告としてしっかり機能しながら同時に美しいものが多いですよね。


古平●広告も文化のひとつだと思うんです。その認識を持つことは大切なことだと思います。単にわかりやすければいいわけでもないし、ただ美しければなんでもいいわけではありませんけれど、歴史を振り返ると、まっとうに美しくデザインされた広告がたくさん存在していますからね。



昔の広告業界は、美的に優れたものを作ることは当たり前で、そうではない広告はデザイナーではない人が作っていました。けれども、今は“アート”ディレク ターと名乗っているのに、美的価値を疎かにしている人が以前よりも増えているような気がします。だったら、違う肩書きを考えたほうがいいと思います。イラ ストの世界も、最近はヘタなことが個性と勘違いされて、ヘタウマ路線がほとんど。だから、いざ上手いイラストを頼みたいと思っても、若い世代で本当に上手 い絵を描ける人がなかなか見つからない。でも単純に絵が上手いことは、イラストレーターの基本中の基本のはずです。今、若くてしっかりした絵を描けるイラ ストレーターさんには、きっと仕事が殺到しますよ。


(取材・文:山下薫 人物写真:栗栖誠紀)

次週、第3回は、「意味がないものの価値」についてうかがいます。こうご期待。




[プロフィール]

こ だいら・まさよし●1970年大阪生まれ。'93-96年アキタ・デザイン・カン勤務。'97年独立しフリーランス。'01年FLAME設立。 JAGDA新人賞、東京ADC賞、ニューヨークADC特別賞などの他、アーキグラムのポスターとビジュアルブックがそれぞれThe One Showシルバーを受賞

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