第4話 制約を逆手にとった発想 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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こだわりの産物『BAUHAUS DESSAU:MIKIYA TAKIMOTO』に続いて、今週の作品は七色展開が鮮やかな『ワコール』のキャリーバッグ。多色展開へと至った理由と、制作上のリミットを逆手にとった発想について聞いた。


どんな状況もプラスに生かす。
すると思いがけない発想や感動が生まれる。


――赤、青、白、緑、黄、黒、ピンクの7色展開の『ワコール』のバッグ。これはどういった目的で作られたものなのですか?

古平●これはワコールの宣伝部からの依頼で、展示会の際やスタイリストに商品を貸し出す際に使用されるもの。大小2種類と封筒を制作しました。



古平氏が提案した中で、クライアントが最終的にセレクトしたのが“袋の口を折り返した案”と“多色展開の案”だった。その二つのデザインを融合させたものが最終案として採用された






――具体的なオーダー内容について教えてください。

古平●既存の紙袋や封筒を上質なものにリニューアルしたい、というだけのオーダーでした。特にこうしてほしいといった細かなリクエストはありませんでした。

――クライアントワークではあったものの、大きな制約がなかったということでしょうか。

古平●決まりごとがないといっても、ワコールという企業のツールですから、好きにしていいということはありません。ちゃんと目的があるわけですから。それを把握することは、どんな仕事でも大切なことです。

例えば、手にした人は電車に乗ったり街を歩いたりするわけですから、広告的な機能があったほうがいいのか、とか。見る人が見ると“変わったな”と思わせたほうがいいのか、とか。ある意味、ただバッグをデザインするだけではなく、ワコールのブランディングをするくらいのモチベーションで制作していきました。

――多色展開へと至った理由を教えてください。

古平●ワコールには、高級なブランドからカジュアルなラインまで、いろいろなブランドがあります。すなわち、このバッグは、どのブランドでも使われる可能性が あるということです。だから、高級なブランドからカジュアルなラインまでをカバーできるように、バリエーションが必要だと考えました。バリエーションを出 すアイデアのひとつが多色展開なのです。

これ以外にもワコールのマークを袋の真ん中に大きくレイアウトした案、住所をエンボスにしてレイアウトした案、袋 の内側にロゴを配置することで下着メーカーというちょっと秘めたイメージを表現した案など、全部で5種類くらいを提案しました。

――その中から色の案が選ばれたんですね。

古平●当初、白、黒、ピンク、あと1色の4色くらいで提案していたんです。でも、担当の方から7色にしたいと言われました。その理由は二つ。ひとつは商品の色 に7色展開が多いから。もうひとつは“これくらい色があれば、赤と緑と白を組み合わせるとイタリアの国旗、赤と青と白でフランスもできるから!”って (笑)。そういった発想って凄いですよね。

 僕たちは何ごともロジカルに考えがちだし、何かそれなりの理由を見つけなければならないと思っている。僕らの立場では、紙袋の色の組み合せでフランス国旗ができますよ、とは言えないでしょう?(笑)だから、ある意味、その斬新な発想には感心しました。

――デザインしていく際に、気を払った部分について教えてください。

古平●デザインしているかしていないかくらいのニュートラルなデザイン。“ワコールが少し変わったよね”って思われるかもしれないけど、さりげないし、奇抜すぎない。それに、これは二色印刷に見えるけど、紙袋も封筒も印刷は一色なんです。色の付いた紙を表側に折り返して、そこにロゴなどを印刷しています。だからバリエーションが豊富な割には、コストはかなり抑えられているんです。

――でも、そうは見えませんよね?

古平●どんな仕事だって予算は限られているし、様々な条件があるものです。でも、逆にそれをどうにかしてやろう、と考えていくと、思いがけない発想が生まれたりするんです。制作予算をたくさん用意して、たくさん色を使って作っただけでは、 “ふーん、予算がたくさんあったんだ、すごいね”で終わってしまう。それだと感動しないでしょう? みんな“限られた予算の中で一生懸命考える”っていうけど、それは当たり前。そうではなく、その枠に縛られず、枠を飛び越えて発想していかないと感動を与えられるものは生み出せないのです。



(取材・文:山下薫 人物写真:栗栖誠紀 作品写真:谷本夏)

「このアートディレクターに聞く」第1回古平正義さんのインタビューは今回で終了です。
次回からはgood design companyの水野 学さんのお話を掲載します。


[プロフィール]

こだいら・まさよし●1970年大阪生まれ。'93-96年アキタ・デザイン・カン勤務。'97年独立しフリーランス。'01年FLAME設立。JAGDA新人賞、東京ADC賞、ニューヨークADC特別賞などの他、アーキグラムのポスターとビジュアルブックがそれぞれThe One Showシルバーを受賞。

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