第4話 同じ曲を聴いている人との新しいコミュニケーション | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第4話 同じ曲を聴いている人との新しいコミュニケーション

2024.5.21 TUE

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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

2006年5月にスタートし、まもなく1周年を迎える音楽発見サイトMUSICSHELF(ミュージックシェルフ)は、CD、DVDなどエンターテインメント・パッケージの印刷・加工でトップシェアを持つ株式会社金羊社が始めた、音楽と人をつなぐサービスである。そのミュージックシェルフの企画・運営に携わる中村博久氏に話を伺った。

第4話 同じ曲を聴いている人との新しいコミュニケーション



——ミュージックシェルフだからこそのシステムの特性とはなんでしょうか?

中村●今は検索エンジンを使えば簡単に欲しい音楽情報がリストアップされるし、CD販売サイトなどではシステム的なレコメンドで関連する音楽情報が併記されます。そういう意味では、ミュージックシェルフには、「人」が選んだ曲=ヒューマンレコメンドの情報がどんどん集まってきているということが特性でしょうか。オススメCDなど雑誌やファンクラブ会報などで個別にあったりしますが、ここではアーティストや一般の音楽ファンの隔てなく、すべてのリスナーのプレイリスト・ポータルですので、情報量も質も明らかに違います。

ポジティブな音楽ファンの人たちが聴いているという楽曲の情報が集まってくるので、その結果、レコード協会のレポートとは違った、ある種“一歩踏み込んだ音楽ファン”のチャート的なものも出来上がってきています。ライト・リスナーとは違った、今まで漠然としていたポジティブな音楽ファンの層が見えてきているのかもしれません。もし彼らもレコード会社さんなど作り手と同じように、聴き手として現状の音楽環境を変えたいと考えているのだとしたら、ミュージックシェルフを通じて「いつまでも良い音楽を聴き続ける」ことのできる環境について一緒にアクションできればいいな、って思います。作り手と聴き手が一緒になって、いろいろ試行錯誤をして、新しい音楽産業と音楽生活の良い関係が見つかればいいですね。インターネットだからこそのインタラクティブ性がそこにはあると思います。


——視聴は考えなかったんですか?

中村●考えました。Pandoraやfinetuneのように全曲視聴できればいいのですが、日本の状況整備がまだ整っていなくて難しいというのが現状です。しかし、時期は未定ながら準備は進めていきたいと思っています。

——検索エンジンとしては、テーマ別でも選曲できるのしょうか?

中村●ミュージックシェルフ内での検索機能としては、プレイリストタイトルや楽曲名、セレクタ名やレビュー文中のキーワードで検索することができるようになっています。例えば、「ドライブ」とか、「海」とか何かテーマ性のある任意のキーワードで検索してもらえれば、そのキーワードにまつわるプレイリストが一覧でリストアップされます。

また、<つながり機能>というものがあって、ブログのトラックバックのように、あるプレイリストに関連するプレイリストを自由にリンクすることが出来ます。他の人の作ったプレイリストを見ていて、自分の作ったプレイリストとの関連性や共通点を見つけたら、例えば「ひとりでゆっくり」というキーワードで「つながり」を貼れます。ですから、それぞれのプレイリストにはそのような「つながり」が併記されていて、この「つながり」を辿って横断的にプレイリストを見ることができるようになっています。音楽に対する共通の「嗜好性」がデータベースを通してネットワークとして繋がっているということですが、実際つながり先のプレイリストとの意外な出会いでは、他にはない快感が得られるんじゃないかなと思います。


——今後はどのような展開を考えているのでしょうか?

中村●たくさんのチャレンジしたいことがあって、特にゴール地点は設けていません。でも、まずはミュージックシェルフ自体としてのサービスを充実させ良くしていきたいと考えています。リニューアルで、メンバーの方々もプレイリストを作って公開できるようになってきましたし、アーティストとリスナーの間で音楽を通じたコミュニケーションができるような企画をいくつか動かしていきたいと思っています。

ただし、サイトに訪れていただいた方が、自分は音楽には詳しくないからイイヤって感じることのないサイトであるよう心がけています。プレイリストを作るのは時間もかかるし確かに難しい部分もあると思いますが、音楽をたくさん知ってるから作れるとか、あまり聴かないから作れないということではけっして無いんです。音楽に「良い」「悪い」という概念は無いわけで、皆さんが好きな、皆さんにとって大切な音楽をどんどん書いていただきたいんです。ソーシャル・ブックマークのように、自分の音楽メモ的に使ってもらってもいいんです。そこから広がって、自分の好きな音楽の延長線上にまだ知らない音楽があって、その音楽と出会うことができれば、もっと音楽を聴くことが楽しくなるんじゃないかなって思います。


——デザイン的な話になりますが、サイト上のキャラクターにはなにか意味があるのですか?

中村●漠然とぼくたちは「シェルフおじさん」と呼んでいます。意味は限定していませんが、音楽はリラックスして聴きたいし、偏見を持たずにオープンマインドで行きましょ!ってことなんじゃないですかね(笑)。



左:画面右上に登場しているキャラクター「シェルフおじさん」



ミュージックシェルフは、WEBマガジンとコミュニティ・サービスをミックスさせた新しい媒体を目指しているのですが、インターフェイスや使い勝手などのデザイン的なところが一番難しいところです。サービスの広がりと比例して、インターフェイスが煩雑になってしまって、何も伝わらなくなってしまったら意味がないでしょうし。かと言って、合理的で機能的なオシャレで洗練されたインターフェイスは、もっと分からなくなってしまうのではないかと思っていて、デザインに関してはまだまだいろいろと試行錯誤しているところです。


——個人的に気になる他のインターネットメディアはありますか?

中村●個人的には、インターネット上よりは街のほうが面白いなと思っています。今は誰もがインターネット的な思考になっていると思うんですが、その思考のままリアルな街や店舗を見るとすごく面白いですね。ネット以前に比べて、街の見え方も情報の感じ方も違うし、リアル店舗の面白さなども改めてよく分かるんです。あれ、これってWeb2.0じゃん!って。アナロジーが逆転しちゃう(笑)。東急ハンズや青山ブックセンターに行くと、やはりすごいなあって思うんですよね。

何かないかなってふらりと立ち寄って、ああ、こんなのもあるんだって。ネットでもリアルでも、そういう思いになれる場所が面白いと思います。自分で自分の興味が分かっていれば、その興味の拡がりに関するものに対しては敏感ですから、瞬時にキャッチできると思うんですよね。最近、登録したり好みを分析されたりして、あなたの好きな情報だけお届けしますといったサービスがありますが、どうなんでしょう? そんなに興味って単純じゃないし、むしろ「価値ある無駄」との出会いや誰かのセレクションの妙を楽しんだりしたいし、そういう感覚がネットで表現ができたらいいなあ、と考えています。


——最後に読者になにかあれば

中村●今後も、使いやすいインターフェイスにしたり、参加しやすいサイトにしていきたいと思っていますが、ぜひメンバー登録(無料)をして、ご自身のプレイリストを作っていただきたいです。人に発表するというよりも、自分の音楽クリップという感覚で気楽に書いてもらえたらと思います。高校生の頃ほとんど毎日聴いていたとか、夏になったらいつも聴きたくなるとか。プレイリストを公開すると、同じ曲を選んだ人を発見できたり、その人が挙げてる他の曲を見たりして、新しいコミュニケーションがはじまると思うんです。それと、改めてプレイリストを書くことで、自分の音楽の興味の傾向なんかも再発見できたりします。引き続き、音楽をポジティブに聴く方々にとっての役立つサイトを目指して、ミュージックシェルフをより良いものにしていきたいと思っています。


( 中村博久さんのインタビューは今回で終了です。次回はprojectorの田中耕一郎さんを予定しております)


(取材:服部全宏(GO PUBLIC) 編集:蜂賀亨  撮影:谷本夏)




中村博久●なかむらひろひさ
MUSICSHELF編集部
株式会社 金羊社 企画営業部 副課長

(プロフィール)
1968年生まれ、神奈川県横浜市出身。
主にエンターテインメント商品やプロモーションの分野で、DVDやWebサイトのディレクションを行っている。

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