第2話 新しい価値を提示するデザイン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、長嶋りかこ氏が手がけたデザインを紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。今回は、装いを新たに再開された表参道の明かりのイベント「akarium」に関連したグラフィックに注目し、一連の制作物を紹介する。



新しい価値を提示しないと
次のステップに進めない





──まずは、今回ご紹介いただける作品とイベントの概要から教えてください。


長嶋●8年振りに表参道で明かりのイベントが開催されたのですが、そのビジュアルを担当させていただきました。過去に、初めて表参道がイルミネーションを展開したときには、洋風のきらびやかなもので、それは日本で草分けになったし、当時はすごく新しかった。ただ、今回は久しぶりに開催されることもあって、主催者側としては、新しい明かりのイベントにしたいとの意向があったのです。そこで、明治神宮に繋がる参道とともに発展した街であることに立ち返り、「和」の明かりをテーマにすることになりました。

──以前に開催されていたイベントから、タイトルも一新されていますね。


長嶋●照明のデザインを面出薫さんが担当なさって、行灯をモチーフにした明かりが制作されたのですが、「和」の明かりという新しい価値を提示するにあたって、イベントの呼び方が「イルミネーション」は適当な言葉ではない。そこで弊社のコピーライターの木村元紀が、「akari」という言葉と、空間を示す「ium」を組み合わせて、「akarium」という言葉をつくりました。そして言葉が定着するためにも、ちゃんとロゴマークがあってイベントとして広がっていったほうがいい、ということでロゴデザインの依頼が来ました。


──そのネーミングを用いたロゴは、どのようなモチーフで構成されているのでしょうか。


長嶋●上に配置してあるマークは、行灯の中に入っているロウソクの炎を遠目に見たときの暖かさをイメージしています。同時に黄色のグラデーションの広がりは、「日本独特の美意識を再発見しよう」といったメッセージが少しでも広がってほしいとの願いを込めています。文字についても、欧米要素の英字表記を、日本独特の縦組みにすることで、和風と洋風をミックスしたのです。マークとロゴタイプの位置も、家紋と屋号の関係を意識しています。


──欧文を縦に組むのは、バランスが難しかったのではないでしょうか。


長嶋●そうなんです。本当に難しくて、一所懸命にラインを揃えましたよ(笑)。さらに会期中には、いろいろな関連イベントも開催されましたので、それらの場でも汎用的に使用できるように、ロゴの文字に基づいたオリジナルの書体を作成しています。


──ラウンドがかった文字が特徴的ですが、それは強く意識されたのでしょうか?


長嶋●意識しましたね。「akarium」という言葉の持つ音の響きから、決して男っぽいイメージではなく、むしろ丸みを帯びた儚い印象を受けたことが大きな理由です。女性的なフォルムになるように、また明かりの細々とした感じを演出するために、少し書体を細らせたりもしています。


──マークについても、文字と同様に幾何学的な印象が強いですが、どのような意図があるのでしょうか?


長嶋●ロゴとしても機能しつつ、いろいろな場所で、それぞれの役割を果たすことができる構造にしたのです。たとえば、ポスターの写真の上に配置したときには、明かりのグラフィックにもなり得る。マークを覚えてもらいつつ、このグラフィックで「表参道に明かりがつくイベントなんだ」と認識してもらえる。それから行灯についているこのマークはQRコードのような役割もしていて、ケータイで写真を撮ってアカリウムコールというイベントの特設応募サイトに飛ぶこともできる。マークの形状をシンプルな形状にすることで汎用度を高めたかったのです。


──そのほかにポスターを制作する際に気を配ったことを教えてください。


長嶋●ポスターの構成も「和+洋」を強く意識しています。白と黒を組み合わせているので、水墨画のようにも見えるでしょう? カメラマンは鈴木心さんにお願いしたのですが、彼の写真には空気感があって、濃淡が墨で描いたように見えました。そういった日本画のような雰囲気を醸し出しつつ、フラットなものに奥行きを持たせた表現をすることで「パース」という西洋の要素も取り入れているんです。「和」に偏りすぎることなく、もちろん「洋」に寄りすぎることもなく、自分の中では、新しい日本画を描くくらいの気持ちでデザインしていきました。

──ほかにも、リーフレットや紙袋、コースターなど、多くの関連ツールを制作されたそうですね。


長嶋●そうです。それらのツールでも、基本的に文字情報は縦に組むことを徹底しています。また、手元に残る媒体に関しては、和紙のような紙を使用しています。人々がアカリウムのイメージを持ち帰るものなので、気を配りました。


──全体的に俯瞰して、とても新しい「和洋折衷」のイメージが表現されているように感じました。


長嶋●この仕事に携わったことで、日本人としてものを作っていくことを意識するようになりましたね。日本人ならではの表現は、日本人である自分にしかできないことですし、それを強みにして世の中に発信していくことは、すごく大事なことだと感じました。

──イベント自体に対する周囲の反響は、どうだったのでしょうか?


長嶋●新しい試みだったので、以前の洋風のものを期待して訪れた方は、ギャップを感じたかもしれません。ただ、新しい価値を提示していかないと、次が生まれない。ここで挑戦したことで、次にステップアップできますよね。だから、今回で得た課題は克服すべく、まず続けることに意味があると思います。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第3話は「パッケージの持つ表情」について伺います。こうご期待。




[プロフィール]
長嶋りかこ(ながしま・りかこ)
1980年茨城県生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業、同年博報堂入社。2002年ひとつぼ展入選、2004年ニューヨークADC Distinctive Merit、2005年毎日広告賞奨励賞、2006年ニューヨークフェスティバルファイナリスト、ADC賞受賞。

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