第3話 パッケージの持つ表情 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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前回に引き続き、長嶋りかこ氏が手がけた作品を紹介し、その制作過程における思考プロセスに迫る。第3話では、商品パッケージのデザインに注目。キリンビールの「円熟」と、AGFの「味わいカフェオレ」にスポットライトを当てて詳しく話を伺う。



やっぱり大切なのは
デザインする対象への愛




──今回ご紹介いただけるのは商品パッケージですね。まずは「円熟」から概要を教えてください。


長嶋●「円熟」については、弊社の佐野研二郎のアートディレクションの下、私はデザイナーとして関わりました。味のしっかりした発泡酒なので、パッケージでもおおらかさや濃厚なイメージを表現しています。


──デザイナーとしての仕事のときには、どのようなスタンスで仕事に携わるのでしょうか?


長嶋●普段、佐野の下で仕事をする場合には、もちろん彼のイメージを形にすることも大事な仕事なのですが、それとは違うビジュアルを彼に提案するようにも心がけています。案の幅を持たせるという意味ではなく、自分のフィルターを通したものも見てもらう。自分の意志がはっきりしないままに、なんとなくアイデアをたくさん持っていっても佐野も判断しづらいし、仕事がスムーズに進まない。だから打ち合わせの際には、佐野がクライアントの要望を解釈して私に指示をしたものと、自分なりの答えを出したもの、どちらもきちんと説明できるように努めています。その説明も伝わりやすくするために、わざと振り幅を大きくした案を持っていくこともあります。例えばパッケージの金色を決める段階になるとそれはだんだん微差になってくるのですが、比較の対象を提示することで、判断しやすくなるよう工夫したりします。

──デザイナーの役割を務めるのと、ADとしての立場で仕事をするのでは、やはり違いが大きいですか?


長嶋●違いはありますね。デザイナーはデザインの定着に重きを置きますが、ADとしての仕事では、自分が判断することに重きが置かれます。何より大事なのはデザインや表現ではなくて、まずはどのようなたたずまいに仕上げるかを決めること。それを決めなければ何も始まらないし、決めずに無理矢理スタートしまうと、仕上がりの段階になっても迷ったりして良くならないんです。


──なるほど。それでは続いて、ADとして関わっている「味わいカフェオレ」について、お聞きしていきます。こちらは、どのような仕事ですか?


長嶋●入社2年目で、経験が浅かった頃に、初めてディレクションを任された仕事です。最初の頃に作っていたデザインでは、「パッケージにもっと顔つきをつけたら? ちゃんと佇まいをデザインしたほうがいいんじゃないかな。」と佐野にも指摘されていました。その後、リニューアルを機に「パッケージの顔つき」をより意識しながら制作したのが今のパッケージなのです。


──「パッケージの顔つき」とは、どのようなことでしょうか?


長嶋●悲しい気持ちのときには暖かい雰囲気のパッケージに引きつけられるだろうし、自分へのご褒美として購入する場合にはゴージャスな見栄えのものを選ぶでしょう。そのとき、商品の佇まいがしっかりと表現されていないと、消費者にとって選びにくいんです。


──それでは、そのようなことを踏まえて、リニューアルの際に配慮した点を教えてください。


長嶋●この商品はミルクのような味わいが特徴です。しかし、「ミルクたっぷり」と押し出したいのだけれども、法的な制約があって、その言葉を文字で盛り込むことができなかった。しかもリニューアルではそのミルク感が増したということを言いたいと。そこで、それをグラフィックで感じさせるような表現にしようと考え、ミルク瓶の絵をシンボルにし、それを手描きすることで、コクを感じる牧歌的な佇まいに仕上げました。


──なるほど。流通上の制約を守りながら、いかにミルクの雰囲気を出すかがポイントだったわけですね。


長嶋●そうです。リニューアル後は、店頭にもズラリと並べてもらえるようになり、とても手応えを感じました。


──商品パッケージは、いわゆるポスターなどより消費者に身近なところにあるので、「成功した」「失敗した」という直接的な実感も強いのでしょうか。


長嶋●そのような側面はありますね。自分が手がけた商品が、もし売れなかったら「私の責任かも」と焦ります。自分自身も商品のためにと自分がデザインした商品を実際に購入することも多いんです(笑)。「味わいカフェオレ」も、リニューアルして可愛くなったし、自分でも気に入っていて、よく買っています。やっぱり大切なのは、デザインする対象やクライアントやそれを手に取る人への愛だと思いますよ。

──商品パッケージでは、マーケティングに基づいて狙っていく部分と、自分の感覚を大切にする部分の両立が難しいと思いますが、その割合はいかがでしょうか?

長嶋●感覚的にデザインする段階があって、その後で一歩引いてみて「本当にこれで良いのか」と冷静に考えるので、割合は半々です。その作業を怠ると、独りよがりの閉じたものになってしまいますから。それに、市場を強く意識しながら制作しても、自分のフィルターを通してデザインすると「自分らしさ」は自然に出るものではないかと思いますね。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第4話は「もの作りに対する姿勢の転機」について伺います。こうご期待。




[プロフィール]
長嶋りかこ(ながしま・りかこ)
1980年茨城県生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業、同年博報堂入社。2002年ひとつぼ展入選、2004年ニューヨークADC Distinctive Merit、2005年毎日広告賞奨励賞、2006年ニューヨークフェスティバルファイナリスト、ADC賞受賞。

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