第4話 もの作りに対する姿勢の転機 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

長嶋りかこ氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、ピアノの鍵盤をモチーフに作成されたプログラムとポスターを紹介する。彼女にとって「ものを作るうえでの良い転機となった」という仕事だ。




どれだけ真剣に打ち込んだかが
作品にも反映されることを学んだ




──今回ご紹介いただけるのは、いつ頃の作品でしょうか?


長嶋●私が入社3年目のときの作品です。ちょうどその頃は、いろいろと仕事で悩んでいた時期で、自分なりに「これは良くできた」というものを1つでも作って自信をつけないとマズイと考えていたんです。そんなときに、偶然、姉から「ピアノの発表会のプログラムを作ってほしい」と依頼されました。実は、その前の年にも、同じように頼まれていたのですが、そのときは日々の忙しさを理由に断っていたんです。でも、その年は「いいチャンスだ」と思って、引き受けることにしました。


──このプログラムは、発表会の開催前に、子どもたちの手元に届けられたそうですが、どのようなコンセプトでデザインなさったのですか?


長嶋●私も小さい頃にピアノを習っていたのですが、とにかく発表会は緊張するんですよ。それで当日は、自分の順番が回ってくるまで、プログラムを膝に乗せながら、その上で運指の練習をしていたのです。そのことを思い出して、プログラム自体が鍵盤の形をしていれば、練習しやすいのではないかと考えたんです。
テクスチャも、できるだけ本物に近い質感になるように工夫して、黒鍵と白鍵の違いを出しました。さらに裏面は、発表会を緊張するものではなくて、華やかなイメージとして感じてもらえるようにデザインしています。

──ピアノの鍵盤を模した部分は、とてもリアルな仕上がりです。裏面も含め、とても印刷に力が入っていますね。

長嶋●裏面は銀の箔押しで、華やかさを演出しています。鍵盤はバーコ印刷でニス引きしているのですが、その下にPP加工も施しているので、初めのうちは、なかなかうまく印刷できなかったんです。日光プロセスの鈴木さんには、とても頑張ってもらいました。

──プログラムに合わせて、ポスターも制作されたのですね?

長嶋●ポスターについては、特に依頼されていたわけではなかったのですが、せっかくなので自主的に作りました。鍵盤の形のプログラムを膝の上に置いて、表情豊かに色々な曲を練習している女の子を撮影しています。子どもにピアノを習わせている親にとって、自分の娘が可憐にピアノを弾いている姿をイメージさせるビジュアルです。


──お母さん方の反応も良かったのではないでしょうか?


長嶋●ポスターを会場で見て「素敵ね」と言ってくれるなど、評判は良かったです。そのときに、自分で作ったものに対して喜んでくれている人の姿を、初めて直接見ることができたんですよ。子どもたちが「これ、お姉ちゃんが作ったの。すごいね。可愛いね」と言ってくれたことも嬉しかった。「ああ、こういうことだよな、きっと」と感じて、何かを掴んだような気持ちになりました。


──「こういうこと」とは、どのようなことでしょうか?


長嶋●商品やクライアント、消費者のためになることを考えてデザインすると、自然に喜ばれる仕上がりになるのだということです。どれだけ自分が真剣に打ち込んだかが、作品のクオリティにも反映されるのだと学びました。また、自分が良いと思うことに純粋に突き進むことが大切で、それを仕事でもやれば良いのだな、とも感じました。


──ちなみに、今回の作品は、会社として受けた仕事ではなくて、あくまでも個人的に受けた仕事なのですよね?


長嶋●そうです。いつも一緒に仕事をしていたスタッフに協力してもらって、作品制作という位置づけで取り組みました。撮影の当日は自分で買ってきた子どもの洋服をスタイリングしましたし、ヘアメイクも担当しました。カメラマンの青山たかかずさんも楽しんで撮ってくれて。すごく「作っている」という実感を持つことができて、撮影もその後のデザインも楽しかったです。


──周りに協力してもらったことも、大きなモチベーションになったのでしょうね。広告の仕事では、関わる人が多いことで、大変なことも多いと思うのですが。


長嶋●そうですね。私は、まだまだ勉強しなければならない部分も多いですが、やはり協力者とのコミュニケーションは大切だと思います。アートディレクターは、みんなで働く場を作ったり、いろいろ操作しなければならないことも多いので、「船長」になれる能力は必要です。舵取りをするのに頼りない人だったら、その船には誰も乗ってくれないでしょう。だから、そのようなたくましさや潔さ、コミュニケーション能力などを、これからも養っていきたいと考えています。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


「このアートディレクターに聞く」第12回長嶋りかこさんのインタビューは今回で終了です。次回からは帆足英里子さんのお話を掲載します。




[プロフィール]
長嶋りかこ(ながしま・りかこ)
1980年茨城県生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業、同年博報堂入社。2002年ひとつぼ展入選、2004年ニューヨークADC Distinctive Merit、2005年毎日広告賞奨励賞、2006年ニューヨークフェスティバルファイナリスト、ADC賞受賞。

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在