オブジェ作家・勝本みつるさんの作品集を、以前「これがデザイナーへの道」に登場した坂本志保さんが手がけている。今回の対談では、編集者の加藤郁美さん(月兎社)を加えながら、その制作過程をたどってみよう。
第3話 創作と「本作り」の関係
デザインに対する許容範囲の広さ
加藤●勝本さんの作品は、たくさんの文芸作品の装幀に使われています。立体作品の写真をカバーに使うというのはなかなか難しいものなのですが、勝本さんの作品は印刷物にしたときに非常に映える。だから今回、勝本さんの作品集のカバーをどういうふうなものにするか、かなり楽観視していました。あれだけ他の方の本の装幀に使われていて、カバーに向いた作品だということが実証されていたので、作品をぽっと持ってくれば簡単に済むと思っていた。でも、そこに本の装幀の難しさ、不思議さというものがあって、作家ご本人の作品集だから、作品がそのまま出てていればいいというものではなかったんですね。そのへんの謎を坂本さんにうかがいたくて。
坂本●一番最初のラフのとき、加藤さんにも言ったのですが、装幀にハマるのでいくらでも方向性が出てくる作品なんですよ。だから、どんどん考えていくうちに、作品を見せるのがもったいなくなってきた。
勝本●で、文字だけのパターンが出たんですね。
坂本●はい。どうやってもスタイリッシュになってくれる。それは作品に力がないということではなく、作品の世界観が確固としている分、デザインに対して許容範囲が広いということです。たとえば、書体も明朝系で細い文字が雰囲気に合うのですが、ゴシックの太い文字も意外に合う。ラフ作りって煮詰まってしまいがちなのですが、今回は逆に浮かびすぎて、自分はどうしたいのかわからなくなるほど、発想が出てくる。だから、装幀にものすごく使われるというのは、すごく納得したのですが。
坂本●一番最初のラフのとき、加藤さんにも言ったのですが、装幀にハマるのでいくらでも方向性が出てくる作品なんですよ。だから、どんどん考えていくうちに、作品を見せるのがもったいなくなってきた。
勝本●で、文字だけのパターンが出たんですね。
坂本●はい。どうやってもスタイリッシュになってくれる。それは作品に力がないということではなく、作品の世界観が確固としている分、デザインに対して許容範囲が広いということです。たとえば、書体も明朝系で細い文字が雰囲気に合うのですが、ゴシックの太い文字も意外に合う。ラフ作りって煮詰まってしまいがちなのですが、今回は逆に浮かびすぎて、自分はどうしたいのかわからなくなるほど、発想が出てくる。だから、装幀にものすごく使われるというのは、すごく納得したのですが。
上/実際のカバー入稿デザイン。表1から背?表4、袖にかかる抽斗写真のトリミングにも、微妙なサイズ違いによる試行錯誤があった
左/ほぼ決まりかけたが、最終的にボツとなった文字のみの表1デザイン。画面ではわかりづらいが、地色の黄色の部分にグロスニスを引き、書名を白抜きの予定だった
——装幀の仕事の場合、作り下ろしですか? それとも既存のものから選んで?
勝本●ほとんど、あらかじめあるもので、たまに作り下ろしのリクエストもあります。
加藤●いままでの装幀作品を見ると、タイトルにはほとんど明朝系の書体があてられています。私も当初、明朝系を考えていましたが、その一方で、坂本さんのデザインに対してはゴシック系のタイトルというイメージを持っていたんです。今回、坂本さんにお願いしたのには、これまで勝本さんの作品にあったエレガントで古典的な明朝系というイメージを、坂本さんにずらしていただきたいという思いもあって。勝本さんの作品を扱うときの「いかにも」という感じではないものを、あえて作品集では出したかったんです。
勝本●ほとんど、あらかじめあるもので、たまに作り下ろしのリクエストもあります。
加藤●いままでの装幀作品を見ると、タイトルにはほとんど明朝系の書体があてられています。私も当初、明朝系を考えていましたが、その一方で、坂本さんのデザインに対してはゴシック系のタイトルというイメージを持っていたんです。今回、坂本さんにお願いしたのには、これまで勝本さんの作品にあったエレガントで古典的な明朝系というイメージを、坂本さんにずらしていただきたいという思いもあって。勝本さんの作品を扱うときの「いかにも」という感じではないものを、あえて作品集では出したかったんです。
自分の手を離れて動くもの
——坂本さんは“作字”の人というイメージもありますね。
坂本●今回もやってますよ。タイトル、実は1書体ではないんです。ゴシック案も組み変えていて、明朝案も昔の活版系のものを。
——ああ、よく見ると「y」も坂本さんらしい。
左/決定したロゴ。3種類のゴシック書体を組み合わせてある
右/候補に出した明朝ロゴ案
坂本●すごくうれしかったのは、勝本さんも加藤さんも細かいところにこだわりを持ってくれているところ。同じゴシックでも、手を入れてないようで加えているようなところを見てくださって。
——紙の素材は?
坂本●すごく自由に選ばせていただいて。何パターンか案を出して、かなり面白い紙を使うことになりました。
——このような作品集だと、しっとり系?
坂本●白い木函の作品が多いので、白でも微妙に違う所を出す為に、本文紙も繊細なものになりますね。でもカバーは作品から抽斗に変わってから、紙も変わって。最初はミニッツGAという布地テイストの紙だったのですが、抽斗写真のガジェット感とちょっと合わない感じがして。そこで、裏が白で表がクラフト紙の包装紙の裏の白を使おうという案を出しました。装幀も表紙の仕様とか扉の紙とか凝った造りができました。勝本さんの作品を見ていたら、私も刺激を受けて工作魂が出て、紙見本も候補を四角く貼って提出したんですよ。
勝本●あれ、特別だったんですね。
坂本●今回の仕事、楽しくて。いろいろそんなことをやりたくなっちゃうんですよ(笑)。
——紙の素材は?
坂本●すごく自由に選ばせていただいて。何パターンか案を出して、かなり面白い紙を使うことになりました。
——このような作品集だと、しっとり系?
坂本●白い木函の作品が多いので、白でも微妙に違う所を出す為に、本文紙も繊細なものになりますね。でもカバーは作品から抽斗に変わってから、紙も変わって。最初はミニッツGAという布地テイストの紙だったのですが、抽斗写真のガジェット感とちょっと合わない感じがして。そこで、裏が白で表がクラフト紙の包装紙の裏の白を使おうという案を出しました。装幀も表紙の仕様とか扉の紙とか凝った造りができました。勝本さんの作品を見ていたら、私も刺激を受けて工作魂が出て、紙見本も候補を四角く貼って提出したんですよ。
勝本●あれ、特別だったんですね。
坂本●今回の仕事、楽しくて。いろいろそんなことをやりたくなっちゃうんですよ(笑)。
坂本さんが「工作魂」を喚起されて提出したという、紙見本リストの一部
——収録作品39点で、全部で何ページ?
坂本●80ページです。
勝本●作品構成や流れは加藤さんに全部おまかせしてしまって。もともと出版社で人文系の編集者として活躍してこられた方ですが、その分野の編集者で加藤さんのようなビジュアルのセンスを兼ね備えている人は稀なのかも。
加藤●勝本さんの場合、本と作品を切り離して考えてらっしゃいますよね。普通、もっと口出しされると思うんです(笑)。この作品はこういうセレクトでこういう流れで……とか、作家ご自身で決めたいというほうが多いと思うのですが、勝本さんは「本は別物」と。
勝本●本は編集者の持ち場と思っているんです。この本は加藤さんが編集して出版しようと思ってくださったわけで、加藤さんの仕事だと。それでも、細々わがままを言ってるかもしれませんが……。
坂本●そうした客観的なところが、勝本さんらしさなんですよね。
勝本●仕事が自分の手を離れて動いてゆくことが、とても嬉しいから。デザイナーである坂本さんが動かしてくださることもそうで、私は制作だけをしていたい、というのがベースにあります。今回のような広がりは望んで得られることではないですよね。
坂本●80ページです。
勝本●作品構成や流れは加藤さんに全部おまかせしてしまって。もともと出版社で人文系の編集者として活躍してこられた方ですが、その分野の編集者で加藤さんのようなビジュアルのセンスを兼ね備えている人は稀なのかも。
加藤●勝本さんの場合、本と作品を切り離して考えてらっしゃいますよね。普通、もっと口出しされると思うんです(笑)。この作品はこういうセレクトでこういう流れで……とか、作家ご自身で決めたいというほうが多いと思うのですが、勝本さんは「本は別物」と。
勝本●本は編集者の持ち場と思っているんです。この本は加藤さんが編集して出版しようと思ってくださったわけで、加藤さんの仕事だと。それでも、細々わがままを言ってるかもしれませんが……。
坂本●そうした客観的なところが、勝本さんらしさなんですよね。
勝本●仕事が自分の手を離れて動いてゆくことが、とても嬉しいから。デザイナーである坂本さんが動かしてくださることもそうで、私は制作だけをしていたい、というのがベースにあります。今回のような広がりは望んで得られることではないですよね。
無事刊行された、勝本みつる作品集『one day 或る日』(B5版カラー80ページ/月兎社/4300円)
フランス装、包装用途が多いクラフト紙を裏使用したカバー、チョコレート色のグラシン紙による別丁扉など、こだわり全開な繊細な造本が美麗。
購入方法は、月兎社サイトをご覧ください
フランス装、包装用途が多いクラフト紙を裏使用したカバー、チョコレート色のグラシン紙による別丁扉など、こだわり全開な繊細な造本が美麗。
購入方法は、月兎社サイトをご覧ください
次週、第4話は「仕上がりに向けた共通認識」を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] さかもと・しほ●グラフィック・デザイナー。安齋肇氏のアシスタントを経て、1985年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを手がけている。 |
かつもと・みつる●美術家。2004年「living things」(ガレリア・グラフィカ)、2006「a birth」(MA2ギャラリー)など、ほぼ年1度のペースで個展。小川洋子の著作、江戸川乱歩全集など、書籍の装画も多い。 |
かとう・いくみ●出版・編集「月兎社」を主宰。
http://www.gettosha.com
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