オブジェ作家・勝本みつるさんの作品集を、以前「これがデザイナーへの道」に登場した坂本志保さんが手がけている。今回の対談では、編集者の加藤郁美さん(月兎社)を加えながら、その制作過程をたどってみよう。
第4話 仕上がりに向けた共通認識
何ものにも代え難い作歴
——こうしたアートブックの場合、色校が難しいのでは?
坂本●そうですね。だから印刷現場に立ち会いに行こうと思っているのですが。特に今回は白い枠が多いので、それが赤に転ぶ傾向があって……。(その後、立ち会いに行き、現場の方々のご協力のもと、色調も素晴しいものになりました!)
勝本●色に関して、私が最初に希望を出したのも、やはり白が肌色のような赤に転ばないようにということだけ。白の転びは気になるのですが、他は忠実でなくても最終的によく見えていればOKなんです。
坂本●あ、そうなんですか。それは聞いておいてよかった。
勝本●もちろん、自分がダメな色はダメなのですが。
——入稿形態はポジですか? それともプリント?
坂本●本文はデジタルとポジが混在していて、カバーに使った写真はデジタル。写真家の方には申し訳なかったのですが、カバーは仕上がりを考えて多少こちらでいじり、本当の色調よりか浅く黄身がかった写真にしました。
——そもそも写真を撮るとき、結構気をつかいますよね。
勝本●私の場合、大きさもテクスチャーもさまざまなで簡単ではないはずなんですが、写真の松浦さんには、ほぼ万能に対応していただいています。
坂本●ワイドや魚眼レンズで撮っているものも面白いですよね。
——今回の「抽斗」も?
加藤●ええ。そうやって一人の方にずっと撮っていただいていたおかげでトーンのそろった写真が残っていて、こうして作品集が作りやすいということもありますね。
勝本●現物は展示が終わると人手に渡るものも多いので、毎回個展の会期中に全ての写真撮りというのはなかなかハードでした。自分としては本にするまでヴィジョンがあったとは思えないのですが、結果としてこうして本にまとまるのは何ものにも代え難い。
今回の作品集『one day 或る日』より、魚眼の写真を使ったページ
(左)埃/クリティエ dust / Klytie
mixed media, 480×130×130mm, 2000
(右)クロゼット巡り touring a closet
mixed media, 300×115×105mm, 2000
(左)埃/クリティエ dust / Klytie
mixed media, 480×130×130mm, 2000
(右)クロゼット巡り touring a closet
mixed media, 300×115×105mm, 2000
本の“物質感”にこだわる
——作品自体の大きさは、通常どれぐらいなんですか?
勝本●展示の形態によってもケース・バイ・ケースですが、手のひらに収まるようなサイズから、扉ぐらい。前作『Childish Ark チャイルディッシュ・アーク』にはコンパクトなものが中心に収録されています。
坂本●それを見て、勝本さんって意外に自由な方なんだと思った。普通、作品がノドにかかって分割になったりすると、嫌がるでしょ?
勝本●それは全然OK。切れてもいいぐらい。デザインの扱いに関しては、確かに鷹揚なところがありますね。あ、仕上がりがよければの話ですけど。
加藤●唯一のこだわりが「原寸に近くしてほしい」と。
勝本●デザインが優先される媒体の場合はさほど気にならないと思いますが、こういう作品集の場合、とりわけ小さいものが実寸より大きくなったのを見るとひどく違和感を覚える。この大きさ、このテクスチャー、だからこの形になった……という制作時の記憶が逆らうのかなあ。
手のひらサイズの「子函」に合わせた造本が作品の“触感”をそのまま活かす『Childish Ark チャイルディッシュ・アーク』(月兎社)
——最後に、今回の作業過程を振り返っての感想を。
勝本●坂本さんが非常に気持ちよく、楽しんでやってくださっているので、それだけでもすごくありがたいです。私も励まされて、いい出会いになりました。
加藤●予期せぬぐらい、いい出会いでした。先ほどお話にあった紙見本の提示のように、作る過程で仕上がりが頭に浮かんでくる。その後の仕事に熱が入りました。
——仕上がりが見えるというのは一番いいことですね。
加藤●やっぱり本は物質ですから。坂本さんが紙を具体化してくださったことで、物質としての魅力がはっきり浮かび上がってきました。
勝本●そういえば子どもの頃に「本を作りたい」と思っていたのも、おそらく本の物質感が好きだったのでしょうね。
坂本●勝本さんの本に対する客観的なところが、デザイナーの側も「いいもの作るぞ」と思わさせられたし、やりやすかった。最近、DTPになってから流れが速いし、分業されていることが多いじゃないですか。でも、この仕事は3人で作り上げていく感覚が強かった。作りあげていく過程が共有できたのが、私にとってもうれしいことでした。
今回で「ブックデザインの『現場』」は終了です。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
勝本●坂本さんが非常に気持ちよく、楽しんでやってくださっているので、それだけでもすごくありがたいです。私も励まされて、いい出会いになりました。
加藤●予期せぬぐらい、いい出会いでした。先ほどお話にあった紙見本の提示のように、作る過程で仕上がりが頭に浮かんでくる。その後の仕事に熱が入りました。
——仕上がりが見えるというのは一番いいことですね。
加藤●やっぱり本は物質ですから。坂本さんが紙を具体化してくださったことで、物質としての魅力がはっきり浮かび上がってきました。
勝本●そういえば子どもの頃に「本を作りたい」と思っていたのも、おそらく本の物質感が好きだったのでしょうね。
坂本●勝本さんの本に対する客観的なところが、デザイナーの側も「いいもの作るぞ」と思わさせられたし、やりやすかった。最近、DTPになってから流れが速いし、分業されていることが多いじゃないですか。でも、この仕事は3人で作り上げていく感覚が強かった。作りあげていく過程が共有できたのが、私にとってもうれしいことでした。
今回で「ブックデザインの『現場』」は終了です。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] さかもと・しほ●グラフィック・デザイナー。安齋肇氏のアシスタントを経て、1985年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを手がけている。 |
かつもと・みつる●美術家。2004年「living things」(ガレリア・グラフィカ)、2006「a birth」(MA2ギャラリー)など、ほぼ年1度のペースで個展。小川洋子の著作、江戸川乱歩全集など、書籍の装画も多い。 |
かとう・いくみ●出版・編集「月兎社」を主宰。
http://www.gettosha.com
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