
前回に引き続き、帆足英里子氏が手掛けた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では書籍の装丁に注目。講談社の『滝山コミューン一九七四』(原武史)と、角川書店の『アムネジア』(稲生平太郎)を紹介する。
第3話 エッジの効いた目立つ装丁
変わった手法や引っかかる要素で
目立たせることも大切
──まず『滝山コミューン一九七四』の概要から教えてください。
帆足●思想系のドキュメンタリーです。最初に依頼を聞いたときには難しそうな印象を受けましたが、実際に読んでみたら、それほど堅苦しい内容ではありませんでした。難しいテーマではあるのですが、学生時代に起きた事柄などを思い出して「こんなことを考えていた」というように書いてあるので、とても面白く読み進めることができたのです。
──装丁の方向性については、クライアントからはどのような希望があったのでしょうか。
帆足●「よくある“思想書っぽい雰囲気”にはしたくない」との要望がありました。また、同時に「エッジの効いた目立つものにしてほしい」とも依頼されました。
──そのような依頼に基づいて、どのようなプロセスでデザインされたのか教えてください。
帆足●最初のうちは、タイトルなどの文字要素を同じバランスで並べると、どのように組んでもうまくいかなかったんです。そこで「1974」という数字だけを大きく強調しました。さらに「1974」の前後の数字を加えて少しだけズラすことで、1974年になる瞬間のイメージを表しています。この本では、まさに1974年に事件が起きるのですが、その緊張感を表現したのです。
──銀箔が用いられていますが、使用箇所を「4」のみに限定しているのは、どのような意味があるのでしょうか。
帆足●数字全体を銀箔にすると、反対に目立たないように感じたので、ポイントで入れることにしたのです。同時に1974年になる「瞬間」を強調して、その意味合いを高める意図もありました。
──黒と銀箔と控えめな白のシンプルな色使いで、雰囲気がうまく表現されていますね。
帆足●白の部分については、黒の紙に白インキを2度刷りしています。とはいえ、あまりパッキリさせすぎず、むしろグレーっぽい印象が望ましいと考えていたので、少し荒れた具合を上手く印刷で表現することができて良かったです。
──「目立つ装丁」を狙うためには、どのように工夫したのでしょうか?
帆足●私が装丁する本には「何だろう?」と引っかかる要素を必ず入れるようにしています。この本では、大きくなっている数字「1974」ですね。それが何を意味しているか、一瞬では分からなかったとしても、見た人の興味を引くことはできる。「何だろう?」と思い始めると読みたくなるものですよね? 本は、まず手にとってもらうことから始まるものだと思いますので。
──なるほど。文字を横に組んでいることも、目立たせるためのポイントですか?
帆足●そうですね。わざと普通の本と佇まいを変えることで、気になる構造にしています。
──それでは続いて、もう1冊の『アムネジア』についてお聞きしていきます。こちらは、どのような本ですか?
帆足●「アムネジア(amnesia)」は「記憶喪失」の意味なのですが、まさにわけが分からない壊れているような内容なのです(笑)。それに合わせて、ボカした文字をいろいろな方向に組んで、上下も左右も分からなくなってしまっている状態を表現しています。
──カバー、表紙、トビラと、同じビジュアルを用いながら、グラデーションの具合が徐々に変わっているのも特徴的ですね。


帆足●奥に進むにつれて、どんどん消えていくイメージです。記憶が曖昧になっていく雰囲気を表現しました。このように、ページを開いていくことでの仕掛けを盛り込むことができるのは、装丁ならではの面白いところですよね。普段は平面のものばかり制作しているのですが、立体である書籍は、箔押しなどの加工や紙選びなど、とても面白い要素が多いです。また、自分の世界観だけでストイックにデザインできるので、ほかの媒体でのデザインでは得がたい楽しさがあります。
──『アムネジア』でも、印刷に関する制御は大変でしたか?
帆足●色のコントロールは厳密に行いました。色が薄いとインパクトが弱くなってしまって、すごくカッコ悪いのです。グラデーションも、ある程度の濃度や鮮やかさが出ないと、意味がなくなってしまいますので。さらにピンクと緑でハレーションの効果を狙うなどの工夫も盛り込んでいます。
──このような要素も「何だろう?」と不思議な印象ですから、見る人の注意を惹き付けられそうですね。
帆足●そうですね。もちろん単に「目立てば良いわけではない」との意見もあるかもしれませんが、どうすれば目立つかを追究することも大切だと思います。内容に合っている装丁であることは必須条件ですが、その中で変わったことをやって目立たせる工夫も大切なのではないでしょうか。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「ユニークな自社広告」について伺います。こうご期待。
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