第3話 自分ができる限りのことを | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は白銀屋、KDDI auのサイトなどを手がけるイム・ジョンホさんを取材し、韓国生まれの経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。


第3話 自分ができる限りのことを



イム・ジョンホさん

イム・ジョンホさん

会社を辞めた理由


——2004年、独立のきっかけは?

イム●まあ、いろいろ理由があったのですが……いま考えてみると、とにかく自分の役割が会社の中でどんどん広がっていったんですね。同時に、中村勇吾さんなど先輩が会社を辞めて独立していった。そこで僕が大きな企業のプロジェクト案件を任される。それは良いことなのですが、会社が僕に期待するのは仕切りの面。総合的なマネジメント能力だったんですね。でも、自分の中ではとにかくデザインすることに関してコンプレックスがあった。できることが少ないなぁとか、知ってることが少ないなぁとか、デザインのバックグランドが何もないから、専門的な教育を受けた人のほうがもっといいものができるのでは……などと、どうしようもないことを考えて、悪い循環に入ってしまった。

——そこで次第に自信をなくしていった?

イム●そもそも自信はなかったのですが……その上に、どんどんすごい仕事が来る。悪い言い方すると、結局逃げたんです(笑)。

——いやになっちゃった?

イム●ですかね……プレッシャーもすごかったし。

——では、フリーで仕事を始めるというよりも、ひとまず会社を辞めようと?

イム●はい。だから、何も決めてなかった。当時はいろいろ勉強して「心の旅だ」とか思うようにしてました(笑)。クライアント・サービスにも疲れたから「自分でサービス作ろう」とか。実家がキムチを作っていて、実は会社に入る前にもネット通販のキムチ屋をやろうと思っていたんですよ。忙しくて頓挫していたから「それをやろう」と。

——実際に?

イム●ええ。自分でプラン立てて、商品の写真を家でライティングして撮って、文章書いて、パッケージ作ってシールも貼って……そこからリスタートしようと考えた。いまは休止してますが、会社辞めてしばらくはそんな感じです。

——外注仕事はまったく?

イム●中村勇吾さんに声をかけてもらった「amana」だけですね。あとは、もう家でブラブラ。そのうちお金が尽きてきて「やばい!」と思い始めた。悩むなら仕事しながら悩もう、と。


白銀屋

白銀屋白銀屋

イムさんの仕事から
加賀山代温泉「白銀屋
Planning, Art direction, Design(2005年9月)


自分の中で吹っ切れたもの


——そこで、フリーとして復帰を?

イム●慌てて、前の会社の同僚を頼って仕事を紹介してもらえないか頼みました。最初は小さい仕事をいくつかやっていて、星野リゾートの担当者の方に「イチからコンセプト、構成、文章、写真……全部コントロールする仕事がしたい」とアピールしていたら、ありがたいことに「白銀屋」の依頼が来たんです。

——老舗旅館のサイトとして、だいぶ反響を呼んだものでした。

イム●想像してなかった反響でした。あの仕事が、それまでのコンプレックスを断ち切るきっかけになった。何度も現地に足を運んで、空気感、佇まいを伝えるサイトにするにはどうするか……3?4ヶ月、それしかやっていませんでした。あと、クライアントと直に仕事をできたのもよかった。

——コンプレックスを断ち切るきっかけとは、具体的に?

イム●自分は絵を描けないし、人よりきれいなラインを引けわけでもない。自分にできることは何かというと……きちんとコンセプトを考えて、きちんと内容を詰めて、丁寧な文字組と意味のあるビジュアルを追求すること。少ない手札ですが、そこを追求していったらどうかな、と。もう割り切って、できないものはできない。自分ができる限りのところで精度を高めていく。そういう思考になったんです。そういう意味で、吹っ切れました。

——そこから仕事が広がり始め、いま現在、携帯電話、ファッション、企業広報……非常に多ジャンルのサイトを作っていますね。

イム●自分ではそういう視点、持ってなかった。確かにそうですね。

——いろんなものにフレキシブルに対応されている。

イム●そこは自分の中で、吹っ切れたものがあるからでしょう。白銀屋の後「あのイメージを作ってください」というような仕事も多いんです。でも、タテ書きとか白場とか、自分が「追求していきます」的なスタイルというつもりはなくて。僕ができることは限られていますが、どういう商品やサービスなのか、どういう問題があるのか、何を解決すべきか……そこに沿ってクライアントとコミュニケーションしながら導くスタンス。たとえばファッション系のサイトも、以前だったら「これはわからないな」と後ろ向きになったと思うんです。そもそも、ファッションとか音楽とか、ほとんど興味ないんですよ。でも、それができるようになったのは、問題と解決を探ることからすべてを導き出そうとしているから。そういうふうに思うと楽になって、いろんなことができるようになった。


SAMSUNG DIGEST










イムさんの仕事から
SAMSUNG DIGEST
Creative direction, Art direction, Design(2006年11月)


次週、第4話は「環境は自分で変えていく」についてうかがいます。お楽しみに。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


イム・ジョンホさん

[プロフィール]

イム・ジョンホ●アートディレクター。1977年韓国・釜山生まれ。1991年来日。2000年に(株)ビジネス・アーキテクツ入社。アートディレクターとしてイオングループ、積水ハウスなどの大規模サイトを手がける。2004年に独立後、写真と言葉を中心とした表現に取り組み、2007年「toconoma inc.」 設立。

映像表現をはじめ新しい領域に挑戦中。http://7779.net



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