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第4話 過去の「ディクショナリー」が教えてくれること

2024.5.15 WED

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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

来年20年をむかえる、フリーペーパー「ディクショナリー」。そのディクショナリーの過去の号がデジタル化された「ディクショナリー・ライブラリー」が公開された。発行元である株式会社クラブキングの代表であり、ディクショナリー編集長の桑原茂一氏に話を伺った。。

第4話 過去の「ディクショナリー」が教えてくれること


破れているのもいい感じ


——デザインとしてはどういうイメージがあったんですか?

桑原●「ディクショナリー」の表紙はできるだけ見せたいということと、やはり個人が主体で作ってきたものだから、そう見えること。これは大事にしました。具体的なことは言ったことはないです。考え方だけですね。いろいろプランが出て来たときにこうならないとまずいとかというのを話したり。一時は二転三転してwikiを止めるというところまでいきましたが、やはりwikiにして良かったと思っていますね。

デザイナーがきれいなものを作ろうと思うと、もともとwikiってそのためのエンジンじゃないから使いづらかったみたいで、またもう一個エンジン作って合体しなきゃいけないというのが面倒臭かったみたいです。そういうことはありましたけど、哲学・思想としてのwikiが残るようには心がけてもらいました。

——全ページがスキャンしてあるので、時代をパックしている感じがありますよね。

桑原●(笑)破れていたりすると、非常にいい感じがありますよね。『こんなんしか保存してないのか?』みたいなね(笑)。そういうことなんだと思うんです。自分自身の中でも、デザイナーの人たちにしても、最初、完璧を求められるし、整然としたものを求められるわけだし、僕らもそういうところにもいきたくなるんだけど、そういう風にはいかなくて、目の前に出されたものを見ると、逆にこれが我々だって教えてくれるんです。過去の「ディクショナリー」が教えてくれますよね。自分たちが何をやっていたか。初心はあそこにあるので(笑)

ちょっといい気になっていても、このライブラリーを見ると初心が帰ってくるから。人間って愚かなもので10年前だって20年前だって自分の都合のいいように記憶を変えていったりするから、そういった意味ではいい踏み絵ですよね。
自分は一生懸命相手にわかってもらおうといろいろ言っているつもりなんですけど、結局は相手がよくわかってないんだなということが、まさにわかってきて。俺コミュニケーションの方法全く駄目なんだなと思って、反省してます(笑)。


なるようにしかならない



——ライブラリーの今後の予定は?

桑原●アルファバージョンっていうのもおしゃれな言い方をしているだけで、ずっとアルファのまんま残っていくんじゃないかという気もするんだけど(笑)。だから、wikiひとつとってみても『なんだ?これ』ということもあると思うんです。だけど、でも精神はwikiを維持していきたい。wikiの日本支社が始まったのですが、その人たちもおもしろいと言ってくれたのも嬉しかったですね。他の国でもこういうのはないんじゃないかと言ってくれたので、wikiの創業者の人たちが早く見てくれたらいいなと思っていますけど。いつもいろいろこうなればいいなというのは考えていますが、でも言ったってね(笑)なるようにしかならないし(笑)。

なるようにしかならないってのが一番ポジティブな生き方だって最近気付いたんです。自分の創作活動については、一人のことなのでどうにでもできる。でも、誰かが一人入った瞬間から無理なんです。にもかかわらず、どうも無理を通すことがいいことだと思ってたふしが自分にはあるので、それをちょっと、止めたかな。それはライブラリーが出来て見てからですね。

だから、自分がライブラリーから一番いろいろなことを教わったのかもしれない。これまで『こうしなければいけない』という責務をいつも負っていて走り続けてきたんです。それで、走れない自分をいつも情けないと思ってきたくちなので。見た瞬間にやはり『だよね』みたいな感じになっちゃった。

自分自身がライブラリーによって救われたとも言えますよね。本当に借金して家を建てるより、借金してライブラリー作った方が自分のためにはなったという気がしますよね(笑)。人間というのはそれくらい己のことがわからない生き物なんだなと。まだわからないことだらけですけど、ちょっとわかった気がする。

だから、そういう意味では自分だけでなくて他の人もこのライブラリーを見ることによって、『あれ?』って気付くことがあるかもしれないですよ。僕らと同じ世代の人たちも参加しているわけで、その人たちが、『どれどれ、何やってんだ?』という感じで見に来たら、もしかしたらハッと気がつく時があるかもしれないですよね。でも僕だけなのかもしれないけど(笑)。

まずは、自分のためにもやって良かったなと本当に思ってます。まだまだライブリー化していない残り50号もあるので楽しいし。僕らって一晩限りのイベントのことばっかりやってきたんだけど、このライブラリーは終わらないイベントじゃないですか。時間のとらえ方を頭で理解しようとか、本を読んで理解しようというのとは別に、このライブラリーでの感じ方というのは過去にはなかったものだろうし、こういう形態のものはなかった。この存在のおかげで、自分の頭の中の何かチリチリするところを刺激されたらいいと思うんですよね。




(取材・文:服部全宏(GO PUBLIC) 編集:蜂賀亨  撮影:谷本夏)



桑原茂一氏





プロフィール

桑原茂一
Moichi KUWAHARA
選曲家/プロデューサー/株式会社クラブキング代表

1973年より米国『ローリングストーン』日本版を創刊号から運営、
'77年『スネークマンショー』をプロデュースしYMOと共演、
同年『コムデギャルソン』のファッションショー選曲を開始する。
'82年原宿に日本で初のクラブ『ピテカントロプス』をオープン、
'88年フリーペーパー『dictionary』を創刊、
'96年東京SHIBUYA FMにて「club radio dictionary」を開始する。
'01年の911を機に発行された坂本龍一氏とsuspeaceが監修する『非戦』に参加したのをきっかけに、独自の世界観をコメディという切り口で表現する「コメディクラブキング(CCKing)」を展開。
現在、フリーペーパー/コミュニティラジオ/TV/携帯サイト/映像表現/コメディライブ、またそれらを統括するWEB「メディアクラブキング」をプロデュースし、LOVE&PEACEに生きるオルタナティブなメディアを目指し活動を続けている。


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