第2話 クラシックとモダンの共存時代 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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文字。すごくおおざっぱな括りですが、わたしたちの生活になくてはならない“デザインの元素”について、あらためて考えてみたい──と思う今日この頃。そこで現在、多摩美術大学情報デザイン学科で教授を務めているグラフィックデザイナー、永原康史さんと宮崎光弘さんを八王子キャンパスに訪ね、かねてより「文字」について語り合うことが多いというお二人に話をうかがいました。


第2話 クラシックとモダンの共存時代



宮崎光弘さん(左)と、永原康史さん(右)

宮崎光弘さん(左)と永原康史さん(右)

AXIS Fontの新たな試み



——広告など、最近はクラシカルな明朝を使うケースが多く感じます。

永原●そうですね。でも写植の時代も、見出しの文字は秀英体の初号を使ったり、民友社のカナを使ったりしてましたから、それはいまに始まったことではない。昔から見出しを立てようとすると、古い文字を使うことが多かったですよ。

——使うほうだけではなく、受け手側もそういうものを求めている時代なのか、と。

永原●それはどうかな……。たとえば宮崎さんのところで作ったAXIS Font。あのような細いゴシックで大きな見出しを作るのも、いまでは当たり前になっていますよね。モダンなものとクラシカルなものが同時にあって、受け手のニーズがクラシカルなものに偏っているとは思わない。

宮崎●書体は、その時代時代で明らかに流行があるんですね。これだけデザイナーがいるから、真似する人もたくさんいる。巷で多用されて「どうだろう?」と思う書体もありますが……それは文字の問題でなくて、デザイナーの使い方の問題ですね。

永原●ええ。文字は、作る人と使う人、それを読む人がいる。僕は自分を「使う人」と割り切って、どうやって使うかをいつも考えているわけですが、でも、作られたものしか使えない(笑)。作る人はやっぱり明朝体から作るんです。こんなに明朝があるのだから「もういいじゃない」と思うんだけど(笑)。

宮崎●基本さえできていれば、ゴシックから作る人がいてもいいと思うけれど。

永原●そういう意味では、作る人たちは、使う人や読む人とは、別のところに興味や関心があるのだと思います。でも、それはそれで大切なことだからね。

——ちなみにAXIS Fontは、現在「Compact」シリーズを準備していますね。

宮崎●ええ。いま「AXIS Condensed」と「AXIS Compressed」という新しいファミリーを作ってます。一見、ただ長体がかかっているだけじゃないかと思われるかもしれませんが、文字の形自体を最初から縦長に設計している書体です。というのも、和文の書体は太さの違いはあっても、形については写植で光学的に変形させてきたわけです。縦長の書体を使いたい時は、長1などと10%ずつ文字の横幅が短くなるように指定してきた。コンピュータでも同じように文字を変形させるわけですから、縦のラインが細くなり横のラインはそのまま。つまり、最初から設計されていない文字の形ができてしまうのですね。なんで和文書体にはちゃんとしたファミリーがないのだろうと思っていたんです。

——設計の段階から長体デザインの和文フォントは異例ですね。

宮崎●理由はもうひとつあって、Webや携帯電話など限られたスペースに文字を入れなければならないケースが増えてきたからなんです。そのようなデバイスでは、いまでも普通にカタカナだけ半角とかあるじゃないですか(笑)。かなり気持ち悪いですよね。そういう状況の中では、最初から縦長に設計した文字の用途は、きっと増えていくだろうと考えています。


デバイスの進化が促す、新たな文字環境



——いまのお話を聞くと、使い勝手を考えて文字を作っていくのが正統的ですね。同時に、デバイスの変化に応じた文字の進化がある。ちなみに現在、日本語ベースのWebについてどうお考えですか?

永原●一時期に比べると、ほとんどの文字をテキストで表示しようという方針がデザイナーに徹底してきて、以前よりも読みやすくなったと思います。CSSが普及して、文字が制御できますから。それと、デバイスフォントそのものが良くなっているのが大きい。印字して画像として固めたものとデバイスフォントが混じったものを読むよりは、全部デバイスフォントでデザインしたほうがきれいで見やすいと思えるようになった。

宮崎●確かに、デバイス・フォントのクオリティに依存するところは大きいですね。Mac OS Xが登場したとき、みんな「Webならこの文字で問題ない」と感じたと思います。

永原●Windowsも、Vistaからメイリオが搭載されて変わりましたし。

宮崎●でも、携帯電話はまだ改善の余地がありますね。画素数がVGAになると、昔のCD-ROMと同じクオリティのものがあのサイズで見える。

永原●僕がいま使っている機種もVGA表示で、普通にWebが見れます。最初「高解像度はいいけれど、文字が小さすぎて見えないのでは?」と思ったら、ちゃんと見える。

——どれだけ詰め込めるか、お弁当箱感覚だった携帯コンテンツも変革のときですね。

宮崎●ええ。高解像ってすごい。

永原康史さん
永原●オン・スクリーンの文字と印刷の文字をシームレスにしようという動きも、最近顕著になってきましたね。画面表示とプリントの“見え”を同じにする。それも解像度が上がり、やりやすくなってきた。デジタル・フォントはエッジがシャープに出るから、明朝の場合、横棒が細く感じますよね。だから横の線を太めに設計し直す傾向にある。それはオン・スクリーン用も同じで、CTPでダイレクトに印刷するための文字とディスプレイ用フォントは、ほとんど変えなくてもいいことがわかってきた。

宮崎●そうですね。解像度が上がると、プリントメディアで開発したクオリティの高い書体が、小さな画面用としてもそのまま使えるようになる。そして、それらが携帯のOSに搭載されるようになると、携帯の中で動くゲームやソフトウェアにもその書体がそのまま使われるようになる。PCと同じ環境になるということですね。

永原●あとは、フォント配信できるかどうかでしょうね。たとえば雑誌の『AXIS』がオンライン版を作るとなると、AXIS Fontを表示したいじゃないですか。そうすると、どうにかしてエンベッドの方法を考えて、本とデジタル・メディアをシームレスに繋いでいく課題をクリアしていかないとならない


次週、第3話は「組版ルール、実は無用?」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



永原康史さん

[プロフィール]
ながはら・やすひと●1955年大阪生まれ。グラフィックデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科教授。ブックデザインやWebプロジェクト、展覧会のアートディレクションなどを手がけながら、メディア横断的なデザインを推進している。主な仕事に愛知万博「サイバー日本館」、主著書に『デザイン・ウィズ・コンピュータ』『日本語のデザイン』。MMCAマルチメディアグランプリ最優秀賞など受賞。


宮崎光弘さん

みやざき・みつひろ●1957年東京生まれ。グラフィックデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科教授。デザイン誌『AXIS』のアートディレクションを務める一方、原美術館やモリサワなど企業のWebサイト制作、先行開発プロダクトのインターフェイス・デザインを手がけている。99年に発表したCD-ROM『人間と文字』で、F@IMP国際マルチメディアグランプリ金賞を受賞。

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