第4話 なぜ人は「文字」に向かうのか | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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文字。すごくおおざっぱな括りですが、わたしたちの生活になくてはならない“デザインの元素”について、あらためて考えてみたい──と思う今日この頃。そこで現在、多摩美術大学情報デザイン学科で教授を務めているグラフィックデザイナー、永原康史さんと宮崎光弘さんを八王子キャンパスに訪ね、かねてより「文字」について語り合うことが多いというお二人に話をうかがいました。


第4話 なぜ人は「文字」に向かうのか



宮崎光弘さん(左)と、永原康史さん(右)


宮崎光弘さん(左)と永原康史さん(右)

文字はカタルシスがない?



──いま、多摩美では学生にWebデザインを教えるような授業はあるのですか?

永原●1年次でHTMLからCSS、JavaScriptまで身につけて、コードやスクリプトのなんたるかを学びます。2年次以降は段階に応じた演習科目があります。ぼく自身は、したいというゼミ生がいれば指導する程度ですが。

──以前と比べて、発想が違ってきたりしてますか?

永原●極端には変わってないと思いますね。高校卒業して、まだ2〜3年でしょ? 知っていることも少ないじゃないですか。僕らは20〜30年デザインしているわけですから「え、こんなことも知らないの?」と驚くこともありますが、知らないのが当然なのかもとも思う(笑)。

宮崎●むしろ、映像的なものに興味を持つ学生が増えているように感じます。

──文字で伝えるよりも映像で伝えたほうが早い、と。

永原●伝わる速度が違いますからね。タイポグラフィも、学生に人気あることはあるんです。文字を特集する雑誌が売れるように。ただ分野として地味だし、苦労してアニメーション作って、ようやく1分間できたものを上映したときの「やったあ!」という感じはないですからね。文字にはカタルシスがない(笑)。


永原康史さん

多摩美術大学の情報デザイン学科では、
情報デザイン基礎、メディアとデザイン(ゼミ)などを
受け持っている永原さん






宮崎●でも、文字を特集する雑誌が売れるというのは、やっぱり理由があるからですよね?

永原●なんでしょうね? もうそろそろネタが尽きて「売れなくなるんじゃないの?」と言っても、雑誌の人は「まだまだ」と言うんですよ。

──平野甲賀さんの本なども、すごく売れています。

永原●平野甲賀さんの描き文字が受け入れられるのは、よくわかるんです。半分イラストレーションのようで、そこに込められた平野さんの何か(たとえば人間味?)に触れたいのでしょう。


文字は「声」と「水」



──その「何か」を備えたいと思う人が多いのでは?

永原●ああ、なるほど。

宮崎●僕はいつも「文字は声のようなもの」と言ってるんです。同じことを話しても、人の声の違いによって伝わり方が違うように、文字によって伝わり方は確実に変わります。特に本文書体は、その本や雑誌のアイデンティティーを大きく左右します。本文だから普通の声でいいと思っても、その普通の声のトーンが微妙に違えば、やはり伝わり方も変わるのですね。オリジナルのAXISフォントは、そういうことを考えて作りました。

永原●文字は「読む」前に「見る」のだから、読みやすいよりも見てきれいを優先させてもいいはずなんです。本の内容は読まないとわからないけど、文字を見ただけで伝わる情報もある。きれいだと思って読むのと、そうじゃないのとでは、文章に対する意識も変わってくるじゃないですか。だから、文字面が作る印象というものは、読みやすさよりも大切だろう……と、極端に言うとそう思うんです。

──まず見た目が重要、と。

永原●はい。

宮崎●確かに同感です。


宮崎光弘さん

多摩美術大学の情報デザイン学科では、
エモーショナルデザインゼミ、インタラクションデザインなどを
受け持っている宮崎さん






永原●読みやすさを外して考えても、デザイナーはいいのかもと、最近思うようになった。編集者が「キレイだけど読みにくい」と言ったら、お互い納得できるところを目指して着地していけばいいだけの話で。さきほど宮崎さんが言った「声」のように、内容を支える、あるいは、内容と少し離れたところで印象をつくるというのは、デザイナーが文字を扱う重要な役割ではないかなって。

宮崎●もうひとつ、僕は「声」と同じく「水」とも言っています。それは料理にたとえるとわかりやすくて……いいシェフはいい素材を探して、調味料にもこだわって、自分の腕で美味しい料理を作る。でも、素材や調味料だけを選んでいるわけではなく、水にもこだわっているはずなんです。だって美味しいスープ作るときに、水がまずければ、ダメでしょ?

──台無しですね。

宮崎●特に本文書体は、美味しい料理の水と同じぐらいデザインのベースを支えているものだと思います。でも、それはグラフィクデザイナーだったら、誰でも当たり前のことで、みんな分かっていることなのに、なぜ、これだけ文字の特集が多いのか、僕には逆に分からないのですね(笑)。

永原●結局、文字を扱う側の技術がかなり大切になるということが、いま改めて問われているのでしょうね。


今回で「よもやま『文字』ばなし」は終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



永原康史さん

[プロフィール]
ながはら・やすひと●1955年大阪生まれ。グラフィックデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科教授。ブックデザインやWebプロジェクト、展覧会のアートディレクションなどを手がけながら、メディア横断的なデザインを推進している。主な仕事に愛知万博「サイバー日本館」、主著書に『デザイン・ウィズ・コンピュータ』『日本語のデザイン』。MMCAマルチメディアグランプリ最優秀賞など受賞。


宮崎光弘さん

みやざき・みつひろ●1957年東京生まれ。グラフィックデザイナー。多摩美術大学情報デザイン学科教授。デザイン誌『AXIS』のアートディレクションを務める一方、原美術館やモリサワなど企業のWebサイト制作、先行開発プロダクトのインターフェイス・デザインを手がけている。99年に発表したCD-ROM『人間と文字』で、F@IMP国際マルチメディアグランプリ金賞を受賞。

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