第2話 アシスタント、そしてフリーランス時代 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は幻冬舎デザイン室の平川彰さんを取材し、出版社のハウス・デザイナーとして多くの書籍装幀や広告などを手がける今日までの足跡をたどります。


第2話 アシスタント、そしてフリーランス時代



平川彰さん

幻冬舎デザイン室の室長・平川彰さん


鈴木一誌さんのアシスタントを経験



——大学卒業後の就職活動は?

平川●装幀の仕事をしたいと決めたときは、もう遅かったですね。周囲の同級生の多くは企業のデザイン部門や広告代理店、印刷会社への就職が内定していましたが、僕は悪戦苦闘。装幀を志すにも、どこに行ったらいいかわからない。とりあえず、いろんな出版社を受けてみたのですが、一緒に受けた友人が受かって僕は落ちたり(苦笑)。

——どうしようと?

平川●宙ぶらりんになっていたところ、たまたま鈴木一誌さんの事務所がスタッフを募集していて、アルバイトで入ることができたんです。とても幸運だったと思います。

——そこで装幀のイロハを学んだ?

平川●そうですね。その頃の経験がすごく大きかった。でも、装幀の基本を何も知らなかったし、仕事に対する姿勢もまるで分かっていなかったので、鈴木さんには大変ご迷惑をかけました。結局1年もいなかったのですが、一番最初に働いたのが鈴木さんのもとでよかったと思います。仕事って甘くない、死ぬ気でやらないと本当にいいものはできない……とわかりました。と同時に、デザインとは相手があってできる仕事で、一人でポンポンとできるものでもない、と。

——プロセスが重要?

平川●ええ。まず本を書く人、編集者がいて、本を読む人がいる。装幀家は、その間に立って、うまくコミュニケーションさせるのが仕事だと初めてわかった。それまでは、そういうことが全然わからなかったんです。好きなものを作ればいいのか……ぐらいの安易な気持ちで。でも、実はそうではない。もっといろんな人が関わって、本というものができあがる。つまり、デザイナーとはコミュニケーションの仕事なのだと、働いてみて初めてわかったんです。

——デザイン以外でも、それは当てはまりますね。

平川●編集の仕事は、言葉でコミュニケーションしていくものだ思うのですが、デザイナーはそれに加えて、イラストや写真を使ってコミュニケーションしていく仕事。依頼を受けて、まず初めに内容を自分の中で咀嚼して、相手にとって分かりやすく作り直し、さら目に見える形にして提示していかなくてはならない。そういうデザインのプロセスは学校で学ぶだけではわからない、実際に現場に出て経験しないと理解できないものだと思いました。


『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』向山貴彦/向山淳子『1リットルの涙 難病と闘い続ける少女亜也の日記』木藤亜也


平川さんの仕事より、幻冬舎史上最高の売り上げを記録した単行本/文庫本

(左)
『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』向山貴彦/向山淳子
幻冬舎/1365円(2001年12月)

(右)
『1リットルの涙 難病と闘い続ける少女亜也の日記』木藤亜也
幻冬舎/560円(2005年2月)


フリーで仕事をするうちに……



——でも、1年で辞めてしまって?

平川●ずっと鈴木さんのところにいたら勉強することは山ほどあったと思いますが、環境に慣れなかったのと、良い意味での伝承職人のような仕事に多少疑問を感じてしまいました。自分から門を叩いたのですが、自分から離れていったんです。

——アルバイトを辞めて、その後は?

平川●まず、小さいデザイン会社に入りました。ちょうどデザインにDTPが導入され始めた頃で、そこでの仕事はコンピュータの操作を憶えるという形でしたね。企業の広報誌などが主な業務で、たまに装幀の話もあったのですが……やっぱり本格的に装幀の仕事をしたい、この仕事ではないなと思って、3年で勤めを辞めました。

——いくつのとき?

平川●27歳ですね。それから、フリーで仕事を始めました。知り合いの伝手を頼って、結構いろんな出版社から仕事をいただいていたんです。営業にも行きました。それまでの装幀を持って、見てもらって。フリーだから必死。無我夢中でした。

——初めて一人で手がけた装幀は?

平川●前川健一さんのアジア紀行集ですね。

——厳しいことも?

平川●もちろん、それはありました。年齢が若いということもあって、一杯一杯のスケジュールなのに無茶なことを言われたりしましたが、それほど大きいトラブルはなかったと思います。逆に、一生懸命仕事した分、編集の担当さんからの反響はストレートに返ってきました。「今回はよく頑張ってくれたね。これから飲みに行こうよ」とか誘ってくれたり(笑)。仕事以外の場所でも、コミュニケーションをとって仕事をしていくことを覚えたのもフリーランス時代ですね。で、仕事を請け負ったひとつの版元が幻冬舎でした。たまたま入稿データを届けに訪れて、そのとき社内の雰囲気がすごくいいと思ったんですね。他の出版社にはないエネルギーがあった。そこで「僕もここで仕事したい」と思ったんです。


次週、第3話は「幻冬舎に入社」についてうかがいます。お楽しみに。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


平川彰さん

[プロフィール]

ひらかわ・あきら●1969年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、装幀家のアシスタント、フリーランスでの活動を経て、98年に幻冬舎入社。現在、同社デザイン室の室長として書籍装幀、広告を数多く手がけている。2006年、自身の企画展「11人の作家による仮構幻想小説装幀&幻冬舎デザイン室の仕事」を開催。また「ギャラリーハウス・マヤ2003」「ペーターズギャラリーコンペ2007」の審査員を務めている。



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