
様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は幻冬舎デザイン室の平川彰さんを取材し、出版社のハウス・デザイナーとして多くの書籍装幀や広告などを手がける今日までの足跡をたどります。
第4話 出版人としての気構え

幻冬舎デザイン室の室長・平川彰さん
売れる本がいい本か?
──体質によりますが、出版社には「売れるものがいい本」という原理があります。どんなに内容がよくて美しい本を作っても、売れなかったらいい本ではない、と。デザイナーとして、そのへんのジレンマはありませんか?
平川●難しい問題ですね……。ただ僕は、自分のことを強固に「デザイナー」というふうに思っていないんです。どちらかというと、出版社の一員としての気構え。いい本でも売れなかったものはダメ、自分はいいと思わない本でも売れたらいい本……という考えは、出版社に身を置く者として仕方ない。
──言い方が悪いかもしれませんが、平川さんが本来望むものよりも、もっと一般に向けて広く伝わるデザインを心がけて?
平川●それは当然あります。だって、僕の好きにやっていったら、一部の人しか買わないものができあがる(笑)。でも、もともと編集の仕事をしたかったのもあって、編集者が売れる本を出したら嬉しいと思うんです。僕の考え方は、それと一緒。売れる本の装幀ができたら、すごく嬉しい。自分だけ好きに本を作って、多くの書店に置いていないという状況よりも、平台にドーンと置かれたほうが気持ちいいですから。
──装幀家も様々にいますが、こだわりにこだわりぬいて自分のカラーを出す人も一方でいますよね。
平川●ええ。そうしたことへ反発というか、たまには自分も好きなことをやってみようか……と思ったのが、昨年の展覧会(11人の作家による仮構幻想小説装幀)でした。おそらく社内の人たちや僕を知る人にとって、初めて見る姿があったと思います。平川って「こういう人だったんだ」と(笑)。よく一緒に仕事をするイラストレーターからも「平川さんからこの世界が出るとは思わなかった」と言われました。当社からは絶対に出さないような幻想文学ばかりでしたから。普段、こういう面を隠しているわけではないのですが、出す場所がないだけなんですよね(笑)。
──趣味に走った、と。
平川●そうですね。でも、出版社の一員として、そういう装幀をするかどうか……というと別次元の話ですよね。展覧会でコラボレーションしたイラストレーターも、版元のデザイナーとしての仕事がいかされたものだから、まったく無関係ではない。装幀というのはとてもわかりにくい仕事で、説明にしくいと思うのですが、同じ「本をデザイン」するという仕事でも、その目的や対象をどこに設定するかにより、まったく変わってくる。だから同時に、幻冬舎デザイン室での装幀を一緒に展示したんです。
平川●難しい問題ですね……。ただ僕は、自分のことを強固に「デザイナー」というふうに思っていないんです。どちらかというと、出版社の一員としての気構え。いい本でも売れなかったものはダメ、自分はいいと思わない本でも売れたらいい本……という考えは、出版社に身を置く者として仕方ない。
──言い方が悪いかもしれませんが、平川さんが本来望むものよりも、もっと一般に向けて広く伝わるデザインを心がけて?
平川●それは当然あります。だって、僕の好きにやっていったら、一部の人しか買わないものができあがる(笑)。でも、もともと編集の仕事をしたかったのもあって、編集者が売れる本を出したら嬉しいと思うんです。僕の考え方は、それと一緒。売れる本の装幀ができたら、すごく嬉しい。自分だけ好きに本を作って、多くの書店に置いていないという状況よりも、平台にドーンと置かれたほうが気持ちいいですから。
──装幀家も様々にいますが、こだわりにこだわりぬいて自分のカラーを出す人も一方でいますよね。
平川●ええ。そうしたことへ反発というか、たまには自分も好きなことをやってみようか……と思ったのが、昨年の展覧会(11人の作家による仮構幻想小説装幀)でした。おそらく社内の人たちや僕を知る人にとって、初めて見る姿があったと思います。平川って「こういう人だったんだ」と(笑)。よく一緒に仕事をするイラストレーターからも「平川さんからこの世界が出るとは思わなかった」と言われました。当社からは絶対に出さないような幻想文学ばかりでしたから。普段、こういう面を隠しているわけではないのですが、出す場所がないだけなんですよね(笑)。
──趣味に走った、と。
平川●そうですね。でも、出版社の一員として、そういう装幀をするかどうか……というと別次元の話ですよね。展覧会でコラボレーションしたイラストレーターも、版元のデザイナーとしての仕事がいかされたものだから、まったく無関係ではない。装幀というのはとてもわかりにくい仕事で、説明にしくいと思うのですが、同じ「本をデザイン」するという仕事でも、その目的や対象をどこに設定するかにより、まったく変わってくる。だから同時に、幻冬舎デザイン室での装幀を一緒に展示したんです。


平川さんの最近の仕事より
(左)
『ビートニクス—コヨーテ、荒野を往く』佐野元春 幻冬舎/価格未定(2007年9月上旬発売)
(右)
『悪夢のドライブ』木下半太 幻冬舎/560円(2007年7月)
(左)
『ビートニクス—コヨーテ、荒野を往く』佐野元春 幻冬舎/価格未定(2007年9月上旬発売)
(右)
『悪夢のドライブ』木下半太 幻冬舎/560円(2007年7月)
与えられた環境で、一番いい仕事をする
──ちなみに現在、手がけているものは?
平川●いくつかありますが、佐野元春さんの著書。これは、やりがいがある仕事です。たまに、こうした僕のテイストを出していいものがあるのが嬉しい。外部のデザイナーに発注するケースもありますから、社内で受ける書籍は全体の3割ほどです。すでにイラストが決まっていて、はめ込むだけの業務もある。でも「これは平川に」という依頼があるのは光栄なことですね。
──いまデザイン室の室長で、出版局の課長。管理職でもありますね。
平川●ええ。そういう職務が多くなっています。デザイナーというよりも、ほんと「社員だな」って思うことがある。でも、それはそれで向いているのかな、と。
──しばらく、こういう形で?
平川●会社がある限りは、ずっと続けたいと思っています。
──いまの環境が居心地いい?
平川●与えらえれた環境で、一番いい仕事をすると心がけています。
──たまに自分のテイスト出せるものもあって。
平川●編集サイドから「こういうテイストの本だからお願いしたい」というブランド色が浸透するまで、10年かかるでしょう。
──いま入社9年目。来年ぐらいですね(笑)。
平川●ええ。いままでは、ずっと修業をしていると思っていましたから。これまでの経験で得たことは、本当にたくさんあります。たとえば入社時、時代物の装幀は自分には向かないなと思っていたのですが、だんだん面白くなった。時代物特有の決まり事や、時代物大半の読者である高齢者に向けての紙の選択、文字の大きさなど、そういうノウハウがわかるようになってきました。そんな中で時代物を描く若いイラストレーターとも親交が深くなってゆき、いまでは自分の「色」を出した時代物を独自の方法で装幀できるようになったと思います。
──先日、直木賞を受賞した松井今朝子さんの『吉原手引草』も、平川さんの装幀でしたね。
平川●はい。本当に嬉しかった! 信頼できるイラストレーターの宇野信哉さんと、ラフの段階から何度もやりとりし、細部にわたってこだわりぬいた装幀です。自分の好きな世界を出すことができ、なおかつそれが評価され、商業的にも成功したのは、なんとも言えぬ気持ちですね。
──社内だと、制作進行や資材調達などがやりやすいのでは?
平川●それは確かにあります。新しい用紙の情報はすぐに入ってくる。この紙(佐野元春の著作カバー)も、おそらく初めて出るものです。そういう横の繋がりは大きい。それもコミュニケーションですよね。出版社に勤めているからこそ、いろんな人とのコミュニケーションがうまくいく。フリーだったら「大変だな」と思うことがままあります。
──最後に、今後のヴィジョンは?
平川●とにかく、もっといろんな装幀をしたい。数を多くこなして、自分が装幀をした本を売っていきたいと思っています。いま東京に住んで仕事していますが、地方に行ったら幻冬舎の名前がわからない人のほうが多いと思うんです。でも、そういう地方の書店に行っても、僕が装幀した本が置いてあったら、それはすごく嬉しいこと。多くの人に手に取ってもらって、いろんな人に一生大事にしてもらいたい。そういう本をもっともっと作っていければいいですね。
平川●いくつかありますが、佐野元春さんの著書。これは、やりがいがある仕事です。たまに、こうした僕のテイストを出していいものがあるのが嬉しい。外部のデザイナーに発注するケースもありますから、社内で受ける書籍は全体の3割ほどです。すでにイラストが決まっていて、はめ込むだけの業務もある。でも「これは平川に」という依頼があるのは光栄なことですね。
──いまデザイン室の室長で、出版局の課長。管理職でもありますね。
平川●ええ。そういう職務が多くなっています。デザイナーというよりも、ほんと「社員だな」って思うことがある。でも、それはそれで向いているのかな、と。
──しばらく、こういう形で?
平川●会社がある限りは、ずっと続けたいと思っています。
──いまの環境が居心地いい?
平川●与えらえれた環境で、一番いい仕事をすると心がけています。
──たまに自分のテイスト出せるものもあって。
平川●編集サイドから「こういうテイストの本だからお願いしたい」というブランド色が浸透するまで、10年かかるでしょう。
──いま入社9年目。来年ぐらいですね(笑)。
平川●ええ。いままでは、ずっと修業をしていると思っていましたから。これまでの経験で得たことは、本当にたくさんあります。たとえば入社時、時代物の装幀は自分には向かないなと思っていたのですが、だんだん面白くなった。時代物特有の決まり事や、時代物大半の読者である高齢者に向けての紙の選択、文字の大きさなど、そういうノウハウがわかるようになってきました。そんな中で時代物を描く若いイラストレーターとも親交が深くなってゆき、いまでは自分の「色」を出した時代物を独自の方法で装幀できるようになったと思います。
──先日、直木賞を受賞した松井今朝子さんの『吉原手引草』も、平川さんの装幀でしたね。
平川●はい。本当に嬉しかった! 信頼できるイラストレーターの宇野信哉さんと、ラフの段階から何度もやりとりし、細部にわたってこだわりぬいた装幀です。自分の好きな世界を出すことができ、なおかつそれが評価され、商業的にも成功したのは、なんとも言えぬ気持ちですね。
──社内だと、制作進行や資材調達などがやりやすいのでは?
平川●それは確かにあります。新しい用紙の情報はすぐに入ってくる。この紙(佐野元春の著作カバー)も、おそらく初めて出るものです。そういう横の繋がりは大きい。それもコミュニケーションですよね。出版社に勤めているからこそ、いろんな人とのコミュニケーションがうまくいく。フリーだったら「大変だな」と思うことがままあります。
──最後に、今後のヴィジョンは?
平川●とにかく、もっといろんな装幀をしたい。数を多くこなして、自分が装幀をした本を売っていきたいと思っています。いま東京に住んで仕事していますが、地方に行ったら幻冬舎の名前がわからない人のほうが多いと思うんです。でも、そういう地方の書店に行っても、僕が装幀した本が置いてあったら、それはすごく嬉しいこと。多くの人に手に取ってもらって、いろんな人に一生大事にしてもらいたい。そういう本をもっともっと作っていければいいですね。
「これがデザイナーへの道」第13回、幻冬舎デザイン室・平川彰さんのインタビューは今回で終了です。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
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[プロフィール] ひらかわ・あきら●1969年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、装幀家のアシスタント、フリーランスでの活動を経て、98年に幻冬舎入社。現在、同社デザイン室の室長として書籍装幀、広告を数多く手がけている。2006年、自身の企画展「11人の作家による仮構幻想小説装幀&幻冬舎デザイン室の仕事」を開催。また「ギャラリーハウス・マヤ2003」「ペーターズギャラリーコンペ2007」の審査員を務めている。 |




