前回に引き続き、野尻大作氏が手掛けた作品を紹介。その制作過程における思考プロセスに迫る。第3話では、ファッションブランドABAHOUSEが発行する、カラーチップのような形状の商品カタログをピックアップ。
第3話 機能性の高い商品カタログ
イメージ中心の構成ではなく
しっかり機能させる
──今回ご紹介いただけるカタログは、どのような考えでデザインされたのでしょうか。
野尻●この仕事では、僕のほうから商品にフューチャーしたスタイルを提案しました。カタログには、いろいろなスタイルがあると思います。今回のような商品カタログの対極にあるものとしては、イメージを中心に構成したカタログが挙げられますよね。
──イメージで見せていくカタログにしなかったのは、なぜでしょうか。
野尻●ブランドの特性によってイメージカタログが有効なこともありますが、実際には作り手の自己満足で終わってしまっているものも、数多く見られます。見栄えに関しては面白くても「長期的なブランド形成に役立っているか」「掲載されている商品を欲しくなるような設計になっているか」と考えた際に、疑問に感じられるカタログも、世の中には多いように感じるのです。そのようなことも踏まえ、しっかりカタログとして機能するものを作っていくべきだと考えました。
──中ページでは、商品単体を紹介するだけではなく、商品の組み合わせが掲載されていることも特徴的です。
野尻●店頭では、ボディに着せたスタイリングの数が少ないことも珍しくありませんし、デザイナーの方が想定していたスタイリングが、お客さんに伝わっていないケースもありえます。そこで、スタイリングの提案を、各アイテムの詳細なデータとともに掲載したのです。盛り込まれる点数は各シーズンに30パターンほどです。
──カタログとしては珍しい形状の外装も印象的ですね。
野尻●カラーチップや紙見本をモチーフにしています。商品番号や値段といったデータが盛り込まれている部分にミシン目を入れることで、切り取って利用できる仕組みになっています。
──4シーズンに渡って制作されているそうですが、同様の体裁で続けているのでしょうか。
野尻●版型や形状などの体裁は踏襲しています。この版型は、縦位置で見せるにはちょうど良いサイズ。かなり大きめに洋服の写真を掲載することができるため、今のところ変更する必然性を感じていないのです。表紙などの装丁に関しては、季節や各回のテーマに合わせて、素材感を出すようにしています。
──機能性はもちろんですが、見栄えのカッコ良さも両立されているので、手元に揃えておきたくなりますね。
野尻●カタログ自体でブランディングしていくための狙いはあります。イメージで構成されているカタログではありませんが、このようなカタログを作っていること自体が、ブランドを好きになってもらう理由にもなるはずですから。
野尻●カタログ自体でブランディングしていくための狙いはあります。イメージで構成されているカタログではありませんが、このようなカタログを作っていること自体が、ブランドを好きになってもらう理由にもなるはずですから。
──お話を伺っていると、非常にストイックに「クライアントありき」「商品ありき」でデザインされていることが感じられますね。世の中には、「面白いことを実現したい」との欲求が先走る作り手も多いと思うのですが。
野尻●いや、そのような欲求はもちろん、デザイナーとしては絶対にあると思いますよ。自分で作っているものが、最終的にカッコ良くなかったり、美しくなかったりするのは嫌ですから。ただ、建前ではなく、僕は自分で絵を描いたりするわけではありませんし、内から湧き上がるようなテーマは持っていないのです。だから反対に、クライアントがいて、そこに何らかの機能が求められることでテーマが決まる仕事に携わることが楽しいと感じます。今回のカタログのようなものを、きっちり機能性にこだわってデザインして、それがクライアントのブランディングにつながったり、商品の売れ行きにつながることが嬉しいわけです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「ニュートラルな書体」について伺います。こうご期待。
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