野尻大作氏によるアートディレクション術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、クリエイティブ集団「スタジオ4℃」のもと、複数のアニメーション作品をパッケージングした「Genius Party」にまつわるグラフィックを紹介。題材がオムニバス映画ならではのデザインについて聞いた。
第4話 ニュートラルな書体
細部に注力することで
生み出されるアイデンティティ
──まずは、今回ご紹介いただける「Genius Party」の概要から教えてください。
野尻●それぞれ異なるアニメーション作家による7編の作品を集めた、いわゆるオムニバス映画です。この「Genius Party」は、単発の映画だけで終わるものではなく、気鋭の映像作家が作った作品をパッケージングして公開するスタイルのプロジェクトで、すでに第二弾も製作されています。
──デザインするに際して配慮した点などについてお聞かせください。
野尻●オムニバス映画であるため、当然それぞれの作家が描く世界観も作品ごとに異なります。そこで、イメージを限定させるような主張の強いロゴを盛り込むのは避け、オリジナルの書体を作成して仕上げました。ただし、黄色と赤を中心に構成し、色がアイコンとして機能するようにデザインしています。
──オムニバス作品ならではの工夫というわけですね。
野尻●従来の映画に関するグラフィックでは、もっと絵が主張していて、タイトルロゴでも何らかの個性があることが一般的だと思いますが、そのようなものとは少し考え方が違うのです。だから、本文にもオリジナルの書体を使用しています。今回の仕事では、アルファベットや数字などをすべて作成し、ウェイトに関しても複数のものを用意しました。
──第1話で紹介させていただいた「FREEDOM-PROJECT」でも同様に、オリジナル書体を用いてロゴが制作されています。タイトルの部分の作字に留まらず、本文書体まで作成したのはなぜでしょうか。
野尻●ひとつのロゴで引っ張っていくほどの個性は与えていない反面、細部にまで注力することで、全体としてひとつのアイデンティティが表現されるわけです。プロジェクトごとに書体を作成するのは大変ですが、必要なわけですし、長期間に渡って続く仕事ですから、先行投資のようなものです。
──なるほど。文字の扱いに関しては、パンフレットの表紙が「G」の1文字だけで構成されているのもインパクトがあります。
野尻●パンフレットは、主に映画館で販売され、当然ながら「Genius Party」を見に来ている方が購入してくださるものですよね。だから「Genius Party」と全ての文字を入れる必要はないのです。また、一般的な映画パンフレットの表紙で多用されるスタイルのように、どれか1つの作品の絵だけを当てはめるデザインでは、それぞれの作品に優劣が付いてしまいますから不適当でしょう。そのように処理することは最初から考えていませんでした。
──たしかに版型も大きいですし、一般的なパンフレットとは見栄えが異なりますよね。
野尻●ある意味で「Genius Party」は実験的なプロジェクトであり、家族連れの子どもに向けたアニメーションではありません。現在、アニメーションの映像作家や、可能性のある表現方法としてのCGが注目されているなかで、クライアントの意向としても、昔ながらの「アニメ」のイメージではなく、ステータスのある映像としてアニメーションの世界を紹介したいとのことでした。そのメッセージを汲んで、一般的な「アニメ映画のパンフレット」と感じられる体裁とは違う印象になるように配慮しているのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第15回野尻大作さんのインタビューは今回で終了です。
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