第4話 インターネットと音楽の未来 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

着実に浸透したエレクトロニックダンスミュージックのWEBメディア、higher-frequency。そして、その配信サイトであるhrfq。両サイトのプロデューサーでもある株式会社サウンドグラフィックスの代表、中村英訓氏に話を伺った。

第4話 インターネットと音楽の未来



——今後の音楽とインターネットについてどう思われますか?

中村●僕がよく言っていることなんですが、「音楽の先祖返り」ということを言っています。音楽ってエジソンが1877年に蓄音機を発明するまでは、全てライブですよね。例えば、どうして音楽出版をコピーライトっていうのかというと、それは楽譜しか音楽を記録するものがなくて楽譜の出版にまつわった権利なので、著作権を音楽出版って言うんです。

エジソンが蓄音機を発明するまでは、レコードビジネスは世の中に存在していない。音楽がいつスタートしたかというと多分2万年前とかなんです。最初、猿が木叩いているところで、上手いヤツがまわりを囲まれているというジャッジを実はライブでやっていた。その状況がずっと続いていて、ベートベンの時代もシューベルトの時代も楽譜っていう記録物があったとしても、やはり演奏そのものはライブしかなかったんですよね。彼らはギャラをいわゆるとっぱらいで食べてたわけで、だから、全員ライブアーティストなんです。

エジソンが初めてそれをパッケージにすることを可能にして、いわゆる音楽文化の複製・頒布技術とそれにまつわる産業が確立されたわけなんですが、その歴史はたった130年しかない。ということは、2万年を超える長い音楽の歴史を考えると実はこの130年が異常であって、それ以前こそが本当の音楽じゃないかなと思うんです。

クラフトワークのメンバーにインタビューした時に、エジソンが一度固形物にしてしまった音楽が、固形物のままインターネットの中に拡がって、今や何億曲何十億曲という曲がインターネットという環境の中をいろんなベクトルで無限に無数に固形物の状態で回っている。ただ、それがあまりに数が多いために、逆に流動化して昔と同じようなライブのような環境を生み出しているということを言っていて、僕はその考えに凄く影響を受けているんです。ようはインターネットを漂う一つ一つのコンテンツとしての音楽は、あくまで「固形物=複製物」の姿に変わりないのですが、その無数の広がりを目の前にしたユーザーやリスナーは、それを「瞬間的」「刹那的」「即興的」に処理していかない限り、とてもじゃないけどスピードについていけない。だから、音楽文化がむしろ先祖がえりして「ライブ化」しているということなんですよね。
















上左:K ・SOUNDSのサイト、右:WAKYOのサイト。いずれも音楽関係を得意とするサウンドグラフィックスならではのデザインによる。


エジソンの技術を使って、録音したメディアにするためには、技術と資本が必要じゃないですか、そうするとお金を持ってる人しかそれができない。だから、メジャーレコード会社というのが出てきて、特権階級が権利を握ってその人たちの気にいられた人しか作品が出せないという仕組みが出来ていると思うのだけど、今ではそれが完璧に流動化していますよね。YOUTUBEだってMY SPACEだってクリックして判断するまで3秒か4秒。ということは実質的に膨大な情報を前に全てライブ化していて、結局ユーザーはプロフィールを読んでいる暇もないし、誰が推薦してるとか考える間も無く自分が好きな音楽をその場でチョイスして「私、好き!」って言っている。

その状況が、究極の複製マシンであるインターネットが出てきたことで、その固形物がものすごいスピードで回ってるがゆえにライブ化してしまった。そんな風に音楽が先祖返り=本来あるべき姿へと戻ろうとしている中で、この流れはもう止められないでしょうね。僕らの世代(昭和40年代生まれ)が生まてからずっと勘違いしていたのは、「音楽とはパッケージに封印してコレクションして収集して楽しむものなんだ」という価値観であって、その価値観が音を立てて崩れているからこそ、今の音楽業界は大いに迷い苦しんでいるんじゃないでしょうか。事実、音楽ビジネスの中核に居る人たちは、みんなアナログやCDといったパッケージに魅せられて、それがきっかけでこの業界に入った人が多い。でも、今の若い世代の人は、そこにはあまりこだわっていないですからね。

太古の昔から音楽は常に人間にとってライブな存在で、その場さえ良ければ良かった。その場さえ楽しくてその場の雰囲気に合っていればよかったものが、固定化して、複製して、頒布するという立派なコレクション・ビジネスになってしまった。ただ、長い歴史のなかではこの百何十年が例外なんですよね。それがインターネットが出てきたことによって本来の音楽の世界、元に戻りつつある。

そういった点で、うちのhrfqは10万曲以上はないと駄目なんです。仮に300曲400曲を我々のお墨付きとして、配信するというやり方をやったとしても、売上という観点でいうと、そんなに変わらないはず。だったら、そこに自分の「権威」や「知識」を無駄にアピールして、「これがオレ様が選んだ数百曲だ」という形で配信するより、「たくさんいい曲があるから好きなものを好きなだけ試聴して買っていってね〜」と言ってあげるほうが、時代の流れにはあっているかなと。

あえて僕がレーベル出身者でありながら配信サイトという道を選んだ理由もそこにあります。あまりにクオリティの低い音源などにフィルタリングをかけることは必要になってくるだろうけど、レーベルとか有名だ無名だという関係なしに、ザーッと大量の音楽をネット社会に流し込む。それだけの数があると、僕が聞いて、個人的に「クオリティが低いなぁ」と思う曲であったとしても3人4人はダウンロードしていくというケースが実際にあるんですね。これが、これからの音楽とインターネットメディアの付き合い方だし、僕の勝手な意見で言ってしまうと、これまでCD・パッケージにパラサイトしていた音楽というものが、これからはインターネットにパラサイトしていくんじゃないでしょうか。

でも歴史的に見ればグーテンベルクが印刷技術を発見してから、しばらく音楽は楽譜というものにパラサイトしていたんですよね。それって紙メディアじゃないですか。それがエジソンが出てきてレコード、ソニー・フィリップスがCDを作って、次はDVDにパラサイトしようかなと思ってた頃に配信が出てきた。だから、レコード会社の計算は大きく狂って、レコード・ビジネスは不況ビジネスなんていわれている。でも、それはあくまで「レコード=記録し、複製し、頒布する」ビジネスであって、音楽ビジネス・音楽文化という観点においては、これからはしばらく音楽というものは、多分ネットメディアやライブ会場と言う新しい「メディア」に憑依して、その形を借りながら世の中にますます浸透していくと思うし、その規模・スピードはむしろ歴史上始まって以来の大きさ・速さであるといっても過言ではないと思うんです。


——デザイン的にはこだわりとかあったりしますか?

左:白をベースにしたシンプルなデザインのNEW WORLD RECORDSのサイトもサウンドグラフィックによるデザイン



中村●世の中のカッコいいという感度が、常に変化してきていますよね。この仕事を始めた時はフルフラッシュのサイトがカッコ良かったんのが、徐々にフラッシュがギミックを伴うようになってきて、さらにCSSが使われるようになると、HTMLでクールに作って一部分だけフラッシュにするのがカッコいいみたいになってきて。今だとブログっぽいのがカッコいいってことになっている。そういったデザイン的なトレンドをWeb事業者である我々が持つとかえって危険かなと思うんです。これは決して音楽サイトに限らないとおもいますが。

実際にUNITさんという代官山のクラブのページをやった時も、あえてブログっぽい方がいいと言うんですよね。ブログって我々プロが見た時には、デザイン的にはダサいんじゃないかと思っていても、まわりまわって今ではクールになっているというところもあるわけで。僕たちがあまりデザインに対して固執した考えを持ってしまって、余裕がなくなってしまっても危険だと思うんですよね。ましてやAjaxが出てきてもうこれからどうなっていくかわからない状態だと思うんですよ、これから。何がカッコ良さになるのかっていうことは、技術の進化によってまた大きく変わってくるかなという気がしますね。

——やはり技術の力ってWebには影響力大きいですかね?

中村●半々だと思いますね。やはりクリエイティブとテクノロジーというものが同居してるからこそ、おもしろい事業なのかなという気はしますね。

——具体的には今後何かやっていく予定とかありますか?

中村●しばらくはAjaxを追求していこうと思っています。まだAjaxっていろいろな問題があって、まだ本領も発揮できてないですし。あとはWebの技術というところではないんですが、ASP化というのは避けて通れないなと思います。せっかく自社で配信ビジネスをやって音楽配信のバックエンドの仕組みから権利処理まで学んだわけですから、そこを今度は、集合知世界の一員として格安でちゃんとASP化してあげて、誰でも音楽配信できる生態系を作ってあげることが必要ではないでしょうか。これから10年の間にエンターテイメント産業の向かっていく先は、もはやB to BではなくてC to Cというところになるのは間違いないでしょうし、その流れを「知識を持ったプロフェッショナル」としてどうやってサポートするか、それが自分の会社の使命だとも思っていますから。




(取材・テキスト/服部全宏 撮影/谷本夏 編集/蜂賀亨)




中村英訓


株式会社サウンドグラフィックス 代表取締役


プロフィール
1967年岡山県生まれ。大学卒業後、東京銀行に入行。4年間の勤務の後、音楽好きが講じてワーナーミュージック・ジャパンに転職。その後、約10年間にわたって、会長室、編成部など、主に制作部門を側面支援する部門を歴任する。'03年に新しいエンターテイメント・ビジネスのあり方を追求するために(株)サウンドグラフィックスを設立。印刷・Web・音楽配信・音楽出版業務などを事業の中心にすえながら活動している。現在5期目
twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在