いま、破竹の勢いで広がるWeb広告界。その最前線で活躍する中村洋基さん(株式会社電通)と佐野勝彦さん(株式会社博報堂アイ・スタジオ)が、さきごろ開催されたアドビ システムズ主催のイベントに講師として登場。今回の「ザ・対談」は、イベント終了後のお二人に話をうかがった。互いの制作スタイル、ルーツ、発想と日常の裏話、Flash、インタラクティブ広告の現在と未来……気鋭のWebクリエイターによる、ざっくばらんなトーク・セッションをお楽しみください。
第2話 Webクリエイターになるまで
ルーツは「建築」と「高橋名人」
佐野●僕はもともと僕は建築デザインを学んでいたことかな。ここ(手元のPC)に、学生時代の卒業制作があるのですが……
中村●お! よくそんなの入れてますね。
佐野●たまたま先日、講演のときの見本として持って行って。
中村●細かいの好きですねー(笑)。
──いまに繋がっていると思いますか?
佐野●そう思います。ちなみにこれ、大学で一番だった。
中村●おお、すげえ。
──建物というよりも、多層的で街作りに近い。
佐野●ええ。どっちかというと都市設計のほうですね。
中村●僕はやっぱり漫画ですよ。子供の頃は普通にドラえもん。全巻、何十回も読み返して。あとは小学校1〜2年の頃が、ちょうどドラゴンボールだった。もうひとつ、キン肉マン世代というのもあって。でも、発想の真ん中は常にドラえもんですね。活動的なものより空想的なほうが好きです。
佐野●ビックリマンは?
中村●もちろん持ってました。ゲームも人一倍好きだったし。小学校1〜2年の頃、文集に「高橋名人になる」って書いたんですよ(笑)。
──現在のような仕事、職業として10年前に予想してました?
佐野●僕は思ってました。建築デザインの世界では、そのころから情報化で建築が変わると言われていた。現にアメリカでは、インターネットが普及したときに街がどう変わるか、未来像も含め、いろんな研究があって。そういうものを聞いていたので、こっち側に来たというのもある。10年前はまだ規模が小さかったけれど、今後は大きな市場、メジャーな主流になっていくだろうという予想があって。
NEWクレラップのバナー広告。ドラッグして箱を開けると、透明ラップを「ツー」と引き出せる仕組みがトリッキー。
商品の「すぐれた保存力」をWeb上で疑似体験させる発想とオチ、リアルな音にもこだわった技術に脱帽だ。
第5回東京インタラクティブ・アド・アワードのフローティング広告部門金賞、D&AD Global Awards 2007 : In-Book
Flash 4が、みんなを変えた
佐野●みんな、大体10年前ぐらいだよね?
中村●そうですね。でも僕は、10年前はまったく思ってなかった。最初は芝居をやりたくて大学に入ったんです。それは才能がないことがわかって(笑)同時に気がついたら身近にMacがあった。先輩から譲り受けたもので、メモリ32メガでなんとかやりくりするような。もうちょっと後になって、フリーの集団がWeb制作のプロダクションを始めだした。そういう時期に、たまたま参加できたんですね。
──デザインの勉強は?
中村●まったく。その前、芝居のチラシを作っていたぐらい。今でも、静的なデザインはカイブツさんにお願いしてます。アニメーションは、早い段階でFlashにも出会うことができて、そこから一気に運良く転々とできた。
佐野●おそらくFlash 4が出たのって、その頃でしょ。それが結構、みんなのベースとして影響してるかも。
中村●4はすごかったですね。
佐野●あそこで激変して。
中村●また5で激変した。そこにちょうど入ることができたんです。
──ソフトの更新で制作環境も変わって。
中村●ええ。10年前、まだFlashサイトなんてまったくなかった。あってもShockwaveゲームぐらいで、多くの人はまだ「Flashってなんじゃい?」みたいな感じ。そこで世間的にセンセーショナルだったのが、中村勇吾さんの「MONO*crafts」でしたね。あと海外では「EYE4U」とか。もう、腐るほど見ましたよ。
佐野●実は……僕が「MONO*crafts」見たの、だいぶ後なんです。いまの会社に入社して、隣に座っているバイトの女の子に教えてもらった(笑)。
中村●へー。
佐野●恥ずかしい限り。
中村●でも、いまも変わらず残っているんですよね。
佐野さんの仕事より、SHARP「Kameyama Dream Factory」
液晶パネル・テレビの「亀山モデル」を生産する、シャープ株式会社の亀山工場サイト。
メーカーの歴史を繙きながら未来へとつながる空中神殿、アクオスの内部パーツが優雅に舞うクリスタルバレー、
匠の技が育んだ最先端テクノロジーをスライドさせる写真絵巻……
鮮やかで微細なビジュアルを大胆に動かすFlashワークが、訪れた者を幻想的な世界へと誘う。
企業の理念、もの作りへの姿勢、そしてWebクリエイティブにおける“アート”が見事に調和した希有なPRサイト
(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏 取材協力:アドビ システムズ株式会社)
*中村洋基さん、佐野勝彦さん両氏が講師を務めたイベント「Adobe Creative Suite 3 Web Edition TOUR−Deep Dive
キモチヨクハタラク!?」のレポートは、こちらまで。
[プロフィール] |
さの・かつひこ●1976年生まれ。株式会社博報堂アイ・スタジオに勤務。クリエイティブ・ディレクター/アート・ディレクター。企画、デザインからFlashまでトータルにサイト制作を手がける。Cannes Lions 銅賞、NY Fest.銀賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞など、国内外のアワードを多数受賞。個人での作品制作を行い、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作にも選出されている。http://www.30k2.com |