いま、破竹の勢いで広がるWeb広告界。その最前線で活躍する中村洋基さん(株式会社電通)と佐野勝彦さん(株式会社博報堂アイ・スタジオ)が、さきごろ開催されたアドビ システムズ主催のイベントに講師として登場。今回の「ザ・対談」は、イベント終了後のお二人に話をうかがった。互いの制作スタイル、ルーツ、発想と日常の裏話、Flash、インタラクティブ広告の現在と未来……気鋭のWebクリエイターによる、ざっくばらんなトーク・セッションをお楽しみください。
第5話 Web広告、今後の課題
もっといろんな人に見てもらいたい
中村●やっぱり見る人の数を、もっと広く大きくしていきたいですね。イベントでもセミナーでも、携わった仕事の画像をプロジェクターに映すと、見た人が少ないから「オー!」と反応してくれる。こっちとしては嬉しい反面、いままで見てくれてなかったことが残念なんです。まだまだリーチが少ないメディア。でも、広くすることはできるんですよ。
──具体的には?
中村●SEM対策とブログパーツみたいなバイラル・コミュニケーション。その価値が最近ようやくわかってきて。やっぱりブログパーツとか、アクセスが減らないじゃないですか。Yahoo!トピックスにのると、みんな見るし。他のメディアとコラボするとか、いろいろ方法はあると思うんですよね。
佐野●地上波とインターネットが、もっとシームレスにできるようになるといいのかな。いまHDレコーダに自分の興味のあるキーワードを入力しておくと、自動検索してくれますよね。そういう技術や理論があるなら、そこをくっつけて、テレビ見る感覚でWeb見れるとか……。うまい方法があってくれるといいのですが。
中村●ええ。街中で「あのCM見た?」とは言うけれど「あのサイト見た?」なんて……業界人しか言わないですからね(笑)。それは単純にさびしい。
佐野●確かに。
中村●僕や佐野さんがやっていることは、広告代理店でいうとCMプランナーとコミュニケーション・プランナー、デザイナー兼Flash使いみたいなもの。めちゃくちゃ時間がかかる作業で、これだけ必死でやっているのに、見てくれる人が少ないのは非常に残念。もちろん見た人はディープな体験をしてくれるし、そのぶん好きなように作らせてもらっているのは嬉しい。欲を言えば、これからは純粋にいろんな人に見てほしいから、その策を考えていきたいですね。
時を操る孤高の天才「Crazy Genius」から届く挑戦状……
その超難問を解いた者の中から一人に、高価時計が贈られるキャンペーン・サイト。
Second Lifeともリンクし、Crazy Geniusが住む島「URASHIMA」には、
挑戦状をクリアするための重要なヒントが隠されている
デザインとFlash、両方できるからこその発想
──では、最後にWebクリエイター志望者へ、アドバイスを。
中村●繰り返しになりますが、Flashを頑張ることでしょう。一人で作ったものを身軽に映像、アニメーションにできる史上最強のソフトだと思う。音もデザインも思い通りに自分で管理できるし、いろんな人がいろんな使い方ができる。CMや映像、いろんなアウトプットをしたいと思うと、どれでもFlashはあてはまる。
佐野●作りやすい分、どんどん発信していってほしいですよね。発信すれば、いいものは一瞬に広まる。
中村●ほんと「好きこそ物の上手なれ」ですよね。好きだから映像を発信する。好きだから漫画を描く。どれでもFlashにいけちゃうから。
佐野●とは言いつつ、分業が進んでいるじゃないですか。デザインやりながらFlashもやる人、どんどん減ってきていて。昔は両方やっていたのに。
──それは、効率をよくするために?
中村●自分でやることを諦めてよかったというデザイナーもいます。明らかにそれがいいなら、外注したほうがいい。一人でやるほうが、かっこいいけれど。
佐野●僕も個人的には、両方やっていく人が増えてほしいですね。両方できるからこそできるインターフェイスとか。そういう発想、あると思うので。
中村●それは大いにありますね。あれもできない、これもできない……と固定観念を持ち出したら立ち行かなくなる。だから「Webってこんなものだろう」とは、絶対に持たないようにしています。それをどんだけ崩すかというのが大事で、別にメチャクチャにしたいわけはなく、それが勝負ですから。
佐野さんの仕事より、日本郵政「あなたの近くにある会社」
先ごろ民営・分社化した、日本郵政グループのスペシャルコンテンツ・サイト。
「人と人のつながり」をテーマに、日本全国を網羅するネットワークの安心感とぬくもりを伝える。
素朴で温かみのある一筆書きビジュアルは、Adobe Flash CS3とActionScript 3.0を全面採用しながらの表現。
最新技術とアナログ感覚が合わさった制作背景、手法についてはこちらの記事もご覧ください
(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏 取材協力:アドビ システムズ株式会社)
*中村洋基さん、佐野勝彦さん両氏が講師を務めたイベント「Adobe Creative Suite 3 Web Edition TOUR−Deep Dive
キモチヨクハタラク!?」のレポートは、こちらまで。
[プロフィール] |
さの・かつひこ●1976年生まれ。株式会社博報堂アイ・スタジオに勤務。クリエイティブ・ディレクター/アート・ディレクター。企画、デザインからFlashまでトータルにサイト制作を手がける。Cannes Lions 銅賞、NY Fest.銀賞、東京インタラクティブ・アド・アワード金賞など、国内外のアワードを多数受賞。個人での作品制作を行い、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作にも選出されている。http://www.30k2.com |