第2話 文庫本のフォーマット | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて









第1話に引き続き、有山達也氏が手がけた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話は豊富な色のバリエーションが印象的な集英社文庫のフォーマット。デザインする際に配慮したポイントについて聞いた。




第2話 文庫本のフォーマット


褪色後のことまで意識して
決定した色のラインナップ




──集英社文庫のフォーマットでデザインされたのはどの部分でしょうか。

有山●カバーの表1以外と表紙周り、奥付、扉などです。全体的に普遍性をもたせながら、一方では古臭くならないように配慮しました。

──この仕事にはどういった経緯で携わることになったのでしょうか。


有山●この仕事は競合プレゼンテーションからスタートしたのですが、集英社の編集の方から「参加してみないか」と誘ってもらったのがきっかけでした。競合プレゼンは今回が初めてだったのですが、文庫本のフォーマットは5年、10年と使い続けられる点に惹かれて参加を決めました。

──出版社からは、事前にどういった要望があったのでしょうか。

有山●若々しい色味で10色以上の展開が必要とされるなど、いくつかの要望がありました。色に関しては、プリンタ出力ではイメージしている色味を正確に伝えられないと思ったため、自費で印刷したものを用意してプレゼンに臨みました。


──どのようにデザインのアイデアを固めていったのか、具体的なプロセスを教えてください。

有山●文庫はとにかく背が大切です。並べたときに集英社文庫であることがわかるように、何らかの特徴を出さなければならない。そこに盛り込まれる要素は著者名、書名、本屋での識別番号の3つ。それらとバックの色との関係を、どのように決めていくかが重要だと考えました。

──具体的にはどのように処理したのですか。

有山●書名と著者名は、基本的に全部スミ文字にしたいと考えました。バックの色面は、スミ文字が乗ったときにも、しっかり読むことができるように、全体の明度や彩度を高めにしています。これはもちろん、若々しさが求められていたことにも関係しています。


──識別番号の扱い方についてはいかがでしょうか。

有山●その部分は特徴を出すためのポイントであると思いました。そこで、白い玉を背面に敷いて見せることに決めたのです。棚に収めたときに白玉が横に並べば、他の文庫の列とは違って見えますからね。また、この処理には著者名と書名を区切って見せる意図もあります。

──文庫全体の特徴を出すと同時に、それ以外の役割もあるのですね。

有山●ただ、ちょっと問題もあったのです。薄い黄色などの色面の場合には、白玉の窓を作って、その中に同じ色で文字を入れても読みづらい。これを回避するのに苦労しました


──実際にはどう回避したのでしょうか。


有山●識別番号の文字の作り方をバックの色ごとに変えました。読みづらい色の場合には、文字の部分にスミ網を乗せて少しだけ濃くしたり、影版を付けて袋文字にするなどの処理を行っています。窓の部分にスミを乗せる方法も検討したのですが、そこは白いまま残しておきたかったので中の文字で対処したのです。


──使用色のラインナップを決める際に特に意識した点はありますか。

有山●これは版元も気にしていたことですが、褪色については慎重に配慮して、時間が経つと似てしまう色の組み合わせは避けました。褪色しやすい蛍光色は使うことができないし、同様に黄色の扱い方にも注意しているのです。実際に使用する色が確定するまでには何回も色校を出して検証しています。


──たしかに文庫本にとって褪色は大きな問題ですね。

有山●黄色の褪色について考えるといっても、ただ黄色だけに配慮すればいいわけではありません。赤系統の色でも、その中に含まれる黄色が抜けていって、だんだん別の色に近づいてしまうことも想定する必要がありますし、同様に青と黄緑などのバランスも重要となります。そのように考えながら10色以上の幅を設けるのは相当に大変でした。


──フォーマット化するとなると、文字の扱い方を含め、さまざまなバリエーションが必要となりますよね。

有山●その通りです。タイトル文字だけでも、サブタイトルや巻数の有無など、さまざまなパターンに対処できる必要があるため、先方の校正者とは密に話をしながらフォーマットを作っていきました。実際、ここまで多くのパターンが必要になるとは想像以上でしたね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第3話は「落ち着いた佇まいの装丁」について伺います。こうご期待。




有山達也(ありやま・たつや)

66年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年間勤務。93年アリヤマデザインス トアを設立。94年『マルコポーロ』(文藝春秋)にデザイナーとして参加。以後、『ERiO』(NHK出版)、『store』(光琳社)、『ゆめみらい』 (ベネッセコーポレーション)、『ku:nel』(マガジンハウス)、『FOIL』(リトルモア)などのアートディレクションを担当。2004年『100 の指令』(日比野克彦著/朝日出版社)で第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在