有山達也氏によるデザイン術を紹介してきた本連載。最終回となる第4話では、フィジー在住のヴァシィ章絵さんによって著された小説『黒水熱』(講談社)に注目。カバーや表紙の印象的なイラストについて詳しく聞いた。
第4話 装丁に用いるイラスト
内容を説明しすぎない
イラストを用いること
──まずは『黒水熱』の概要から教えてください。
有山●この本は今までに僕が装丁してきたような小説とは少し異なる、変わった内容のものでした。女の復讐劇で、タイトルの黒水熱はマラリアで最も重度のときの合併症の名前なのだそうです。
──どのような考え方に基づいて装丁のイメージを固めていきましたか。
有山●全体を真っ黒にするか真っ白にするかで迷いました。ただ、しっかりとイラストが見えるほうがいいと思い、白っぽい雰囲気のほうを採用しています。トビラに関してはカバーとは反対に、全体を黒っぽく仕上げました。
有山●この本は今までに僕が装丁してきたような小説とは少し異なる、変わった内容のものでした。女の復讐劇で、タイトルの黒水熱はマラリアで最も重度のときの合併症の名前なのだそうです。
──どのような考え方に基づいて装丁のイメージを固めていきましたか。
有山●全体を真っ黒にするか真っ白にするかで迷いました。ただ、しっかりとイラストが見えるほうがいいと思い、白っぽい雰囲気のほうを採用しています。トビラに関してはカバーとは反対に、全体を黒っぽく仕上げました。
──装丁のビジュアルにはイラストが使用されていますね。
有山●ちょうど良いタイミングで、ペーター佐藤さんのギャラリーからDMが届いたのですが、そこに大竹悦子さんの絵が載っていたんです。それを見て「これは面白い」と感じ、すぐに「描いてもらえませんか」と打診しました。
──独特のタッチが印象的なイラストですね。
有山●もともと少し気持ち悪いような、でも細かいところまで作り込んである絵を描く方なのです。だから、最初のラフの段階では、今以上に女性が美しく描かれていなくて、版元の判断でNGが出てしまいました。この女性は小説の主人公なのですが、小説ではアンドロイドのような美人として表現されているのです。
──そこからどのような工程を経たのでしょうか。
有山●絶対に大竹さんの絵がいいと思ったので、編集部には「この絵がダメなのであれば、僕も今回の仕事を降ります」と言いました。最終的には、やや美人に描き直してもらって、最終仕上がりの状態になったんです。
有山●ちょうど良いタイミングで、ペーター佐藤さんのギャラリーからDMが届いたのですが、そこに大竹悦子さんの絵が載っていたんです。それを見て「これは面白い」と感じ、すぐに「描いてもらえませんか」と打診しました。
──独特のタッチが印象的なイラストですね。
有山●もともと少し気持ち悪いような、でも細かいところまで作り込んである絵を描く方なのです。だから、最初のラフの段階では、今以上に女性が美しく描かれていなくて、版元の判断でNGが出てしまいました。この女性は小説の主人公なのですが、小説ではアンドロイドのような美人として表現されているのです。
──そこからどのような工程を経たのでしょうか。
有山●絶対に大竹さんの絵がいいと思ったので、編集部には「この絵がダメなのであれば、僕も今回の仕事を降ります」と言いました。最終的には、やや美人に描き直してもらって、最終仕上がりの状態になったんです。
──このタッチのイラストにそこまでこだわった理由は何だったのですか。
有山●この小説は破天荒なところがあるので、イラストも少し破天荒なものが良いと考えたのです。内容とまったく似ているわけではないのですが、大竹さんのイラストにはピンとくるものがあったので。彼女に依頼しようと考えた時点で、僕の中では方向性が定まっていたのです。
──今回のケースに限らず、表紙のビジュアルに使用するイラストは、どのような基準で選んでいますか? やはり小説の内容に合わせることが多いのでしょうか。
有山●いや、むしろマッチし過ぎないものですね(笑)。あまり内容を説明しすぎてしまうと、読む側の幅を狭めてしまうように感じるのです。ある程度、読む人たちに余白を与えられたほうが良いのではないでしょうか。だから、ときには内容からガラリと外すこともあります。
有山●この小説は破天荒なところがあるので、イラストも少し破天荒なものが良いと考えたのです。内容とまったく似ているわけではないのですが、大竹さんのイラストにはピンとくるものがあったので。彼女に依頼しようと考えた時点で、僕の中では方向性が定まっていたのです。
──今回のケースに限らず、表紙のビジュアルに使用するイラストは、どのような基準で選んでいますか? やはり小説の内容に合わせることが多いのでしょうか。
有山●いや、むしろマッチし過ぎないものですね(笑)。あまり内容を説明しすぎてしまうと、読む側の幅を狭めてしまうように感じるのです。ある程度、読む人たちに余白を与えられたほうが良いのではないでしょうか。だから、ときには内容からガラリと外すこともあります。
──ちなみに、今回のイラストの原稿はカラーで描かれていたのでしょうか。
有山●いや、黒のボールペンで描かれていたのですが、ちょっと赤味を感じさせる線でした。カバーには少しだけ色味が欲しいと考えていたので、そのイラストを4色分解して印刷しています。一方、表紙に関しては黒1色です。
有山●いや、黒のボールペンで描かれていたのですが、ちょっと赤味を感じさせる線でした。カバーには少しだけ色味が欲しいと考えていたので、そのイラストを4色分解して印刷しています。一方、表紙に関しては黒1色です。
──続いてタイトル文字についてお聞きしますが、これはどのように発想していきましたか。
有山●少し場末の雰囲気を出すために、カッコ悪い看板のようにカクカクさせたいと考えました。そこである書体をベースにしながら、元の文字を崩していったのです。僕の仕事にしては珍しく装丁にゴシック系の書体を使いました。
有山●少し場末の雰囲気を出すために、カッコ悪い看板のようにカクカクさせたいと考えました。そこである書体をベースにしながら、元の文字を崩していったのです。僕の仕事にしては珍しく装丁にゴシック系の書体を使いました。
──前回ご紹介いただいた書籍と同様に、やはり文字ごとに細かな調整を行っている箇所があるのでしょうか。
有山●そうですね。たとえば著者名に含まれる「ァ」や「ィ」は、わざとセンターラインから外しています。少しずつの変更ですが、これも見た目に合わせた処理です。実際に手で拗促音を書くときにも、中央から少しズラして書きませんか? 自分の癖もあるのでしょうが、ちょっと動かしたほうが、座りがいいように感じるのです。
──ゴシック体中心の文字使いに関してもそうですが、全体的に有山さんのデザインを象徴する端正なイメージとは異なる印象を受けました。
有山●そのように周りから思われがちな部分を、少し変えたいとも考えているのです。発注者側のイメージを良い意味で裏切りたいですからね。方向性の違う仕事は面白いですし、このようなデザインも自分の中にあることが発見できたので、もっと掘り下げていきたいと思いました。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
「このアートディレクターに聞く」第16回有山達也さんのインタビューは今回で終了です。次回からは高橋正実さんのお話を掲載します。
有山達也(ありやま・たつや) 66年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年間勤務。93年アリヤマデザインス トアを設立。94年『マルコポーロ』(文藝春秋)にデザイナーとして参加。以後、『ERiO』(NHK出版)、『store』(光琳社)、『ゆめみらい』 (ベネッセコーポレーション)、『ku:nel』(マガジンハウス)、『FOIL』(リトルモア)などのアートディレクションを担当。2004年『100 の指令』(日比野克彦著/朝日出版社)で第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。 |