前回に引き続き、有山達也氏が手がけた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では「和物篇」と「洋物篇」が同時発売された書籍『鹿島茂の書評大全』(毎日新聞社)をピックアップ。
第3話 落ち着いた佇まいの装丁
すべての本を派手な雰囲気に
仕上げればいいわけではない
──今回ご紹介いただく書籍の装丁はどのようにデザインしていったのでしょうか。
有山●これは単純な発想です。「和物篇」は縦組みで「洋物篇」は横組みにして違いを出しています。ただ遠目で見たときには、それほど違いが気にならず、兄弟本として認識できるようにしています。
──その意図どおり2冊を並べたときに関連のある本に見える佇まいになっていますね。
有山●とはいえ、同時に異なる2冊であることも感じさせなければならないので、色によって大きく区別しました。
有山●これは単純な発想です。「和物篇」は縦組みで「洋物篇」は横組みにして違いを出しています。ただ遠目で見たときには、それほど違いが気にならず、兄弟本として認識できるようにしています。
──その意図どおり2冊を並べたときに関連のある本に見える佇まいになっていますね。
有山●とはいえ、同時に異なる2冊であることも感じさせなければならないので、色によって大きく区別しました。
──対になった2冊の本を、金と銀で色分けすることも多いですが、それよりは落ち着いた仕上がりですね。
有山●金と銀を使ったとしたら、この本の性格から大きく外れてしまうでしょう。金・銀の場合には読者に対して瞬発的な魅力が生まれ、一過性の雰囲気が強まるでしょうが、そこまで派手にする必要はありませんし、この媒体には合わないと感じたのです。これだけの面積で金や銀を刷ると、目立ちはしますが、書店での命は長くないように思います。
──派手すぎると本が持つ普遍性は弱くなるかもしれませんね。
有山●派手な本を否定しているわけではなく、媒体によって必要となる佇まいは異なるということです。この本の場合には、そのような雰囲気が合わなかった。それと僕はデザインする際に、書店でなく家の棚に並べられた風景もイメージするんです。そのようなことを考えてみても、やはり金・銀ではないほうがいいと思います。
──書店での見栄えを考慮すべきと言われることは多いと思いますが、それだけでなく家に置いたときの状況も考えているのですか。
有山●本屋に置かれたときに、どう見えるかを考えることは大切ですが、出版社の営業担当が考えるような見え方については僕は気にしません。本当に良い本であれば地味であっても書店は売ってくれるものですから。
──カバー以外の紙などについては、どう選んでいったのでしょうか。
有山●カバーや帯などの外回りと見返しやスピンの色は、基本的に近い色でまとめてあります。それに合った色のラインナップがある素材から選んだので、あまり迷うことはありませんでした。
有山●金と銀を使ったとしたら、この本の性格から大きく外れてしまうでしょう。金・銀の場合には読者に対して瞬発的な魅力が生まれ、一過性の雰囲気が強まるでしょうが、そこまで派手にする必要はありませんし、この媒体には合わないと感じたのです。これだけの面積で金や銀を刷ると、目立ちはしますが、書店での命は長くないように思います。
──派手すぎると本が持つ普遍性は弱くなるかもしれませんね。
有山●派手な本を否定しているわけではなく、媒体によって必要となる佇まいは異なるということです。この本の場合には、そのような雰囲気が合わなかった。それと僕はデザインする際に、書店でなく家の棚に並べられた風景もイメージするんです。そのようなことを考えてみても、やはり金・銀ではないほうがいいと思います。
──書店での見栄えを考慮すべきと言われることは多いと思いますが、それだけでなく家に置いたときの状況も考えているのですか。
有山●本屋に置かれたときに、どう見えるかを考えることは大切ですが、出版社の営業担当が考えるような見え方については僕は気にしません。本当に良い本であれば地味であっても書店は売ってくれるものですから。
──カバー以外の紙などについては、どう選んでいったのでしょうか。
有山●カバーや帯などの外回りと見返しやスピンの色は、基本的に近い色でまとめてあります。それに合った色のラインナップがある素材から選んだので、あまり迷うことはありませんでした。
──見返しで使用されている紙は、とても特徴的な風合いですね。
有山●カバーがフラットな色味なので、見返しもベタッとした印象の紙では淡白過ぎると思ったのです。そこで、少しだけテクスチャのある紙を選んで、ニュアンスを付けることにしました。
有山●カバーがフラットな色味なので、見返しもベタッとした印象の紙では淡白過ぎると思ったのです。そこで、少しだけテクスチャのある紙を選んで、ニュアンスを付けることにしました。
──天の処理も印象的ですね。
有山●これは仮フランス装で、天はアンカットのままにしてあります。天をカットしないのは、仮フランス装のひとつの特徴ですが、きちんとカットすることも可能です。ここに関しては、特にこだわりがあったわけではなく、どちらでも成立すると考えていたので、編集部の判断にお任せしました。
有山●これは仮フランス装で、天はアンカットのままにしてあります。天をカットしないのは、仮フランス装のひとつの特徴ですが、きちんとカットすることも可能です。ここに関しては、特にこだわりがあったわけではなく、どちらでも成立すると考えていたので、編集部の判断にお任せしました。
──色味のほかにもカバーで工夫した点はありますか? 使用書体に関してはいかがでしょう。
有山●割と全体のデザインが平坦な感じなので、少しアクセントを付けるためと、文節ごとの見え方にメリハリを付けるために、複数の書体を組み合わせて使っています。ただ、パッと見たときには、あまり多くの書体を使っていることを感じさせないように配慮しています。
有山●割と全体のデザインが平坦な感じなので、少しアクセントを付けるためと、文節ごとの見え方にメリハリを付けるために、複数の書体を組み合わせて使っています。ただ、パッと見たときには、あまり多くの書体を使っていることを感じさせないように配慮しています。
──具体的にはどのように書体の組み合わせを決めたのでしょうか。
有山●たとえば「の」の文字はポイントになると思ったので、そこを少し弱めて区切りを付けました。また「篇」を少し小さく細めに扱うことによって、「和物」「洋物」の文字の見え方を強めています。
──なるほど。ひとつひとつの処理に明確な意図があるのですね。
有山●それ以外にも、この本の場合、書名の中にも著者名が含まれるため、「鹿島茂」の文字が2回出てくるのが特徴でした。この文字を同じ土俵に乗せてしまうと、少しクドく感じられたので異なる色面上に配置しました。派手なコンセプトがあるわけではありませんが、ちょっとしたことの集積でアクセントを付けながら、このようなカバーに仕上げたのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
有山●たとえば「の」の文字はポイントになると思ったので、そこを少し弱めて区切りを付けました。また「篇」を少し小さく細めに扱うことによって、「和物」「洋物」の文字の見え方を強めています。
──なるほど。ひとつひとつの処理に明確な意図があるのですね。
有山●それ以外にも、この本の場合、書名の中にも著者名が含まれるため、「鹿島茂」の文字が2回出てくるのが特徴でした。この文字を同じ土俵に乗せてしまうと、少しクドく感じられたので異なる色面上に配置しました。派手なコンセプトがあるわけではありませんが、ちょっとしたことの集積でアクセントを付けながら、このようなカバーに仕上げたのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第4話は「装丁に用いるイラスト」について伺います。こうご期待。
有山達也(ありやま・たつや) 66年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年間勤務。93年アリヤマデザインス トアを設立。94年『マルコポーロ』(文藝春秋)にデザイナーとして参加。以後、『ERiO』(NHK出版)、『store』(光琳社)、『ゆめみらい』 (ベネッセコーポレーション)、『ku:nel』(マガジンハウス)、『FOIL』(リトルモア)などのアートディレクションを担当。2004年『100 の指令』(日比野克彦著/朝日出版社)で第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。 |