この数年、活況を呈する再発CDの世界。紙ジャケット、リマスタリング、レア音源のボーナス・トラック……と、マニア心をくすぐる復刻アイテムに気もそぞろな音楽ファンが多いのではないでしょうか? 今回のザ・対談では、そうしたリイシュー盤の制作に携わる二人の“達人”に登場いただき、ジャケットの再現に隠された苦労など、デザイン業界人も「そうなのか!」と興味を抱くようなお話をうかがいました。
第2話 復刻CDという魔境
吉田格さん(左)と、土橋一夫さん(右)
洋楽が「お手本」だった
──土橋さんがリイシューを手がけようとしたのは、どういうきっかけで?
土橋●もともと僕はレコード会社に勤めていたんです。テイチクなどで営業から販促、制作をやってました。で、たまたま機会があって10数年前から雑誌などで原稿を書かせてもらうようになり、独立した後も経験を活かせるのは再発の監修だったり音楽の制作だったわけですね。
──最初に手がけたのは?
土橋●テイチク時代は「ブッダ/カーマストラ」や「Del-Fi」など洋楽レーベルに関わってました。その後に邦楽セクションに移ったんですけど、当時はあくまでもレコード会社のスタッフなりディレクターという販促や制作の立場での仕事でした。本格的な監修はその後、会社を辞めてから細野晴臣さんのレーベル「ノンスタンダード」の再発が最初ですね。テイチク時代の昔の上司から「お前、好きだったからやらないか?」と言われて、11タイトルを監修しました。
──吉田さんは?
吉田●いまの部署に来てからです。その前はアイドルやバンドなど邦楽の制作畑で、GT musicに移って4〜5年。その間『GOLDEN☆BEST』シリーズを作るようになって、個人的にファンだった麻田浩さん、作家として付き合いがあったコモリタミノルくん、26年前自分が担当だったシネマの旧譜に未発表曲を併せて2枚組ベストにしたり。単体の復刻では、糸井重里さんの『ペンギニズム』などを手がけています。
──GT musicが注目されるようになったのは、2003年から始まったYMO関連の再発だと記憶してますが。
吉田●その以前、社内に「レガシー」という洋楽レーベルがあって、盛んにリイシューをしていたんですね。サンタナの『ロータスの伝説』とか、面白いジャケットを完全復刻して賞をもらったり、欧米からのオファーも多かった。そのノウハウを横で見ていたので、当然、国内盤もそういう形で流用できるかと。
土橋●洋楽は早かったですよね。
吉田●誰もが感じていることだと思いますが、アナログ盤が廃れちゃって、いまダウンロード時代でも「昔のパッケージよかったよね」というものを再現したくなる。もちろんCDでサイズは小さくなりますが、やるなら完璧にやりましょう……と。そこで土橋さんみたいに紙ジャケの達人がいて(笑)。
──個人的に「これすごい」と思ったリイシューは?
土橋●いろいろありすぎて絞れない(笑)。でも、長門芳郎さんがユニバーサルの「名盤の殿堂」やBMGの「パイド・パイパー・デイズ」というシリーズなんかで、洋楽を復刻されてますよね。その様子を身近で見させてもらって、影響を受けている部分が大きい。長門さんには「やるからにはここまでやらないとダメだ」って教えられましたから。あとは岩本晃市郎さんからの影響も大きいですね。
吉田●結局、そのへんの権化は大瀧詠一さんなんですよ。自分の作品をその都度、手を加えながらリイシューしているわけで(笑)。
土橋●ナイアガラは毎回、聴くたびに微妙に音が変わってますよね。中にはミックス違いやら別テイクやら……僕は『ロング・バケイション』からこの世界に入った人間なので、やっぱり大瀧詠一さんは一番の師匠ではありますね。
吉田●僕は学生の頃、ウェストコーストが大好きで。ジャクソン・ブラウン、ジェシ・コリン・ヤング……音だけではなくて言葉のメッセージが半端じゃなかった。だからライ・クーダーの紙ジャケとか、全部買いました。当時のアナログ盤も捨てられなくて持ってますが、どうしてもCDで新たに買い直してしまう。
土橋●あと、僕はプログレとかあまり聴かないからよく知りませんが、あのジャンルには特殊ジャケットがたくさんあるじゃないですか。ああいうのが好きな人は、最近の復刻状況は嬉しいでしょうね。
土橋●もともと僕はレコード会社に勤めていたんです。テイチクなどで営業から販促、制作をやってました。で、たまたま機会があって10数年前から雑誌などで原稿を書かせてもらうようになり、独立した後も経験を活かせるのは再発の監修だったり音楽の制作だったわけですね。
──最初に手がけたのは?
土橋●テイチク時代は「ブッダ/カーマストラ」や「Del-Fi」など洋楽レーベルに関わってました。その後に邦楽セクションに移ったんですけど、当時はあくまでもレコード会社のスタッフなりディレクターという販促や制作の立場での仕事でした。本格的な監修はその後、会社を辞めてから細野晴臣さんのレーベル「ノンスタンダード」の再発が最初ですね。テイチク時代の昔の上司から「お前、好きだったからやらないか?」と言われて、11タイトルを監修しました。
──吉田さんは?
吉田●いまの部署に来てからです。その前はアイドルやバンドなど邦楽の制作畑で、GT musicに移って4〜5年。その間『GOLDEN☆BEST』シリーズを作るようになって、個人的にファンだった麻田浩さん、作家として付き合いがあったコモリタミノルくん、26年前自分が担当だったシネマの旧譜に未発表曲を併せて2枚組ベストにしたり。単体の復刻では、糸井重里さんの『ペンギニズム』などを手がけています。
──GT musicが注目されるようになったのは、2003年から始まったYMO関連の再発だと記憶してますが。
吉田●その以前、社内に「レガシー」という洋楽レーベルがあって、盛んにリイシューをしていたんですね。サンタナの『ロータスの伝説』とか、面白いジャケットを完全復刻して賞をもらったり、欧米からのオファーも多かった。そのノウハウを横で見ていたので、当然、国内盤もそういう形で流用できるかと。
土橋●洋楽は早かったですよね。
吉田●誰もが感じていることだと思いますが、アナログ盤が廃れちゃって、いまダウンロード時代でも「昔のパッケージよかったよね」というものを再現したくなる。もちろんCDでサイズは小さくなりますが、やるなら完璧にやりましょう……と。そこで土橋さんみたいに紙ジャケの達人がいて(笑)。
──個人的に「これすごい」と思ったリイシューは?
土橋●いろいろありすぎて絞れない(笑)。でも、長門芳郎さんがユニバーサルの「名盤の殿堂」やBMGの「パイド・パイパー・デイズ」というシリーズなんかで、洋楽を復刻されてますよね。その様子を身近で見させてもらって、影響を受けている部分が大きい。長門さんには「やるからにはここまでやらないとダメだ」って教えられましたから。あとは岩本晃市郎さんからの影響も大きいですね。
吉田●結局、そのへんの権化は大瀧詠一さんなんですよ。自分の作品をその都度、手を加えながらリイシューしているわけで(笑)。
土橋●ナイアガラは毎回、聴くたびに微妙に音が変わってますよね。中にはミックス違いやら別テイクやら……僕は『ロング・バケイション』からこの世界に入った人間なので、やっぱり大瀧詠一さんは一番の師匠ではありますね。
吉田●僕は学生の頃、ウェストコーストが大好きで。ジャクソン・ブラウン、ジェシ・コリン・ヤング……音だけではなくて言葉のメッセージが半端じゃなかった。だからライ・クーダーの紙ジャケとか、全部買いました。当時のアナログ盤も捨てられなくて持ってますが、どうしてもCDで新たに買い直してしまう。
土橋●あと、僕はプログレとかあまり聴かないからよく知りませんが、あのジャンルには特殊ジャケットがたくさんあるじゃないですか。ああいうのが好きな人は、最近の復刻状況は嬉しいでしょうね。
左:麻田浩『GOLDEN☆BEST』(2004年/GT music/2980円)
ナッシュビルで録音された、シンガーソングライター浅田浩の名盤『GREETING FROM NASHVILLE』(1972年作)に、
シングル・バージョンやキャラメルママとのセッションなど未発表音源を収録した2枚組
中:シネマ『GOLDEN☆BEST』(2006年/GT music/2980円)
松尾清憲、鈴木さえ子、一色進、小滝満、錦織幸也による、70年代後半〜80年代に活躍した伝説グループのベスト盤。
1stアルバム『モーション・ピクチャー』を中心に、未発表音源やライブ音源を収録。ちなみに現在、26年ぶりの新作を準備中
右:糸井重里『ペンギニズム』(2006年/GT music/2310円)
ボーカリスト=糸井重里による、1980年発表のオリジナル・アルバム。
鈴木慶一、細野晴臣、矢野顕子、梅林茂、加瀬邦彦、沢田研二ら豪華メンバーが作曲参加
ナッシュビルで録音された、シンガーソングライター浅田浩の名盤『GREETING FROM NASHVILLE』(1972年作)に、
シングル・バージョンやキャラメルママとのセッションなど未発表音源を収録した2枚組
中:シネマ『GOLDEN☆BEST』(2006年/GT music/2980円)
松尾清憲、鈴木さえ子、一色進、小滝満、錦織幸也による、70年代後半〜80年代に活躍した伝説グループのベスト盤。
1stアルバム『モーション・ピクチャー』を中心に、未発表音源やライブ音源を収録。ちなみに現在、26年ぶりの新作を準備中
右:糸井重里『ペンギニズム』(2006年/GT music/2310円)
ボーカリスト=糸井重里による、1980年発表のオリジナル・アルバム。
鈴木慶一、細野晴臣、矢野顕子、梅林茂、加瀬邦彦、沢田研二ら豪華メンバーが作曲参加
手間を惜しまずどこまでやるか
──かつて、ソニーで「CD選書」というシリーズがありましたよね。振り返ると、いまに至る復刻モノの原点だったのではないかと思うのですが。
土橋●確かに、あのシリーズで昔の音源を初めてCDで聴けたものがありましたね。
吉田●ただ、音が悪かった。そういう評価はわかりますが、やっぱり何か欠けていたんですよ。価格は安かったし、カタログ多かったけれど、ジャケットも完璧じゃなかった。
土橋●ライナーがなかったり。
吉田●歌詞カードも、そのまま投げ込んでいましたから。
──あの頃の再発ジャケットは、現物の写真複写ですか?
土橋●そうです。だからピンが甘いし、色調も変な場合が多かった。で、誤植もそのままだったり。あと薄型ケースでスリーブを折っていたから、ブックレットのオリジナル復元ができなかった。本当にコアなリスナーには不満が残りましたね。
吉田●余談ですが、五輪真弓さんがCD選書で自分が持ってなかったアルバムを買われたときに「最悪の音でがっかりした」と怒られたんですよ。じゃあ、紙ジャケで復刻するときはSACDでマスタリングしますから……と約束して。どこかのタイミングで出そうと思ってますが。
──ジャケットのフィルムが残ってるのは、いつぐらいからですか?
土橋●基本的には、ないですよね?
吉田●ええ。アーティストによっては残してある場合もありますが、それも表1のポジだけとか。他はどうしても現物からですね。
土橋●あとはもう、印刷所の製版に回して「忠実に」としか言いようがなかった。それが特にこの5年ぐらいは、かなりの部分が比較的簡単にコンピュータで処理できるようになって。
吉田●なんとでもできますからね。音もリマスターでだいぶ変わるようになった。
土橋●それ以前と比べると全然違いますよね。だからこそ、手間を惜しまずどこまでやるかが問題。それで出来は変わりますから。
──クレジットとか、綿密に掘り起こすと大変なことも?
土橋●やるからにはコンプリートを目指さないと。結構、参加しているのにクレジットが抜けている方もいるんです。聴いてみるとアコギが入っているのにクレジットされていないとか、そういうのは全部調べ直して修正します。ちなみに杉さん、ビクター時代に自分の名前が間違えられていたんですよ。
吉田●ハハハ。
土橋●『スインギー』の裏ジャケで、真理が「真道」になってて。それがずっとコンプレックスだったそうで、今回のリイシューで初めて修正できました。
今年3月、紙ジャケで再発された杉真理のバンド名義によるデビュー&2ndアルバム。
左:マリ&レッド・ストライプス『Mari & Red Stripes』(1977年作)
右:杉真理&レッド・ストライプス『SWINGY』(1978年作)
監修を務めた土橋さんが「ずっと出したかった2枚。ようやく念願が叶いました」と語るように、
竹内まりや、安部恭弘、青山純、新井田耕造ら豪華メンバーが参加した70年代ポップス史に残る隠れた名盤。
1990年に一度CD化されていたが、ジャケット裏の誤植などは修正されていなかった。
今回の再発では厳密なリサーチのもと、シングル&デモバージョンなどボーナストラックを収録。
オリジナルの歌詞カード復元、関係者による寄稿を含む充実のライナーノーツを封入
(24bitデジタル・リマスター/完全生産限定盤/各2500円/ビクターエンタテインメント)
次週、第2話は「オトナに向けた市場の成熟」を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] |
よしだ・ただし●株式会社ソニー・ミュージックダイレクト勤務。Y's Room室長、および「GT music」チーフプロデューサー。 |