第4話 いかに次世代に繋げるか | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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この数年、活況を呈する再発CDの世界。紙ジャケット、リマスタリング、レア音源のボーナス・トラック……と、マニア心をくすぐる復刻アイテムに気もそぞろな音楽ファンが多いのではないでしょうか? 今回のザ・対談では、そうしたリイシュー盤の制作に携わる二人の“達人”に登場いただき、ジャケットの再現に隠された苦労など、デザイン業界人も「そうなのか!」と興味を抱くようなお話をうかがいました。


第4話 いかに次世代に繋げるか



杉真理、須藤薫の紙ジャケ


そろそろ危ないマスターテープの状態



──いま計画しているリイシューは?

吉田●太田裕美さんの紙ジャケを進めています。昨年、22年ぶりのオリジナル盤を出しましたが、何かやっておかないと次のアルバムまで時間かかるので。だとしたら、いま廃盤になっているアルバム、全部で19枚を出そうと。

土橋●僕はまず杉真理さんのソニー時代の残り、後半6枚ですね。あと、伊藤銀次さんの1stアルバム『デッドリィ・ドライブ』や、杉真理さんたちと共にBOXで活躍する小室和幸さんが在籍したセイル・アウェイの唯一のアルバム、須藤薫さんのハミングバード時代の3枚のアルバムなどを来年2月に発売します。また、洋楽では「ジャケガイノススメ」シリーズも新たなメーカーも加えて、さらにリリースする予定です。

吉田●銀次さんのワーナーの音源(1st)は、今回一緒に出せなかったんですね。

土橋●ええ。でも、あの作品はいまリマスタリングしたら、絶対いい音になる自信があるので、ボーナス・トラックを含めてきちっと復刻したいと思って。

──70年代の掘り起こしも、相当進んだようですが。

土橋●近年、こうした作業をしていて改めて実体験としても感じたのですが、そろそろマスターテープの状態が危ないんですよ。デジタル・リマスターって、基本はオリジナルのアナログ・マスターテープから起こすのですが……。

吉田●古いものはテープが張り付いている。だから一旦オーブンにかけて、傷つかないように熱処理するのですが、保管の状態がいいか悪いかで音が変わってくる。

土橋●そもそも70年代のテープ、30年後にリマスターされることを念頭に作っているわけではないんですよね。テープの寿命や保管状況に加え、その年のテープの銘柄によって出来不出来があって。

──ワインみたいですね(笑)。

土橋●ええ。でも、ダメなものはダメ。一回でもCDになっていればデジタル・マスターに一度起こされているので、最悪そこからとりますが……そういうことを考えると、古いものは早目にやっておかないと。

吉田●確かに、そういう危機感はありますね。

土橋●大瀧詠一さんがアニヴァーサリー・エディションとして積極的にデジタル・リマスター盤を出されているのも、それが最初の理由になっているのではないかと思って。自分で録ったものを、自分の手できちんとまとめておこうと。

吉田●まあ、そうでしょうね。テレコ自体、デジタルのマルチがないですから。マスターを持っていても、それを再生するものがなくなってきている。で、次に聴けるものを……と考えると、不安に思うところもあるでしょう。だから、次のシステムで再生していこうと。

──そうした姿勢は、アナログからCDへの転換期から一貫してますね。

吉田●僕自身も制作を始めた頃は、こんなに進化するとは思わなかった。いまの若い人はコンピュータから入っているから、アナログの処理の仕方とかわからないんですよ。

土橋●デザインも一緒です。ロットリングで線を引いたことのある人も、段々いなくなってきたりするから。一度びっくりしたのは、以前若いデザイナーに仕事を発注したら、ロットリングじゃなくてボールペンでトンボ引いてて(笑)。


伊藤銀次『BABY BLUE』伊藤銀次『SUGAR BOY BLUES』伊藤銀次『STARDUST SYMPHONEY 65-83』伊藤銀次『WINTER WONDERLAND』

伊藤銀次『BEAT CITY』伊藤銀次『PERSON TO PERSON』伊藤銀次『LOVE PARADE』伊藤銀次『POP STEADY #8』

GT musicから一挙8タイトルが紙ジャケ再発されたばかり、伊藤銀次のアルバム。
上段左より:BABY BLUE(1982年作) SUGAR BOY BLUES(1982年作) STARDUST SYMPHONEY '65-'83(1983年作) WINTER WONDERLAND(1983年作)
下段左より:BEAT CITY(1984年作) PERSON TO PERSON(1985年作) LOVE PARADE(1993年作)
POP STEADY #8(1984年作)
24bitデジタル・リマスター/完全生産限定盤/各2500円/ソニー・ミュージックダイレクト
詳しい情報は、アーティスト・インフォメーションをご覧くださ

名作を「最高の技術」で残したい



──最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

吉田●繰り返しになりますが、オリジナル作を出し続けることによって、ヒットする人もいるじゃないですか。昔と同じ立ち位置でも、ちょっと間を置くことで忘れられる人もいるから、僕らは作り続けることをお手伝いしたいと思うんです。そのための復刻であり、コンサート会場の即売など積み重ねで売っていくのが大事。あとは僕自身、そうしたアーティストみんなでコラボレートしたものが作れたらいいなと。

土橋●僕は再発することによって、その時代を知ってる方が喜んでくれるのはもちろんですが、新しい世代の方に聴いてもらいたいという気持ちが大きい。ただモノがあって音が聴けるだけだと、そのミュージシャンがどういう人で、どういう背景で活動してきたのか伝わりづらいところもある。これから入ってくる若い人にも、門戸は広く開けておきたいんです。そのために過去の経歴、現在の活動に言及したライナーなり、ボーナス・トラックなりを、ちゃんとした形で提示できるものを今後も作っていきたいですね。それをやらないと、次の世代に繋がっていかないという危機感もあるので。

吉田●ジャケットもそうですが、僕らが手がけている復刻モノは音自体、きちんと時間をかけて作っているものですよね。安い予算でチープな作りでなく、すごくゴージャスな作りをしている。それは、やはり若い世代に聴いてもらいたい。本当の音はこれだけ奥行きがあるし、考えられたものだよって。いま誰でも音楽を作れる時代になって、このへんの音が聴かれなくなってるのは事実なので、ちゃんと送り届けたい。

土橋●そうですね。宅録なりプロトゥールスを使って簡単に録れるのはいいことですが、ちゃんとしたスタジオやマイクを使って、きちんと録ることを体験していない若いミュージシャンが多い。それはすごく不幸なこと。だからこそ、かつての時代はこういう録り方をして、結果こういう音やパッケージになっているということを、いまの最高の技術で残しておきたいと思うんです。


『ポップ・ラウンド・ザ・ワールド』須藤薫&杉真理
『POP 'ROUND THE WORLD』須藤薫&杉真理
2007年11月21日発売/ソニー・ミュージックダイレクト(3000円)
1999年から2000年にかけて、ユニット名義で発表した3枚のミニ・アルバム
『ロマンティック天国』『君の物語』『最後のデート〜Last Rendezvous』を
1枚にコンパイル。さらに新曲、未発表ライブ・テイクを加えた
デジタル・リマスター盤&紙ジャケ仕様(初回限定)


*杉真理、待望のニューアルバムは来年早々、
ユニバーサルよりリリース予定。レコーディング快調!

『CINEMA RETURNS』シネマ
『CINEMA RETURNS』シネマ
2007年12月5日発売/ソニー・ミュージックダイレクト(3000円)
鈴木慶一プロデュースにより1980年にデビューしたバンド、26年ぶりの新作。
メンバー(松尾清憲、鈴木左衛子、一色進、小滝満、錦織幸也)の他、
ディレクター、プロデューサー、メーカー(CBSソニー→SMDR GTmusic)も変わらず、
キラキラ&ゴージャス&泣きの“80年代ウルトラポップ
がいま蘇る。
ゲスト・ミュージシャンに、ルイ・フィリップ、堂島孝平らが参加。
ジャケットのイラストは久保周史氏


今回で「紙ジャケ復刻という愉楽」は終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



土橋一夫さん

[プロフィール]
どばし・かずお●1966年埼玉県生まれ。テイチクなどのレコード会社勤務を経て、有限会社シャイグランス代表となる。すみやフリー・マガジン『Groovin'』編集長、文筆業、CD制作・リイシュー監修、ラジオ番組の構成・パーソナリティなど多彩に活動中。音楽をデザインする集団「サーフズ・アップ・デザイン」の主幹として、アート・ディレクション/書籍の企画・制作なども手がけている。

http://www.geocities.jp/back_to_mono_prod/


吉田格さん

よしだ・ただし●株式会社ソニー・ミュージックダイレクト勤務。Y's Room室長、および「GT music」チーフプロデューサー。

http://www.110107.com



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